(328)「不思議な程の達者な身体」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年4月14日
高齢化が進展する中で、何を食べていくかが気になります。食料安全保障や健康寿命の延伸は大事ですが、これから何をどう食べれば健康を維持できるか…、少し古い話から。
今から約500年近く前の1549年11月5日、鹿児島からインドのゴアに向けた長文の手紙がある。その中に、「日本人の食物のこと」について記されている箇所がある。
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神は私達を、贅沢のできない国に導き入れることに依って、私達にこんなに大切な恵みを御施しになった。即ち、私達が肉体に与えようとも望んでも、この土地では、こんな贅沢はできないのである。日本人は自分らが飼う家畜をと殺することもせず、また、食べもしない。彼らは時々魚を食膳に供し、米や麦を食べるがそれも少量である。但し彼らが食べる草(野菜)は豊富にあり、またわずかではあるが、いろいろな果物もある。それでいて、この土地の人々は、不思議な程の達者な身体をもっており、稀な高齢に達する者も多数いる。したがって、たとえ口腹が満足しなくとも、私達の体質は、僅少な食物に依って、いかに健康に保つことができるものであるかは、日本人に明らかに顕れている。この国において、私達の身体は、皆、頗る元気であるが、願わくは神の思し召しによって、私達の霊魂も、元気であらんことを。
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出典はアルーペ神父・井上郁二訳『聖フランシスコ・デ・サビエル書翰抄』下巻、岩波文庫である。旧仮名使いや漢字の旧字体は読みやすいように現代風に改めて引用した。
この手紙の書き手は出典のとおり、日本人の多くが恐らくは中学の歴史で学んだイエズス会の宣教師、フランシスコ・ザビエルである。
筆者はキリスト教徒ではないため引用箇所の最初と最後は省いてもよかったが、翻訳版ではこの箇所がひとまとまりとなっている。また、宣教師の基準に照らした場合、当時の日本を「贅沢のできない国」という一言で見事に言い表しているため、そのまま掲載した次第である。
それにしても興味深い。当時の日本の食生活の全てではないにしても、極めて象徴的な一面がよく描写されている。
記録によればザビエルは日本に2年ほど滞在したようだが、最初に上陸したのが鹿児島である。そこから平戸、博多、下関を経て当時の堺から京都まで訪問したようだ。鹿児島で書いた手紙は、初めて見た日本の率直な印象と考えても良い。
米や麦、ときどき魚を食べ、宣教師から見れば「草」に見える野菜を食べていたにもかかわらず、「不思議な程の達者な身体を持っており、稀な高齢に達する者も多数」というのが当時のザビエルが見た鹿児島の人々であったようだ。
もちろん、短い滞在期間の間にどのような人々に実際に会ったのかはこの文章からはわからない。機会があれば、是非とも深く検証してみたいところだ。
ひとつだけ言えることは、肉食主体の当時のヨーロッパ人から見れば、日本人の食生活はとても「貧しく」見えた点である。いかなる困難も神の恵みととらえる宣教師だが、流石に食事については閉口したのであろう。
さらに、そんなものばかり食べていて何故、日本人は「不思議な程の達者な身体を持っており、稀な高齢に達する者も多数」なのか。本当はこのあたりを最先端の現代科学諸分野の知見をもとに再検討する必要があるのではないか。
ザビエルが日本に来たのは戦国時代である。ポルトガル人による鉄砲伝来から10年も経たず、武田信玄が急速に勢力を伸ばし、松平竹千代が今川の人質になった年である。庶民にはこの時代が良い時代であったとはとても思えないが、米と麦と魚と草(野菜)を食べながら逞しく動き回る武士達が余程強い印象を与えたのかもしれない。
* *
ちなみに現代の鹿児島は、肉用牛産出額1,278億円、豚は847億円、ブロイラーは695億円で、いずれも日本一の大畜産県です。ザビエルが500年後の鹿児島と日本人の食生活、さらに体格の変化を見たら、さてどう思うのでしょうか。
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