現場と本部が一体で「支所店力」を高めよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年4月25日
フロント・ラインをその気にさせるバック・ライン
拙著『組合員満足のJA経営』(家の光協会・刊)を出版したのは、13年前のこと。ずいぶん多くのJA役職員のみなさんに読んでいただいた。この本のサブタイトルには、「フロント・ラインからの強い組織づくり」と書いた。支所店、営農経済センター、その他事業施設など、組合員やお客さまと接する、いわゆる「現場組織」が重要で、この強化がJAの事業・経営を左右するポイントであると論じた。
この組合員やお客さまと接する「現場組織」のことを、私は「フロント・ライン」と呼んでいる。サービス業では、このお客さまとの接点がサービスの善し悪しを評価される。客の動向を左右する。もちろん、商品・サービスの売上げや利益の増加など、事業の実績を高め、経営の成長を決定する要因である。
そのためには、日々刻々、お客さまと接するフロント・ラインが最高のパフォーマンスを発揮し、お客さま対応を行い、お客さま満足を高めることが必要であるが、それをサポートするバック・ラインの役割が重要である。働く条件だけではなく、事業の方針を明確に伝え、理解をしてもらい、商品知識、接客ノウハウ、教育・研修などでしっかりとサポートする機能である。
このフロント・ラインとバック・ラインが一体的に機能してこそ、その成果が高まるのである。この一体性、いわばパートナーシップ、協働関係が、企業組織にとっては、もっとも重要なのである。
このように、フロント・ラインとバック・ラインに分けて、事業組織のあり方や本店と支所店の関係を考えると、シンプルで分かりやすい。コンサルティングの一般的なプロセスでもは、まず、フロント・ラインの現状の把握を優先し、数値化し、問題の抽出、課題の整理を行い、そのうえで、提案内容の仮説にもとづいて、調査プランを策定する。フロント・ラインの変革の提案と、バック・ラインへの提案が基本となるからだ。
JAも同じように、支所店や経済店舗などの組合員との接点である事業施設の現状・データ分析から行うのが通例である。
問題・課題を共有し、現場と本部が一体となって解決する
ここで、民間企業とJAとの違いを指摘しておきたい。民間企業においては、フロント・ラインである現場組織と商品・サービスや店舗運営などの企画・開発などの機能をもつバック・ラインとの関係が、対等に近いことであり、指示・命令のような「上下関係」にないことである。本部は現場の応援に徹する、という考え方だ。
JAでは、支所店の問題や課題の提案内容について、本店・本部が「上から下へ」の会議や方針になってしまい、フロント・ラインの意向を聞き、一体的に取り組むという動きになりにくい。
ところで、合併によりJAの事業エリアが広くなり、また、支所店の再編整備により、組織・事業規模も大きくなっている。と同時に、支所店間での違いも開いている。当たり前のことだが、貯金残高や共済保有高・新規共済契約高、購買品供給高や販売品販売高などのトータルの数字だけで、支所店を捉えることができない。すべての支所店に一律の目標を設定して、管理するという考え方は、通用しない時代だ。
この種のJAのコンサルの場合は、中堅職員のチームを立ち上げ、ビジネス研修や調査内容の検討、各種JAのデータ収集などを通じて、「支所・支店カルテ」の作成を最優先する。当社の「支所店カルテ(ひな型)」をもとに、当該JAに合致した「支所店カルテ」作成するのである。A4版で2頁のものである。
本部も支所店も理解しやすい項目を並べてある。たとえば、5年前の数値と比較し、どのような変化が生じているか、良化している点は何か。悪化している点は何か。将来への課題はなにか。支所店ごとに異なる問題を理解し、取り組む課題を明確にすること。JA全体で一律に取り組むという時代ではないからだ。
もう一つ、JAの事業成長力を高め、安定的な経営を持続するのは、支所店力や経済店舗などを中心とする「現場組織」の力である。このフロント・ラインが問題を認識し、課題に対して前向きに、主体的に取り組む力が必要だ。さらにいえば、フロント・ラインをその気にさせるバック・ラインの支援・サポートも重要である。
これまでは、年度計画や中期計画にJA全体の課題を掲げて取り組んだが、それでは問題も課題も解決しない。いま必要なのは、支所店が個別に抱える問題や課題に焦点をあてて、明確に解決する実践に取り組むことだ。支所店自体を改革していくことを最優先するという考え方である。バック・ラインである本部が、現場組織のフロント・ラインに入って、一緒に解決していく姿勢が必要である。JA全体の問題を何とかするのではなく、個別の支所店の大きな問題を確実に解決することである。
そのためには、「支店カルテ」のような共通の現状評価データを、フロント・ラインとバック・ラインが共有し、課題を一緒に議論し、現場の解決策の実践を急ぐこと。そこで、成果が生まれれば、他の支所店で活用できるノウハウとすぐに普遍化するのである。
変革の手順と変え、「協働」のスタイルで取り組んでほしい。
◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日