(323)緊急度と重要度:ブラジルと米国のトウモロコシ輸出見通しから【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年3月10日
世界最大のトウモロコシ輸出国は米国ですが、それはいつまで続くでしょうか。今週はこの点を少し考えてみましょう。
過去何十年にもわたり、米国が世界最大かつ最も安定したトウモロコシ輸出国であったことは歴史を見れば明らかである。米国の長期的な競争優位は天候不順などにより一時的に他産地に代替されても、長期的に見れば揺るぎなかった。
さて、2023年2月、世界のトウモロコシ貿易に関係する人々の注目を集めたのは米国農務省の需給見通しである。米国とブラジルのトウモロコシ輸出数量が初めて同数量(5,100万トン)で並んだからだ。近年では2018~19年頃には比較的近い水準に達していたが、両国のトウモロコシ輸出数量見通しが明確に同数量として公表されたのは史上初である。
前回のコラムでは今後10年間の世界のコメ貿易を米国農務省の長期見通しを用いて紹介した。今回は同じものをトウモロコシで活用してみたい。グラフは2013年以降の両国のトウモロコシ輸出数量に、2023年以降は例の長期見通しを合算したものである。2つのラインが接触している中央の点が先に述べた5,100万トン、つまり現在である。
米国農務省は、今後10年間の両国のトウモロコシ輸出数量はいずれも伸長し、2030年頃からはほぼ同水準になると見ているようだ。長期見通しでは、2032年は米国6,920万トンの輸出に対し、ブラジル6,910万トンとわずか10万トンだけ米国が多い。この程度はもはや誤差の範囲であろう。トレンドラインを見る限り、2030年代以降の世界のトウモロコシ輸出はブラジルが1位となる可能性が高いが、今年はまだそこまで言い切りたくないのかもしれない。
ところで、国内では食料安全保障に関する議論が各所で起きている。極めて重要な問題である。では、長期的なトウモロコシの確保について、この長期見通しとの関係で国や業界関係者はどう考えているのだろうか。もっとも、目の前の皿回しの皿の落下を防ぐことと異なり、長期的な方向性は複数の要素を考慮する必要があるため、議論自体が難しい。
例えば、単純に考えても、重要度の高低、緊急度の高低で4つの組み合わせがある。そのうち、目の前の皿を落とさないようにするのは重要度も緊急度も高い場合だ。つまり、日々の食料供給を滞りなく行うことである。これは誰にもわかりやすい。
問題は次の長期的対応である。ここには先の4つの組み合わせで言えば、緊急度は高いが重要度は低いものと、その逆がある(いずれも低いものは論外である)。
不思議なもので、人や組織は長期的対応となると、緊急度が高く重要度が低いことをやりがちになる。食料安全保障を例にとれば、テーマは緊急度が高いが、それに対応する具体的行動に重要度がどう伴うかである。下手をすると、重要だからと同じような作業や調査・手続き・打合せなどを何度も繰り返す可能性すらある。
それよりも、本来行うべきは、もうひとつの組み合わせ、つまり重要度が高く緊急度が低いことへの備えである。世界のトウモロコシ輸出が米国1強から米伯2強になる。これは大きなパラダイム・シフトである。その日に備え、それ以降の国内需要を想定し、それを満たすためのトウモロコシ調達先を国内と海外でどう分担していくかに関する新しい仕組みを今のうちに設計し、時間をかけて具体化していくことであろう。いわば、将来のための新たな基盤と仕組みの構築である。
国内での生産可能性追求はもちろんだが、将来的に一定量の輸入が不可欠であるならば、港湾施設の見直しや、将来的な輸送船舶の規模や数量の動向、そして生産地との関係づくり(現地への投資)など、いくらでもある。10年先に芽が出る動きとして今のうちに着手しておくことが将来の食料安全保障につながるはずである。
* *
東日本大震災から今週末で丸12年です。時間は瞬く間に過ぎます。目の前とともに、10年以上先へも今からの備えが必要ではないでしょうか。
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