コメ本上場非認可はコメ業界の安政の大獄なのか?それ以上か?【熊野孝文・米マーケット情報】2021年8月10日
8月5日に農水省7階大講堂で開催されたコメの本上場認可の意見聴取では、大阪堂島商品取引の中塚社長が所信表明として2回も幕末の賢候土佐藩の山内容堂が志士から「酔えば勤皇、覚めれば佐幕」と揶揄されたことを引き合いに、どっちを向いているのか分からない農水省の対応を痛烈に批判、「どうか農林水産省におかれましたは過ちがない判断を示されるよう心よりお願いする」と最後の訴えをした。
意見聴取では、はじめに農水省大臣官房新事業・食品産業政策課長が堂島から申請のあったコメの本上場認可申請について「円滑な流通に適合していない」とし、その理由として「基準に適合しいないと認められないうち主なものは、先物市場に参加している当業者の数が第3期から第5期にかけて横ばいであり、当業者の参加意向も増えておらず、当業者の利用が今後拡大できると確認できない。これらをはじめとして試験上場期間の取引の状況を総合的に判断した結果」とした。
これに対して堂島取は、コメの取引に参加する生産者は試験上場開始の第1期から現在に至るまで一貫して増加していると反論、取引参加の生産者数の推移を資料で示した。また、取引口座数について、平成25年当時は2486口座(うち、当業者は93口座)であったが、現在は3609口座(うち当業者は249口座)と大きく増えているとした。さらには、農水省が指摘する当業者の参加が少ないという見方については、建玉ベースで新潟コシの当業者割合は約5割を占めており、他の商品でこれほどまでに当業者割合が多い商品はなく、農水省の指摘は全く当たらないと反論した。加えて現物の受け渡しが多いこともコメ先物取引市場の特徴で、今年6月末までに3万0634トンが受け渡しされている実績も示した。
さらにはコメ産地の大規模生産者から「かねてよりコメ先物取引を活用している。足許では前期より取引量も増加しており、今回当然本上場になるものと見越して取り組んで来たところであり、今後コメ先物取引が利用できなくなるのは困る」といった意見が出ていることも紹介した。
つづけて2022年春には600万口座を持つ最大のネット証券会社が堂島取への接続を表明しており、この証券会社の口座数のうち2万2000口座は農林水産業の一次産業の従事者であることまで明らかにして、本上場が認可されれば当業者の参加が飛躍的に増大するという可能性も示唆した。
中塚社長は、戦後農政でのコメ政策の変遷に触れ、この中で食糧法改正により流通の自由化と価格形成の場も設けれた。ただ、主食であるコメの価格は国が安定を図るべきと言う考えと市場を活用すべきという考えが対立、混乱をもたらした。この有様を容堂候に譬えたのだが、コメ先物取引自体は、価格の形成は需給の実態、市場の予測を適格に反映したものであり、コメの円滑で公平な取引のために有益な情報を提供出来る市場であって、特に生産者の経営のために役立っているとした。マーケットを見ながら自らの判断で経営を行うことについて先物市場はその基盤の一部を提供し、コメ政策の方向性に沿ったものであると強調した。
また、大手企業や農協も本上場になったら使ってみたいというところもたくさんあり、市場参加者が増えることによって市場流動性が増し、使い易いマーケットに進化することを確信している。加えて海外金融法人を通じて海外からの資本発注も期待され、マーケットが進化して市場価格の信頼性が高まることは農産物の輸出振興という国策にも合致、コメの輸出事業の振興とコメの産業化へ向けて必要不可欠のものであるとした。
価格が乱高下するという根拠のない指摘に関しては、試験上場中10年間乱高下は見られず、本上場を果たして取引量が拡大しても堂島取は値幅制限や建玉制限など盤石な市場管理体制を敷いており、そうした可能性を否定した。
中塚社長が山内容堂候を持ち出したのは、今回の農水省の判断が安政の大獄級の非情な申し渡しであると捉えたためなのだろう。しかし今回の農水省の決定がその程度で済めば良いが、海外に目を移すともっと恐ろしいことが起きる可能性がある。
それは中国の大連商品取引所のジャポニカ種の取引高が1ヶ月で日本円にして2000億円を超えるまでになっていることで、もはやジャポニカ種の価格は中国で決まっていると言われても仕方ない状況になっている。以前にも指摘したが、大連商品取引所に新潟コシヒカリが共用品に加えられ、取引出来るようになったら日本のコメの価格は中国で決まることになるのである。
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