【小松泰信・地方の眼力】受験生をもてあそぶな2019年10月30日
 文化庁の2018年度「国語に関する世論調査」は、「憮然(ぶぜん)」や「砂をかむよう」などの意味の誤用が多いことを明らかにした。ドキッとした人も少なくないはず。当コラムも憮然として立ちつくした。
 では、萩生田光一文部科学相によって一躍時の言葉となった「身の丈」の意味は如何であろうか。実用日本語表現辞典によれば「衣服などが背丈、体の大きさにぴったり合っているさまなどを意味する語。転じて『分相応』という意味で用いられることも多い」とのこと。「分相応」とは、広辞苑によれば「身分や能力にふさわしいこと、また、釣り合っていること」。萩生田氏は、「自分の都合に合わせて」と、都合良く誤解されていたようだが。
◆「身の丈」発言の概要
 萩生田氏による「身の丈」発言とは、10月24日夜放送のBSフジ「プライムニュース」で氏が発したもの。大学入学共通テストに導入される予定の英語民間試験について、「お金や場所、地理的な条件などで恵まれている人が受ける回数が増えるのか、それによる不公平、公平性ってどうなんだ」と、コメントを求められ「それ言ったら、『あいつ予備校通っていてズルいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」と答えた。これが身の丈発言の核心部分。わざわざ「裕福な家庭の子」を持ち出している点が、氏の本音を語っている。
 さらに、聞き捨てならないのが、都市部の受験生と比べて経済的負担が大きくなる地方の受験生について、「人生のうち、自分の志で1回や2回は、故郷から出てね、試験を受ける、そういう緊張感も大事かなと思う」と語ったことである。
 試験は可能な限り同一条件で行わねばならない。そのための条件整備を放棄した人は、当該大臣として不適材者。
◆破綻している英語民間試験
 この英語民間試験の導入については、当初より「経済格差・地域格差」問題を含め、さまざまな問題点が指摘されていた。
 鳥飼久美子氏(立教大学名誉教授・通訳学)は、10月16日放送のNHK「視点・論点」で、その制度設計にある構造的欠陥を鋭く指摘している。その要点は、次のように整理される。
(1)民間試験は学習指導要領に従うことを義務付けられてはおらず、出題内容を公表しない。民間試験対策に追われることは公教育の破綻につながる。民間試験対策が高校教育をゆがめることになる。
(2)認定された民間試験は7種類あって、それぞれ目的や試験の内容、難易度、試験方法、受検料、実施回数などが違う。
(3)1回6000円くらいから2万数千円の受検料がかかる。最低でも2回で保護者の経済的負担は大きく、家庭の経済格差が影響する。また、地域によっては交通費や宿泊費がかかるなどの地域格差も生じる。加えて、障害のある受検生に対するキメ細かい配慮が準備されておらず、「障害者差別解消法」違反の疑いも指摘されている。
(4)どのような資格を持った人が、どこで、どう採点するのかを明らかにしていない事業者もあり、公正性や透明性が問題。
(5)パソコンやタブレットを使う場合、トラブルの発生は避けられない。「民間事業者等の採点ミスについて、大学入試センターや大学が責任を負うことは基本的には想定されません」が、文科省の見解。さまざまなリスクへの対応コストを民間事業者がどこまで負うのかが不明など、責任の所在が不明確。
(6)共通テストの一環である英語試験を実施しながら、問題集などを販売するといった、対策指導で収益を上げることの道義的責任問題。また、高校を会場にし、高校の教師が試験監督者となることも可能となっていることから生じる問題。
(7)「話す」ことを正確に評価するのは極めて難しい。「話す力」を入学選抜に使うのは無理がある。
 
◆受験生を受難者とするなかれ
 まさに問題だらけ。全国高等学校長協会も導入延期を求めている。そして、野党4党(立憲民主、国民民主、共産、社民)は24日、学校関係者や生徒らの理解を得られるまで利用を延期させる、いわゆる「民間英語試験導入延期法案」を国会に提出した。東京新聞(10月25日付)は、提出後の記者会見に同席した高校生から出された「不安ではなく不満、危機感が強い。この問題は政治的な競争ではない。与野党を問わず、しっかり審議してほしい」「(早い段階から試験対策に迫られ、学校行事などに参加できなくなるとし)私たちが大切にしているものと引き換えにするほどの意義があるのか」といった、率直な意見を紹介している。
 この試験、既に破綻している。にもかかわらず、29日の閣議後の記者会見で萩生田氏は、「さまざまな課題があるのは承知の上で取り組んできた。さらに足らざる点を補いながら、予定通り実施したい」と、性懲りもなく語っている。
 鳥飼氏の指摘を見れば、この試験は受験生を受難者とする欠陥だらけの代物。白紙に戻し、一から考え直すべきである。
 東京新聞(10月29日付)の「こちら特報部」において、寺沢拓敬氏(関西学院大学准教授・教育政策)は「延期さえできない理由が分からない」と首をひねり、「文科省の官僚も問題があることは分かっているはず」とした上で、「首相官邸レベルで意思決定がされていて、『やる』という枠が上からはめられ、やらざるを得ないのだろう」と語っている。
◆受験生を苦しめて、何を得るのか
 寺沢氏の指摘に「既視感」がある。登場人物も萩生田氏と来れば、加計学園問題しかない。
 加計学園の大学獣医学部新設に関する「10/21萩生田副長官ご発言概要」という文書には、「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」などと記されていた。内閣府職員が文科省職員に送ったメールには、萩生田氏と藤原豊氏が認可条件の案を「広域的に獣医学部が存在しない地域に限り」とするよう指示したことが示されていた。
 しかし文書の内容を全否定し、因縁深き文科省のトップとなる。加計学園の加計孝太郎理事長とも浅からぬ中という状況証拠があるにもかかわらず、「自分は関係ない」といえる輩ですから、どんなことでもやります、やらせます。
 そういえば、この共通テストに参加する「GTEC」は、ベネッセコーポレーションが実施している英語4技能検定。岡山市に本社を置くベネッセコーポレーションは、この試験制度をにらんで数年前から熱心に準備をしていた。かなりの投資をしてきたはず。ご近所には立派な指南役もいる。役者は揃っている。死に物狂いで実施圧力をかける、とはゲスの勘ぐりか。
 強引に実施されるというシナリオの前で、受験生側には、泣き寝入るのか、それとも受験生全員が当該テストを受けずに、民間英語試験制度そのものを無効化するのか、苦しい選択が突きつけられている。受験生を苦しめて、何を得るのか。萩生田!
 「地方の眼力」なめんなよ
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