TPP・日米貿易協定、未だに許せない2つの条項【近藤康男・TPPから見える風景】2023年5月11日
2013年日本のTPP交渉参加以来、日本の通商協定交渉反対運動に関わり、以降の協定条文の分析に取り組んできた。どうしても許せないままになっている、2つの条文を改めて紹介したい。
①1つは、2016年2月4日に合意署名されたTPP12の合意文書の1つ、「保険等の非関税障壁に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の書簡」だ。
全33ページの文書の「3.規制改革」に以下の文章が記載されている。
「日本国政府は、2020年までに外国からの対内直接投資残高を少なくとも倍増させることを目指す日本国政府の成長戦略に沿って、外国からの直接投資を促進し、並びに日本国の規制の枠組みの実効性及び透明性を高めることを目的として、外国投資家その他利害関係者から意見及び提言を求める。意見及び提言は、その実現可能性に関する関係省庁からの回答と共に、検討し、及び可能な場合には行動をとるため、定期的に規制改革会議に付託する。日本国政府は、規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる。」とある。
②もう一つは、2019年10月7日に合意署名された「日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定」の付属書Ⅰの第B節「日本国の関税に係る約束」に記載された条文だ。
第一款「一般的注釈」の、5に以下の文章が記載されている。
「アメリカ合衆国は、将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求する。」
一方で日本からの自動車・自動車部品については、当時、国会でも追及されたが、放置されたままに等しい。
「規制改革会議」の違和感①:国際条約において強力な権能を位置づける必要はあったのか?
当時、市民グループと政府の諸官庁の職員とは頻繁に公開の意見交換会を持っていた。米国が合意署名後にTPPから脱退を表明した後の意見交換の場で、「米国が脱退を表明した後も日米両政府の署名した書簡の内容は継続されるのか?」と質問した。今となっては何も証拠は無いものの、答えは「そうです」というものだった。
2国間の合意署名のある"書簡"は協定の一部としての書簡であり、一方の国が脱退を表明すれば、無効になるのではないか?それとも2国間の合意署名文書なら双方が合意する限り有効なのか?そうだとしてもこの2国間の"書簡"は国会で承認されたのだろうか?
そもそも米国連邦議会では承認手続きが取られたのか?オバマ政権は付議さえできないままトランプ政権で米国は離脱したままだ。
一方、「規制改革推進会議」は日本社会の枠組みに関わる課題をドンドン決議・実行している実態があり、そうであれば国内課題であり、国際条約に含める必然性も必要性も無い、ということになるのではないだろうか?。
「規制改革会議」の違和感②:"規制改革会議"という文言を日米の書簡に折り込む必要はあったのか?
規制改革会議自体は内閣府設置法に基づいて設置された有識者会議だ。日米間の書簡に載せた目的は、対日投資を誘発する文言を米国に訴えることこそが狙いだったと言えるのではないだろうか?
しかし、この点も、本来自らの経済成長・投資促進政策こそが重要で、金融緩和以外は不発に終わった"アベノミクス3本の矢"以降岸田政権まで続く無策にこそ起因するもので、やはり国際条約においては無意味な条項だと言わざるを得ない。
片務性①:米国にのみ一方的に特恵待遇を与えかねない条文(日米貿易協定)
2019年10月7日合意署名「日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定」の付属書Ⅰ「日本国の関税及び関税に関する規定」では、第B節「日本国の関税に関する約束」・第一款の「5.」で、"農産品に関する特恵的な待遇"が記されている。
最終の161ページに「付属書Ⅱは英語により作成され、この協定の不可分の一部を成す」と記されて終わっている。
米国に関する内容は、付属書1ではなく付属書Ⅱに記されているが、日本が付属書Ⅰで"約束"という文言迄書いているのに対し、"特恵的な待遇"は勿論、"約束"なる文言は何処にもない。
片務性②:日本側の農林水産品に対を成すとも言える自動車については明確な約束は無い(日米貿易協定付属書Ⅱ)
付属書ⅡにはI のような「約束」という文言は一切無く、一般的注釈の「7.」で「自動車・自動車部品については更なる交渉に委ねる」としかされていない。
7. Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties
合意署名直前の19年9月25日付の日米共同声明では「3.日米貿易協定の発効後、4ヶ月以内に協議を終える意図であり、また、その後、互恵的で公正かつ相互的な貿易を促進するため~その他の課題についての交渉を開始する意図である」とあるが、自動車・自動車部品を含め、開始された形跡は認められない。
片務性③付属書の構成と分量のアンバランスさ(日米貿易協定2つの付属書)
付属書Ⅰは「日本国の関税及び関税に関連する規定」となっており、第A節が「一般規定」。続いて第B節「日本国の関税に係る約束」において第一款「一般的注釈」・第二款「関税の撤廃または削減」・第三款「関税割当て」・第四款「農産品セーフガード措置」」・第五款「日本国の表」、第C節「日本国の原産地規則及び原産地手続き」第一款「一般規則及び手続」・第二款「品目別原産地規則の解釈のための一般的注釈」・第三款「品目別原産地規則」となっている。
付属書Ⅱは英文のみで「アメリカ合衆国の関税及び関税に関連する規定」と付属書Ⅰと同じ表題だが、「一般規定」「関税譲許表」「アメリカ合衆国の原産地規則及び原産地手続き」・「品目別原産地規則」+表だけだ。
改めて感じるのは、政府が声高に叫んだ「国益を守る」の欠片も見られないことだ。
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