(251)「コマーシャル・ファーム」と「レジデンス・ファーム」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年10月1日
昔から、他人の財布の中身をいろいろと詮索するのは野暮なことと言われています。それでも、気になる人には気になるようで…。少し米国の農家のことを見てみましょう。
米国の農家は1戸あたりどの程度の助成金をもらっているのか。このようなことを考えながら、記憶をアップデートしておこうと資料を探してみた。農務省の広報誌にちょうど良い記事が出ていたので内容を紹介する。
農務省が2019年に米国の農家に支出した金額は合計で148億ドルになる。1ドル=100円で計算すると、1兆4,800億円だが、ざっと1兆5,000億円と見ておけば十分である。
米国には197万の農場が存在するが全体の3割以上がこれらの助成金を受給している。単純に考えれば、1兆5,000億円を197万農場の3割、つまり約60万農場で割ると、1農場当たり250万円...となる(正確には24,623ドルなので、フェルミ推定ではないが、現場ではこうした計算が結構役に立つ)。
ところで、米国の農場の規模を判断する際にGCFIというものがある。これはGross Cash Farm Incomeの略であり、費用を差し引く前の農場の収入のことで、農産物の販売収入、農業関連収入、そして政府の農場プログラムによる支払いである助成金が全て含まれる。その中で今回の問題は助成金である。
お役所的には助成金はそれを受領するための要件が明確に決まっているため、米国政府が定める様々な要件に合致した農家がこれを受給できる。
農務省経済調査局によると、商業的農場(commercial farms)の約4分の3が何らかの助成金を受領し、平均は約8万5,000ドルのようだ。ここで言う商業的農場は先のGCFIが35万ドル超、つまり3,500万円超の大規模農場である。
助成金受給農場の約3分の1を占める中間的な農場の平均受給額は約1万2,000ドルである。さらに、日本語では家族農場と言い、英語でも一般的にはfamily farmsで良いと思うが、この記事では、residence farmsという表現を用いている。英語のresidenceは住居・住宅という意味のため、residence farmsとは文字通り、農家がそこに居住している農場である。このカテゴリーには、仕事を引退した後の余生としての農場(いわゆる引退農場)、あるいは農場経営以外に主たる仕事を持っているオペレーターがいる農場なども含まれる。こちらは約8千ドル、つまり年間約80万円を受給し、これが数の上では需給農場全体の約4分の1である。
さて、詳細は省くが、現在の米国農業法には助成金支出の仕組みが大別すると4つ存在する。(1)カウンター・サイクリカル・ペイメント、(2)マーケティング・ローン、(3)土壌保全、(4)その他、である。それぞれの詳細をここで述べる余裕はないが、要は米国の農家が助成金をもらおうと思えば、この四つの中のいずれか、あるいは全部で個別要件を満たしていけば良いことになる。
冒頭で述べた148億ドルのうち、(4)が93億ドルで圧倒的に多く、次が(3)の29億ドル、(1)が18億ドルで、(2)が8億ドル...といったところになる。
さらに言えば、単純に1農場あたりの平均受給額を比較してみた場合、商業的農場と先のresidence farmsとの差は、約3~10倍にも達している。差が最小なのは(3)の土壌保全で約3倍、(2)が約5倍、(1)と(4)は10倍を超える。
連邦政府や州政府に限らず、公的な助成金を受領するには公平性や透明性が求められることは間違いない。だからこうした数字にもすぐにアクセスできる。それは良いが、2020年の米国人の賃金の中央値は年間82,180ドルであることを考えると、大農場はそれ以上の助成金を受けている...ということになる。規模の違い...といえばそれまでだが、日米ともに小規模の家族農場が置かれている立場は意外と似ているのかもしれない。
* *
引退したら5エーカー(約2ヘクタール)くらい農場を買って、あとは夫婦でのんびり過ごす...というのはある時期の米国人の理想形のようでしたが、最近はどうなのでしょうか。
1 Subedi, D., et al, "Commercial Farms Received the Most Government Payments in 2018", Amber Waves, USDA-ERS, July 2021.
https://www.ers.usda.gov/amber-waves/2021/july/commercial-farms-received-the-most-government-payments-in-2019/ (2021年9月29日確認)
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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