「1ダースなら高くなる」という文明の危機【森島 賢・正義派の農政論】2023年4月10日
アジアには、「1ダースなら高くなる」という文明がある。「・・・安くなる」ではなく、「・・・高くなる」である。
市場原理主義者がこれを聞いたら、耳を疑うだろう。「・・・安くなる」が普遍的な商行為だ、と言い張るだろう。
だが、聞き間違えたのではない。1度に1ダース買えるような経済的強者には高く売り、1度に1個しか買えない弱者には安く売る、という高邁な思想であり、文明である。ここには、協同組合主義と相通ずるものがある。
そしてこれは、かつて米欧による植民地支配のもとで、資本の労働搾取の重圧に対する正義の自衛策として、広く社会から肯定されてきたものである。それが今も引き継がれている。
だからこれは、単なる商行為などではなく、社会正義に基づく行為である。そうして、いまも文明の土台になって連綿と続いている。この先には、社会主義社会が開けている。
ウクライナ問題が、これに関わっている。ウクライナ紛争の原因は、NATOの東方拡大であるが、その先の戦略目的は、この「・・・高くなる」という搾取に抵抗する文明を撲滅することにある。そうして、搾取を全世界に拡大することにある。
だから、以前に米欧の植民地支配を受け、過酷な搾取の経験を強いられたアジア諸国は、ウクライナ紛争の中で、NATOに同調しない。グローバルサウスといわれるアフリカや中南米の多くの国々も同調しない。
米欧は、以前の植民地支配を反省していないし、謝罪もしていない。そうして、同じ蛮行を繰り返そうとしている。これでは、グローバルサウスの国々は同調できない。
日本はどうか。日本の主要な政党は、与党も野党も全てがNATOの側に立って、グローバルサウスの諸国と敵対している。
それでいいのか。
◇
「1ダースなら安くなる」ことを否定するわけではない。それは、大規模生産、大規模流通による生産力の向上でコストを削減した結果だろう。この生産力の向上は、経済発展の原動力である。その経済発展を否定するわけではない。
問題は、コストの削減分を誰のものにして、何のために使うか、である。
資本家のものにして、搾取の場を拡大するための原資にするのか、それとも社会全体のものにして、社会を構成する大多数の労働者が、販売価格を安くして社会に還元するのか、あるいは大多数の労働者が知恵と力をあわせて、つぎの経済発展のための原資にするのか。
◇
ウクライナ紛争で見える米欧の考えは、前者の考えである。つまり、NATOの武力を使った搾取の東方拡大であり、全世界に搾取の場を拡大することである。しかも、武力を使って拡大することである。これを、新しい植民地主義、と名付けている論者もいる。
この新しく忌まわしい植民地主義を、グローバルサウスの多くの国々は受け入れない。だから、ウクライナ紛争での米欧の武力を使った振る舞いを、白い目で見ている。
◇
米欧とグローバルサウスが、互いに違った考えのもとで切磋琢磨するのならいい。だが、そこで武力を使ってはならぬ。
日本は、NATOの同志国だ、などといって、NATOといっしょに搾取の拡大、その結果としての格差と分断の拡大に同調し、グローバルサウスの国々から白眼視されている。
それに加えて、日本には格差と分断を批判する知性もないし、反対する政治勢力もない。それでいいのか。
いま、日本の知性は退廃し、日本の文明は存亡の危機のさなかにある。
(2023.04.10)
(前回 ウクライナの戦争犯罪を国連が公表)
(前々回 政党は政治論の土台を示せ)
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