税金を投入しないとコメが売れない時代に【熊野孝文・米マーケット情報】2022年2月22日
先週末Web上で開催されたコメの取引会では、茨城コシヒカリ1等が持込条件で9800円で成約するなど再び1万円割れに沈んだ。相場反転の先導役になると期待された新潟コシヒカリも1万3000円台に逆戻りするなど失速している。取引会の前の情報交換会で九州の業者から「10kgに1kg増量セールする際に増量分に県が支援する制度の受付が始まったので申請するつもりだ」という発言があった。いまやコメは税金を投入しなくては売れなくなったという事なのか。
年明け以降、食品スーパーやディスカウント店でのコメの特売が激しさを増しており、5kg1000円どころか900円台の精米も並び始めている。昨年までコメは値下げしても売れないので売価を据え置いていた量販店も競合店が盛んに特売を仕掛けるため納入業者にも破格値の提示を要求するようになっている。こうした動きが広がり、特売商品用のブレンド米だけではなく定番銘柄商品も大きく値を下げるところも出始めた。そうした中で来月から本格化する助成金付きのコメ増量セール。
自治体の公募事例では、事業の目的として「本事業は、みやぎ米の消費拡大を図るため、家庭向け商品の消費を拡大する取組に対する経費について,一部補助するものです」、事業対象者は県内に本店を有している米穀卸売業者、事業内容は1.みやぎ米を使用した家庭向け商品(精米、玄米、パックごはんなど)の増量販売2.みやぎ米を使用した家庭向け商品(精米,玄米,パックごはんなど)の個包装精米やパックご飯など既存商品のベタ付け販売3.みやぎ米を使用した商品であれば、年産や品種については問わない。事業の例は、宮城県産ひとめぼれ精米5kgを10%増量して販売。宮城県産ひとめぼれ精米5kgにパックご飯を1個ベタ付けして販売。宮城県産ひとめぼれパックご飯150gを200gで販売。3個入り宮城県産ひとめぼれパックご飯を4個入りで販売など―としている。
宮城県はパックご飯についての支援が目立つが、すでに大手パックご飯メーカーへのひとめぼれパックご飯の製造委託が決まっているのでこうした措置を実施するのだろう。
それにしてもコメの増量セールに複数の産地の自治体が予算を計上して地元産のコメ販売を支援するという事例は今まであまり聞いたことがない。こうした支援措置が実施される県に所在する米穀業者は良いが、そうでない米穀業者は不公平感を感じている。Web上の情報交換会でも神奈川県の業者は「神奈川にはそうした支援は一切ない。しかし、納入先のスーパーからは『増量セールで売り上げを伸ばしたい』と言う要請が来ており、増量分は自社の負担になる。身銭を切って販促するしかない」と言っていた。
コメの販促支援には公的資金が良く使われる。とくにコロナ禍では緊急対策としての支援策が設けられ、売れ残ったコメについても特別対策で外食・中食向けに販売する際に半分の額が支援される。当然のこととしてこうした支援を受けられる業者とそうでない業者とは競走上同じ土俵には立てない。これは産地交付金の使い方によっても同様の現象が起きている。今まさに4年産加工用米の契約時期を迎えているが、産地交付金で加工用米に厚めの助成金が支給されるところとそうでない産地では販売価格面において競争上の差が生まれる。
コメ政策全体が高米価を維持するために生産量を減らす目的で巨額の転作助成金を支払う一方で、今度はコメが売れないから余ったコメの販促費としてさらに税金をつぎ込むという政策は消費者、納税者にとっては2重、3重の負担を背負わせていることになる。それならば最初から生産者が稲作を続けられるように直接支援して、生産物は自由に販売できるようにした方がコメ余りによる負担をせずに済む。特に用途限定米穀と言う流通の規制を撤廃して、主食・非主食用と言うわけのわからない縛りを無くして、どんな用途であろうとも自由に販売できる様にすれば確実に需要が拡大する。
バイオプラスティック原料にコメを使用する企業はその原料米を確保するためにコメ作りに乗り出しているが、そのために4年産から新規需要開拓米の認定を受け助成措置を得ようとしている。そんなことを選択するより、生産者に直接補償して自由にコメを作ってもらい主食用には向かないコメをバイオプラスティックの原料として使用すれば良い。その上のクラスのコメは米菓や味噌など加工原料用米として使われるように品位に見合った用途に合わせて使われるようにすれば自然にコメの需要は拡大する。
なぜコメの需要が拡大しないのか?最大の要因は用途を法律や助成金で縛っているからであり、そうした縛りが無ければコメの用途は無限にある。
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