なじめる地元コミュニティーづくり【小松泰信・地方の眼力】2025年2月26日
地方への移住を支援する認定NPO法人ふるさと回帰支援センターのニュースリリース(2月20日付)によれば、2024年の移住相談件数(面談・電話・メール・見学・セミナー参加)は、61,720件。前年比4.1%増で、4年続けて過去最高。センター窓口での相談者が選んだ移住希望地1位は群馬県。これに、静岡県、栃木県が続く。
移住希望地1位群馬県の取り組み
毎日新聞(2月25日付・群馬)によれば、群馬県は1位に選ばれた要因を、「コロナ禍を機に急増したテレワーク需要に県が掲げる『転職なき移住』が合致したことに加え、自然豊かな環境での子育てを希望する若い世代の関心を集めた」と分析。近年の傾向としては、「自然災害の少なさを重視したり、記録的な酷暑を受けて嬬恋村や利根沼田など涼しいエリアを希望したりする相談が増えている」とのこと。
また、2020年に7回開催した移住セミナーや相談会を、24年には過去最多の111回も実施。そこで聞き取った移住者の関心事をもとに、伝統文化やアウトドアなど幅広い内容で開催したそうだ。「回数も内容も誇れるものになり、手応えも感じている」と、自信をにじませるのは担当者。
山本一太知事は記者会見で「県と市町村が連携し、担当職員が一生懸命取り組んでくれた。念願が果たせて、こんなにうれしいことはない」と語り、今後は子育て世代の移住支援にさらに注力するとした。
日本経済新聞(2月26日付・北関東経済)は、同県が第1位に選ばれた要因として、「生活費や教育費の割安感に加え、東京への近さや豊かな自然環境、災害の少なさなどが評価され、子育て世代の相談が増えた」ことや、「首都圏へ通勤できる立地は強みだ。JR高崎駅(高崎市)と東京駅とは新幹線で50分前後。(中略)子育て支援にも力を入れ、県内は高校生世代までの医療費が所得制限や立て替え払いなしで無料」といった点をあげている。
移住希望夫妻の心配
移住といえば、移住希望のご夫妻と出会ったばかりである。時は、2月22日の正午過ぎ。場所は、講演前の昼食場所として案内された長野県東筑摩郡麻績(おみ)村にあるライブカフェ(とでも呼ぶ)。元蕎麦屋を改装して23年春オープン。女性オーナーは他県から移住者(ただし出身は同県)。当コラムにとっては、およそ40年ぶりの麻績村。JR中央本線の特急しなのから懐かしく見るばかりだったが、高速道路が開通したことを除けば、外観として40年まえと大きな変化は認められない。まさかライブカフェがあるとは想定外。本格的なカレーを食べ始めた頃、空気が変わった。
「この辺に良い空き家ご存知ありませんか?」とオーナーに問いかけたのは、隣席のご夫妻。「それなら私よりもこちらの方がよくご存知ですよ。ねぇ」と振り向いた先にいたのは、講演会の仕掛け人でJA松本ハイランドのK理事。
ご夫妻は埼玉県在住。共働きだったが、定年後は長野県に移住することを決め、一足早く妻は退職。来年の夫の退職を待って移住するとのこと。県内を何カ所か回ったが、麻績村に決めたとのこと。趣味のウォーキングに適した環境であったり、北アルプスが見えることなどを挙げられたが、決定打は交通の便。村の中心部にJR聖高原駅と長野道麻績ICがあることで、「子どもたち家族との行き来に便利で、病気でもしたときのことを考えると安心」だからとのこと。
その日は、「移住の前に、リアルな生活環境を体験したい」という方々のために村が用意した、空き家をリフォームした移住体験住宅に滞在されていた。
村おこしの仕掛け人的K氏との出会いで、移住の道はスムーズに進みそうな雰囲気が漂っていた。
ただ、おふたりが最も気にされていたのが、「地域の方々と仲良くしてもらえるだろうか」の一点だったことには少々驚いた。村の方々に仲良くしていただきたい、農作業を手伝いたい、野菜づくりを習いたい、等々の純な願いが叶うことを願うばかりだったが、村の方からすれば「そんなこと心配してんの」ということかもしれない。でも、そんなことこそ大切なこと。
地元コミュニティーになじむための交流支援
空き家といえば、「近年、移住者らによるおしゃれな飲食店やゲストハウスなどの出店が相次ぎ、まちの風景が変わってきた」で始まる山陽新聞(2月26日付)の社説が、「空き家への移住促進」には「関係者の信頼構築が重要」と教えている。
紹介している事例は、岡山県玉野市宇野港周辺で多くの事例に関わっている、移住を支援する「うのずくり実行委員会」。
驚くことに、市や地域住民らとも連携しながら、24年末までに124組221人の移住や開業を実現させている。
宇野に「住(す)んでつくる」を意味する造語から名付けられた「うのずくり」は、クリエーターらを呼び込もうと市民有志によって2011年に設立され、住民らでつくるNPO法人「みなと・まちづくり機構たまの」がバックアップしているとのこと。
活動は、「空き家の調査や情報提供、移住の相談、まち案内など」多岐に及び、「移住希望者を空き家の所有者、不動産や改装の業者、地元町内会、行政、既に移住した人などと結びつける役割」を果たしているそうだ。
「空き家はどんどん増えているものの、売りに出る物件は少ない」、その一方、「市内で店舗や住居に使う空き家を探している移住希望者は多い」ことから、社説子は「空き家への移住促進は、人口減少が進む地域の再生に大きな鍵を握る」と指摘する。
「うのずくりは、移住に関して『ありとあらゆることをサポートする』と銘打つ。空き家所有者や移住者らに寄り添い、移住後も地元コミュニティーになじむよう交流などを進めている」とは、なんとも頼もしい限りである。
「地元コミュニティーになじむよう交流などを進めている」ことを、麻績村で出会ったご夫妻が聞けば、「それ!私たち移住者が求めているのはそれなんです」と膝を打つはず。
春が来れば思い出す
長崎を出て、鳥取、京都、長野、石川、そして岡山。春が来ると、子どもを転校させたときのことを思い出す。
「友だち何人できるかな♫」で済んだころまでは良かったが、「友だちはできるだろうか」「いじめられはしないだろうか」「悪い友だちができないか」などと心配したことを思い出す。成人した子どもたちから、その頃の恨み節を聞かされることも。
大人だって同じ。みんな不安を抱えている。もちろん、地域で受け入れる側もどんな移住者だろう、と不安のはず。
まして、他国から来られた人たちの不安は、日本人のそれ以上のものだろう。みなが抱える目に見えない不安が、一日も早く笑い話になるよう、「うのずくり実行委員会」のような組織が全国各地に創られなければならない。
「地方の眼力」なめんなよ
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