温暖化で穀倉地帯が大移動【森島 賢・正義派の農政論】2023年4月24日
地球の温暖化によって、世界の穀倉地帯が大移動しようとしている。アメリカの穀倉地帯の潜在生産力は30%減少する、というのが専門家の予測である。対策を怠れば、その一部は砂漠になる、という人もいる。これは、食糧安保にとって重大な事態である。
しかし、これに危機を感じる人は、それほど多くない。だから、温暖化による地球の平均気温の上昇を1.5度以下に抑えよう、という国際合意が得られていない。日本は、それどころか、温暖化の主な原因である温室効果ガスの排出量を、昨年は増やしている。
私事ではあるが、筆者は先日、体温が38度の高熱に見舞われた。平熱は36.5度だから、その差は1.5度である。ちょうど地球温暖化対策の目標と同じである。そのときの経験だが、頭はクラクラになって、横になっているしかなかった。
地球がクラクラになったら、どうすればいいのか。
そのとき、日本の食糧安保は、いったい、どうなるのか。
上の図は、地球温暖化による植生の、したがって、穀物の潜在生産力の変化を推計した研究の結果である。
この研究により、北半球について、温暖化による潜在生産力の増減をみると、ロシアが5.8倍、中国が2.1倍に増えるのに対して、米国は0.7倍、つまり、3割減少するという。
全体的な特徴は、穀倉地帯の北上である。シベリアの凍土地帯が穀倉地帯へ変貌する、という人もいる。
この潜在生産力を顕在化し、あるいは制御するには、相応する生産技術の開発と、それを普及する社会体制が必要である。
この研究結果は、食糧安保に対する抜本的な対策の必要を意味している。
◇
そこで、食糧安保問題である。
食糧安保問題についてのいまの議論は、ウクライナ紛争に関わる議論にとらわれすぎている。つまり、ウクライナ紛争による穀物価格の上昇で弱者が困窮していること、また、肥料価格の高騰で農業者が苦難を受けていること、それらに議論が偏っている。それはそれで早急に解決すべき重要な問題である。
しかし、だからといって、地球温暖化を原因とする食糧安保問題を軽視するわけにはいかない。
◇
長期的にみるとき、ウクライナ紛争は、世界の各国の間に深刻な分断をもたらそうとしている。中国と米欧とグロバルサウスとの三つ巴の分断である。
これが、各国の食糧安保に深くかかわっている。分断のなかでの食糧安保である。食糧の奪い合いである。
日本の食糧安保の議論は、こうした長期的な視点を欠いている。
◇
地球温暖化にかかわるもう1つの重大事は、コロナである。
この3年以上の間、コロナが世界中で猛威をふるっている。そして、まだ終息していない。
日本全国の新規感染者数をみると、今月初めから、徐々に増えだし、先週の新規感染者数は、先々週の1.16倍に増えている。専門家は、次に予想される第9派は、第8派を超える規模になる可能性を警告している。
コロナ発生の主な原因は地球温暖化だ、という専門家が多い。シベリアの凍土が溶けだしたら、新しいウィルスが動き出すのではないか。
◇
このように食糧安保問題は、長期的にみるとき、地球温暖化問題だけでなく、いま世界を揺るがしているウクライナ問題とコロナ問題とに通底した問題であり、将来に深刻な影響を及ぼすものである。
このような長期的な視点の欠如に、日本の食糧安保の隠れた、しかし真の危機があるのではないか。
(2023.04.24)
(前回 多様な自由と民主主義の共存)
(前々回 「1ダースなら高くなる」という文明の危機)
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