1万円割れで成約した銘柄もあった新米取引会【熊野孝文・米マーケット情報】2021年8月24日
8月20日に千葉市内のホテルで開催された新米取引会。コロナ禍の拡大で開催が危ぶまれたが、開催を望む米穀業者が多く、感染対策に万全を期して開催された。広い会場に場立ちを2人立てて、開始された取引会では、冒頭から地元千葉の集荷業者が3年産ふさこがね1等を置場9800円の売り声を上げ、波乱の幕開けになった。
取引会では、大きな声を出さなくて済むように場立ちを2名立て、場立ちを通して売り買いの競りを行うスタイルを取り入れて開始された。口火を切ったのは、千葉の集荷業者が、8月中渡し置場条件で千葉ふさおとめ1等1万200円、ふさこがね1等9800円、コシヒカリ1等1万800円で売り物を出したところ消費地の業者がふさこがねに買い声をあげ、即決で成約した。続いて千葉コシヒカリ1等8月27日まで渡し条件1万750円で3車の買い声が上がったのに対して、産地側が売り応じで成約した。さらに8月25日まで渡し条件でふさこがね9900円、同じくふさこがねに10月末まで渡し条件9500円で成約が続いた。8月中渡し条件では、ふさおとめが1万200円、千葉コシヒカリが1万700円で成約、9月10日まで渡し条件では千葉コシヒカリが1万500円、9月15日まで渡し条件では茨城あきたこまちが1万400円、9月中渡し条件では茨城コシヒカリが1万450円、10月末まで渡し条件では千葉コシヒカリが1万300円で成約した。あきたこまちは茨城県産が8月中渡し1万400円で決まるなど総計で6148俵が成約した。
事前の予想ではBランク米でも下値1万円が抵抗線になるのでは見られていたが、取引開始直後にその予想は覆され、あっさりと1万円を割り込んでしまった。こうした新米相場になった要因は、一向に解消する兆しがないコメ余り状況が続いていることで、農水省が3年産米の主食用米からの転換が進んだという見込数値を出したところでほとんど効果がなかった。
さらには地元農協が生産者に提示した3年産米の仮渡金や買取価格の安さが相場下落に拍車をかけた。具体的には千葉県内でも早期米の出荷が早いA農協では8月16日からの生産者仮渡金として、主力のコシヒカリは1等が7800円(60キロ玄米、紙袋、消費税込み・以下同)、ふさおとめ6400円、あきたこまち6400円、ふさこがね6000円、ひとめぼれ6000円、粒すけ6400円という価格を提示した。2等は300円減額、3等は1300円減額、一般米は全銘柄500円減額。一方、買取価格を提示したB農協は、8月23日までの買取価格としてふさおとめ1等1万50円(60キロ玄米、紙袋、消費税込み・以下同)、ふさこがね9850円、あきたこまち1万250円、ひとめぼれ1万50円、ヒメノモチ1万2550円になっている。2等は300円減額、3等は1300円減額。買取価格ではもっと安い価格を提示した農協もある。
C農協はコシヒカリ1万円、ふさおとめ8500円、ふさこがね8000円、あきたこまち8000円、粒すけ8500円を示した。くどいようだがこの価格は税込み価格である。
こうした価格を見た地元の集荷業者は「生産者は新米収穫の喜びが吹き飛んだ」と表現している。
新米相場がこれほどまでに下落した要因は他にもある。それは倉庫事情で、なにせ新米を入れるべき倉庫に空きスペースがないというのだ。最も驚いた事例は、集荷業者団体の自社倉庫は本来ならこの時期新米を搬入出来るように倉庫を空けてスタンバイしているはずなのだが、まったく空きがない。なぜなら2年産の所有権を移転した大手卸がその倉庫を借り切ってしまったからだという。
倉庫事情がひっ迫しているのは農協も同じで、農協の中には今頃消費地業者を自農協に招き、組合長を議長にした2年産米の販売対策会議を開くというところもあるのだから、いったいどうなっているのか首をかしげてしまう。そうした状況からとにかく新米を買ってくれる卸がいたら卸の言い値で売るという農協さえいる。
以前「余りものに値なし」という事態になりかねないと指摘したが、まさにそれが現実のものになりつつある。価格下落の差損を回避できる先物市場は閉鎖が決まり、リスクヘッジする市場はない。先物市場を閉鎖に追い込んだ勢力は、この事態をどう捉え、どう対策を打つつもりなのか? また巨額の税金をつぎ込んで「緊急買入対策」を行って、古米になっている政府備蓄米をエサに売却して、空いた分で3年産米を追加買入するつもりなのか? 生産者、流通業者、需要者、納税者が納得する対策をぜひ示してもらいたいものである。
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