(433)「エルダースピーク」実体験【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年5月2日
先日、図らずもエルダースピークを実体験しました。「なるほど」と思う反面、いろいろ考える機会となりました。
事の発端は、忘れていた医療機関への電話予約である。最初は普通のトーンで会話が始まった。診察券番号と名前を伝え、先方が患者を検索し、氏名と「年齢」が確認できたのであろう。会話のトーンが突然エルダースピークになった。
エルダースピーク(elderspeak)とは、高齢者や認知症などの方に対して使用される話し方のひとつであり、小さい子どもに対する話し方や過剰な親しさ・優しさ、場合によっては幼稚な言葉や、大げさなほめ方・相槌、やや高圧的な口調での話し方などである。筆者は医療関係者ではないため、誤解があるかもしれないが、その場合はご容赦願いたい。
介護や医療機関などの現場では物理的のみならず心理的な優しさは重要な要素である。だが、それが適切なレベルを超えると受ける方は「押しつけ」になり、場合によっては相手を傷つけ、不愉快にさせるような結果にもなりかねない。
今までは、たまたま遭遇した医療機関などで傍観者としてエルダースピークを聞いたことはあったが、直接自分に向けられたことはほとんどなかった。今回の電話は、相手が受診記録を見て対応してくれたことと、予約失念理由を聞かれた際、少し考慮して間が空いたため、年齢的にも途惑う印象を与えたのかもしれない。次の返答を受けたときには一瞬、半世紀以上タイムスリップしたような気分を味わった。
いずれにせよ、貴重な機会だと思い日程調整から次回検診の内容まですべて相手に合わせて会話を続けてみた。お互い顔が見えないのはこういう時は便利である。
* *
さて、以下はあくまで感想である。正直に言えば「いやあ、参った!」である、また、「そうか、客観的に判断されると自分もそういう年齢になったか」でもある。さらに言えば、会話というコミュニケーションは、相手とタイミング、そして内容と「表現」を選ばないと大変だな、という点を今更ながら再認識した。仕事上、何事も客観視するような習性が身についていなければ、思わず怒りが出たかもしれない。
少し調べて見ると、BPSDという用語を見つけた。これはBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で「認知症の行動・心理症状(兆候)」と訳すことができる。内容はさまざまだが、要は身体的、環境的、心理的なさまざまなストレスが要因になるという。手足が動かないなどの身体的不調はわかりやすいが、日常生活における小さなストレスなども含まれるとすれば、何気ない会話も重要な要素のひとつであろう。
筆者自身は数分のエルダースピークによる会話をかなり苦労して(可能な限り観察者としての自己を保ちつつ)楽しんだが、それとて結構な負荷がかかった。
先方の善意からの「優しさ」と「親切心」がかなり窮屈に感じるとしたらやはり問題である。今回は、電話という媒体の性質により双方の視覚情報が制限され、その場の「空気」を読めなかったという可能性もある。繰り返すが、恐らく先方に悪意は全くなく、年齢相応の対応をしてくれただけであろう。
より長い視点で見ると違う指摘もできる。もともと日本人は和歌や短歌・川柳など短い字句に深い思いを込め、間接的な表現で真意を伝えるなど、場の雰囲気を察する能力に関しては比較的得意であった。だが、生活習慣の変化により近年はより直接的な表現の方が優勢なのかもしれない。
SNSでのやりとりにおける「炎上」が時々話題になるが、それも短い字句に表現された内容の背景読み取りが難しいが故に生じると考えることもできるであろう。
そういえば、山本七平氏に『「空気」の研究』という名著があった。こんな事を思い出しつつ、子供に念押しするような言葉での予約日確認に素直に返答した次第である。
* *
形式だけではなく気持ちの上での相手への敬意(リスペクト)があると良いですね。
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