新潟コシより7000円高い茨城コシヒカリ【熊野孝文・米マーケット情報】2024年10月29日
大規模稲作生産者や米穀流通業者との情報交換会で、話題になったのは6年産米の収量の話で、晩生になるほど高温障害やカメムシ害の被害が大きく、産地によっては大幅に反収が落ちているところもあるという情報があった。意外なことにインディカ系の血を引いているハイブリッド種も「反収が4~5俵しかなかった」としており、本来高温に強いはずのインディカ系品種であっても今年のような異常高温の影響を受けざるを得なかったようだ。同時に地区によって収量に大きな差があるのも6年産の特徴で、中でも新潟県の状況について収量の落ち込みが懸念され、コシヒカリの価格に関しても強気な見方が聞かれた
農水省が発表した6年産米の相対取引価格によると、9月の全銘柄加重平均価格は2万2700円(60㎏玄米1等、税込み)で前年同月に比べ7409円高になり、農水省が相対取引価格を調査・公表するようになってから最高値になった。主要産地銘柄の相対取引価格は別表の通りだが、最も価格が高かったのは茨城コシヒカリの2万7646円で、前年同期に比べ1万2366円も値上がりしている。これに対して新潟一般コシヒカリは2万858円で、前年同期に比べ3904円値上がりしているものの、茨城コシヒカリに比べ約7000円も安い。相対取引価格は5000t以上の出荷業者で全農、全農県本部、広域農協らの報告が大半だが、産地によってこれほどまでに販売価格が違うという例は過去にない。この原因は、茨城県は千葉県に続く早場米産地でもあり、かつ、商系集荷業者が多いことに加え、今年の場合、商社系集荷業者と大手ディスカウント店の集荷部門の業者が先陣を切って庭先集荷に乗り出し、商系集荷業者ばかりか農協も買取価格を引き上げなくては必要量が確保できなくなった。その上げ幅は、集荷開始後すぐに一気に3000円も引き上げざるを得なくなり、その煽りで結果的に販売価格も大幅に値上がりした。これに対して新潟県は農協系統の集荷比率が比較的高く、当初、JA概算金は1万7000円に設定された。この概算金を設定した背景には販売価格を1俵税別2万円以下にすべしという意向が強く働いたためとみられる。産地銘柄米のプライスリーダーである新潟コシヒカリの販売価格を抑えることによって米価全体の価格急騰を押されるという意図があったものと見られる。しかし、一端、動き出した実勢価格がそうした小手先の対応策で止められるはずもなく、必要量を確保するためには概算金を引き上げざるを得なくなった。
農水省はこれまで国会等でコメ需給がひっ迫して市中価格が値上がりしていることについて質問を受けた際に「スポット価格で取引されるものはごく一部であり、大半は相対取引であり、その価格はわずかな値上がりに留まっている」と繰り返し答弁してきたが、今回、相対価格が一気に7000円も値上がりした要因についてどう答弁するのか。
それ以上にコメ卸は量販店との納入交渉の際に新潟コシヒカリの値入条件のベースにこの相対取引価格を相手先から求められたらどう応えるのかという問題も発生する。クリスタルライスが10月21日に公表した10月上旬の6年産主要銘柄の取引価格によると新潟コシヒカリは9月下旬に比べ845円値上がりして2万8904円(税別)になっており、農水省が発表した相対取引価格は大きな値開きがある。ちなみにクリスタルライスの他の主要銘柄の取引価格は、北海道ゆめぴりか2万7500円、宮城ひとめぼれ2万6638円、秋田あきたこまち2万7175円、関東コシヒカリ2万6562円となっており、市場評価に見合った価格差が形成されている。
市場評価に見合った銘柄間格差の設定は、今後のコメ取引において極めて重要な要素で、近い将来堂島取引所のコメ先物取引がリスクヘッジに耐え得る出来高になり、先物市場で形成される現物指数を基準にして、売り手と買い手が先渡し条件で契約を行う場合、各産地銘柄別格付けが必須条件になる。11月7日に開催される農政調査委員会主催の第4回「コメ先物取引」に関する情報交換会では、報告と討論として1.「米指数価格と各産地銘柄価格との換算方法」 2.「米先物取引と現物取引とのリンク方法」 3.「先物取引の活用方法、参加の方法等」 (事務局)が行われ、続いて最近の米市場と米先物取引への期待、取引参加への問題点等 生産者、農協、流通業者からの現状報告と課題提起がなされる予定で、この席で農政調査委員会から堂島の現物指数を基準とした各産地銘柄別の格付け表が参加者に配布されることになっている。
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