【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(134)中国の豚肉輸入過去最高に、そして次の競争が始まる2019年6月7日
2019年の中国の豚肉輸入は過去最高水準が見込まれている。その原因は、旺盛な国内需要だけでなく、アフリカ豚コレラ(ASF:African Swine Fever)の蔓延によるところが大きい。世界最大の豚肉生産国であり消費国、そして輸入国でもある中国の動向は、豚肉の国際貿易という点だけでなく、潜在市場の獲得戦略という点からも目が離せない。
米国農務省の資料によると、2018年の世界の豚肉生産量(枝肉重量ベース)は1億1308万tであり、中国は5404万tと全体の48%を占めている。第2位はEUの2430万t(21%)、第3位は米国の1194万トン(11%)で、上位3か国・地域で全体の80%を占める、いわば超寡占市場とも考えられる。
中国は2015年には5645万tの豚肉を生産し、過去3年間は概ね5400万t水準で推移していたが、2019年4月の生産量見通しでは4850万tと前年比▲10%の減少が見込まれている。この結果、世界の豚肉生産量も2019年には1億849万tへと▲4%減少する模様だ。
よく知られているように、中国における豚肉は主食の1つであり、極めて重要な食材である。そのため、中国政府は豚肉の生産と供給にはかなり神経を使っている。具体的には、基本、豚肉は国内自給という立場を崩していないことだ。過去の豚肉輸入数量を見ても、100~200万t水準と、極めて限られた数量に留めている。
ちなみに、世界の豚肉貿易(輸入)数量は2018年で791万tであり、最大の輸入国は中国156万t、次いで日本148万t、メキシコ112万tと、上位3か国で52%を占める。中国のシェアは20%、2016年以降の中国は継続して世界最大の豚肉輸入国でもある。そして、輸出国はEUが293万t、米国が267万tでありこの2者で約7割を占めており、こちらも熾烈な輸出競争が行われている。
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さて、話を中国におけるASFに戻そう。
この感染症の蔓延により、2019年の中国の豚肉生産量は前年比▲10%となることは先に述べた。国内では感染防止に必死だが、なかなか状況は厳しいようだ。やや古いが2019年4月8日時点で発生は123か所、ほぼ全土に及んでいると伝えられている。
最終的にどの程度の被害・損失が出ているのかを試算した資料はまだないが、重要なポイントは、昨年秋の時点と比べて母豚数が▲19%、豚全体でも▲17%という点であろう。母豚数の減少は子豚の供給減少につながる。それは今年度だけでなく、来年以降にも深刻な影響、つまり生産量の継続的減少を及ぼすことを意味している。
そして、国内生産が減少すれば、その不足分を補う次の手段は輸入である。その結果、2019年の中国の豚肉輸入は過去最高の220万t水準に達するというのが米国農務省の見方である。2015年以降5年間の中国の豚肉輸入数量は、103万t、218万t、162万t、156万t、そして現在の見通しが220万tである。今後の状況次第だが、この数字はさらに上方修正される可能性もある。問題はこれをどうとらえるかだ。
実際、輸入200万t水準は過去にもあった(2016年の218万t)が、総需要が大きい国だけに国際豚肉市場に与える影響は大きい。EUと米国は、当然この機会に中国への輸出を拡大しようと考えるし、輸出量第3位のカナダ(2019年の見通し139万t)や第4位のブラジル(同90万t)も虎視眈々と狙っている。
※ ※ ※
一般に、市場シェアの目標値の中で、最初に目指すべき橋頭保シェアは約3%である。中国5000万t、輸出国にとってほぼ未開拓の豚肉市場に橋頭保を築くためには3%=150万tが必要になる。現在、EUも米国もこれを確保できてはいない。何せ輸入総量がこのレベルだからだ。恐らく中国側もそれは充分に理解しているであろう。
総需要のわずか1%を取れただけでも50万tということを考えれば、中国豚肉市場をめぐる本格的な市場獲得争いはASFとその後の対応を機会に、今後各国が益々戦略を競う場になることは間違いない。日本の豚肉輸出戦略はここにどう食い込むかが問われることになる。
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