【JCA週報】アジアの経済危機と協同組合運動(2000)(中岡義忠)2022年8月1日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、現在の「にじ」の前身である「協同組合経営研究月報」2000年1月号に、当時のアジア農業協同組合振興機関(IDACA)の常務理事であった中岡義忠氏が執筆された「アジアの経済危機と協同組合運動」です。
アジアの経済危機と協同組合運動(2000)
財団法人アジア農業協同組合振興機関 中岡義忠常務理事
経済危機の教訓
(略)東アジア・東南アジアのGDP成長率は1965~1980年平均7.3%、1980~1992年平均7.7%と急成長を遂げた。(略)1970~1980年代のこうしたミラクルは、1997年からの危機で脆くも潰えた。誰しもドルや円の動向を注視したが、アジア通貨の影響は想像だにし得なかった。
これから発した経済・金融の危機の要因についても多様な論がある。曰く経済の自由化やグローバル化がすすむ中で、経済実態と国際投機筋の動向が乖離し、大規模な短期資金(ヘッジファンド)の急速な流出あったこととか、IMFの構造調整政策のいき過ぎのため、或いは旧来のクローニー主義、過度の政府介入、開発独裁など前近代的部分があったためなどの論である。実際のところはそのいずれもが一面を突いているといえよう。
改めて、危機を経て教訓といえるのは、1つは、グロバリゼーションには必ずリスクが伴うということの認識である。完全市場化志向、米国型放任政策では対処できず、価格、貿易、為替、金融などに係る諸制度や行政の透明性、効率性、有効性など経済全般にわたるガバナンスが必要性だということ。
2つは、成長には生産性向上や技術進歩が伴わなければならないということである。既に、P.クルーグマン(P.Krugman)は1994年に「アジアの奇跡という幻想」で、かっての旧ソ連の成長率上昇を引き合いに、単に投入要素(労働、投資など)の増加で、生産性向上をみない成長は長続きしない、アジアにも同様のことをみると指摘した。長期固定資本を必要としリスクの大きい「資本主義にとって他人の領分たる物づくり部門」(原洋之介)には多分の短期資金は流れず、「資本主義にとって自分の領域である金融部門」(同上)の方にバブルをもたらし両者の間で調和がとれなかった。
3つ目は、IMF、世銀の構造調整アプローチ、厳格なコンディショナリティが受入国に必ずしも適合せず、しかも、急速な遂行によっておこった経済社会システムの混乱がかえって政治的混乱を引き起こす契機ともなったことの反省である。世銀は「包括的な開発フレームワーク」(Comprehensive Development Frame-work)を新しく提起し、ソーシャル・セーフティ・ネットの確保などの政策転換をはかっている。
優先課題一協同性と農民の組織化一
(略)いま、IDACAに研修にくる参加者は、従来から政府、民間を問わず、農民をいかにグループに、そして、農協に組織化するかに最大の関心を寄せている。(略)
そこで課題は、こうした組織化の前提となる協同性が地域に歴史的に存在しているかどうか、そして、また農協が農民協同活動の結集結果であるという、いわば協同組合原則についての理解が農民そして政府機関にあるかどうかである。(略)
優先課題一総合農協システム一
(略)こうした中では農協事業の果たす機能は大きい。国策としてのアグリビジネスの輸出利益がそれに携わる一部の層や企業的な富農に偏り、大方の貧農は栄養不足や劣悪条件に苦しむといった(いわば飢餓輸出)中では、公正・協同を標榜・志向する農協が組織化され、その事業を通じて資源が国内で行き渡り、所得が公正に分配される仕組みが確保されるよう、その一端を担う努力が大事であるといったた認識は、IDACA研修でWTO論議をカリキュラム化する中で、大方が賛同するところである。
また、発展へのアジア農村固有の潜在能力を基底にした農業の多角化のほか、貧困の緩和、医療や教育、年金、起業、金融など生活、地域自立への多様な取り組みは農協の多面的な事業、すなわち総合農協システムへの関心を呼んでいる。
高利貸しからの借り入れと企業からの種籾などの現物借り入れ、その返済に青田売り、この長年の頚木からの脱出は、資金手当てから販売まで世話のできる、しかも、経営的にも信用事業や営農指導を基本として、各事業の相乗効果が期待できる総合農協は、彼らにとって魅力的である。(略)
我が国でも1900年の産業組合の単営から4種兼営が整い、戦前農会などとの統合や戦後農協法による農業生産力増進によって営農指導が重視されるなど今日の総合農協の原型が築かれるには実に長い年月を要している。しかも、古くは戦前、戦後の不況を乗り越え、戦後初めてのマイナス成長を経験した石油ショックを乗り切った総合農協という柔構造システムは、農村において比較有利性をもたらし、今日の不況期でも、グローバル化での競争激化のもと専門機能の刷新強化が問われながらも、農家接点の地域レベルではその機能は生かされおり、アジアにとっても参考となるのである。
財団法人 協同組合経営研究所 協同組合経営研究誌「協同組合経営研究月報」2000年1月号 No.556より
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