(399)ワハーン回廊と玄奘三蔵【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年8月30日
今年の7月6日から8月25日まで、仙台市博物館で「大航海時代へ―マルコ・ポーロが開いた世界へ―」が開催されたので、最終日に足を運んできました。
この特別展は「天理大学附属天理参考館・天理図書館創立90周年特別展」であり、この時代の書物やガラス製品、刀剣などを直接見ることができた貴重な機会である。
実は天理図書館には素晴らしい貴重書が数多くある。今回の展示で筆者が最も注目したのはマルコ・ポーロの『当方見聞録』の各国語バージョンである。この本は余りにも有名で、様々なタイトルが知られている。
はるか昔、ポルトガル語やスペイン語を学び始めた頃、『Il Milione』(イル・ミリオーネ(100万)』という本を知っているかと問われ答えられなかった。次に問われたのが『世界の記述』というタイトルだ。いずれも日本で有名な『東方見聞録』とわかるまでには少々時間が必要だったことが懐かしい。展示品の中で分厚い『Il Millione』の原書と各国語版を見た時には時間が一気に40年程戻ったような気がした。
そのせいか、帰宅後に気になった点がある。アフガニスタンはいくつの国と接しているか、である。この問いに即座に答えられる人は意外と少ない。そもそも大多数の日本人は、「〇〇スタン」と名の付く国の位置関係すらあいまいなままであろう。これは意外と難しい。
さて、アフガニスタンだが、西をイラン、東と南をパキスタンまでは簡単に出る。北はと言えば、西からトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンに接している。正直なところ、この3カ国の位置関係はすぐには思い浮かばず地図で確認した。これで終了と思ったところに伏兵とも言える一カ国が出た。中国である。
携帯で構わないので確認してほしい。アフガニスタンの国土全体は一枚の葉のようだが、北東に細長い枝のような部分が伸びており、その先端が中国と国境を接している。
この細長い地域は、中学の地理で名前を覚えたパミール高原の中の峡谷であり、「ワハーン回廊(渓谷)(Wakhan Corridor)」と呼ばれる、かつてのシルクロードの一部である。緯度で言えば北緯37度、富山市、長野市あたりに近い。南北は15kmほど、東西は200kmに及び、その東端が中国国境である。西から東に国境を超えればそこは中国の新疆ウイグル自治区になる。ただし、中国国境はヒンドウークシュ山脈の中、標高世界一のワフジール峠(Wakhjir Pass)(4923m)である。
軽く調べて見ると、現在、中国側の国境は閉鎖されており、その地域に居住している住民や牧畜民にのみ通行が許可されているようだ。残念だが旅行者は行けない。
さて、マルコ・ポーロより遡ること642年、7世紀唐代の西暦629年、当時27歳の若き玄奘三蔵は、この道を通りインドに向かい、西暦645年に43歳で帰国し大乗仏教宗派のひとつ法相宗を開いた。現代では三蔵法師と言えば『西遊記』が有名である。だが、本来の三蔵とは、簡単に言えば、仏教における律蔵(規則・道徳など)、経蔵(釈迦の教えである経のこと)、論蔵(律蔵や経蔵の解釈や注釈)の3つに通じた僧侶である。ちなみに日本人ではただ一人、霊仙(りょうせん)が三蔵の称号を得ている。彼は、現代流に言えば最澄や空海の遣唐使同期生である。
伝えられている玄奘三蔵の人生は62年、うち16年をインド留学に費やし、帰国後は持ち帰った膨大な経典の翻訳に費やしたという。さらに、途中で見聞きした内容を口述により『大唐西域記』(646年成立)にまとめている。これが『西遊記』の大本であり、日本にもここに由来する昔話が数多くあるようだ。
* *
玄奘三蔵の年齢を超えたのは2年前ですが、足元に遥かに及ばず。機会があればワハーン回廊やワフジール峠に行ってみたいものです。
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