廃校活用プロジェクトにXはある【小松泰信・地方の眼力】2022年11月30日
先日、義母の一周忌の法要で妻の実家に行く。鳥取県八頭町大江という典型的な中山間地域。妻が通った小学校は2017年に廃校となったが、2019年より里山リゾートホテル「OOE VALLEY STAY」として蘇った。
ホテルで蘇る廃校
同ホテルを手がけるのは、「平地での放し飼い」による高級鶏卵を全国へと販売する傍ら、地域に根差した六次産業を推進する大江ノ郷自然牧場(創業1994年)。
教室は広々とした高級感あふれる個性的な客室となっている。なお、満天の星空を眺め、そして山から聞こえる小鳥や鹿の鳴き声を聞きながら、非日常を感じてもらうため、テレビは置かれていない。
アリーナと呼ばれるかつての体育館には、ボルダリングの設備などもあり、季節や天候を気にせずに思いっきり身体を動かせる全天候型の遊び場となっている。「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど雨が多い山陰地方だが、体育館があればいつでも楽しむことができるので、当然、顧客満足度は高まる。また、グラススクエアと呼ばれるかつての校庭には芝生が敷かれ、多様なアウトドアライフを味わうことができるそうだ。
かつての校舎を車中から眺める妻に感想を求めたら、「廃校になったのはさみしいけど、壊されることなく活用されていてホッとする」とのこと。そして「何にもない、田舎だと思っていたんだけどね......」とつぶやいた。
廃校活用で「地域社会性のある人と組織」をめざす
「毎年約450校。これは、全国で発生している廃校の数です。近年では、民間事業者による廃校活用が進み、雇用創出等、地域活性化につながっている例も多く出てきています。廃校は終わりではなく、始まり。皆さんで、廃校活用について考えてみませんか」と呼びかけているのは、10月14日にオンラインで開催された、文部科学省による「令和4年度 廃校活用推進イベント(オンライン)」の告知文。
事例報告で興味を持ったのは、農業との関わりがあった次の2事例。
まずは、京都府福知山市旧中六人部(なかむとべ)小学校と井上株式会社の事例。
福知山市は、2019年11月7日に公募型プロポーザルを実施し、井上株式会社を選定した。「旧中六人部小学校の利活用について、地元の意向を反映した農業を主軸とした有効な提案がされている。実施体制についても、十分な体制が構築されており、優先交渉権者として適当であると判断したため」が選定理由。
同社は、福知山市内を拠点に制御技術や通信環境といった電気設備の領域などで幅広く事業展開している。
2018年10 月に廃校となった旧中六人部小学校を農業体験型施設にリノベーションし、2020年10月に『THE 610 BASE(ザ・ムトベース)』としてオープンした。
かつての校庭には、7 棟のビニールハウスが並び、「紅ほっぺ」や「かおり野」などのイチゴが、同社の本業ともいえるIoT(Internet of Things。モノをインターネットに接続することで、離れた場所から対象物を計測・制御したり、モノ同士の通信を可能にする技術)による制御技術のもとで栽培されている。また、学校らしさを生かしつつ、おしゃれにリニューアルされた校内では、イチゴを使ったジュースやスイーツなどが販売され、収穫体験やワークショップなども開催されている。
井上大輔氏(同社代表取締役)によれば、始まりは地域課題について検討する社内プロジェクトでの議論。そこで、地域に根差す企業として、専門領域を生かすことで、身近な課題の解決に取り組む「地域社会性のある人と組織」になるという方向性が確認された。さらに検討を深める中で、「農業」へのチャレンジが決定される。まずは得意のIoT技術が生かせる「ハウス栽培」ということでイチゴとなった。
しかし優良農地がなかなかない。農地探しに奔走していた時、廃校のグラウンドに陽光が燦燦とさしているのが目に飛び込んできた。「このグラウンドでイチゴができたら楽しそうだ」と思い、地域の方に相談すると、極めて好意的な後押しを受ける。そして市に相談に行き、具体的な動きが始まったそうだ。
廃校活用で始まったのではなく、「農業」という地域課題へのアプローチのなかでの廃校活用である。
「地域の宝」を蒸留所として「新たな地域の宝」へ
もうひとつは、岐阜県高山市旧高根小学校と有限会社舩坂酒造店の事例。
旧高根小学校は、過疎化が進む高根地域におけるコミュニティー施設としての役割も担い、「地域の宝」とまで呼ばれるほど大切にされていたが、2007年に廃校となった。2021年、高山市の有限会社舩坂酒造店から高山市に、ウイスキー蒸留所としての活用が提案された。校舎を愛する住民の想いを尊重し、地域貢献を強く意識していることや、将来的な波及効果も十分考えられることから、2022年3月に不動産賃貸契約がむすばれた。
岐阜県初のウイスキー専門の蒸留所「飛騨高山蒸溜所」として、4月から改修工事にかかり、2023年に蒸留を開始、2026年にシングルモルトウイスキーの発売を予定している。
有巣弘城氏(ありすひろき、同社社長)によれば、ウイスキーの蒸留所を設置するには広大な土地と水、熟成に関わる寒冷な環境が必要となるが、これらの条件を満たす理想的な環境とのこと。ちなみに体育館が蒸留所、校舎が貯蔵所に変身する。
まだ緒についたばかりではあるが、将来的には、地元の農家と連携して栽培した大麦でのウイスキーづくりにも挑戦したいそうだ。それによって、農家収入の向上に貢献できたら本望とのこと。
また、「飛騨の匠」と呼ばれる木工技術集団の技術を活用した木桶での発酵や熟成樽でのウイスキーづくりも構想に入っている。
廃校を新たな地域づくりの拠点に
福島民報(11月22日付)によれば、福島県内の県立高は改革前期実施計画に基づき、2025年度までに12校が廃校となる見通し。ただこれらの校舎がいずれも耐震改修工事を終えていることから、避難所とか大都市圏にある企業のオフィスとしての活用などを提案している。さらには、「逆転の発想で廃校を新たな地域づくりに結び付ける好機と捉え、行政と住民が意見を交わす場を積極的に設けて、地域性を踏まえた特色ある利活用につなげてほしい」と訴える。
ハイコウを活用することによって、地域はコウハイから免れることを、今回紹介した3事例は教えている。
「地方の眼力」なめんなよ
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