むらの鎮守さまの祭り【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第336回2025年4月17日
その昔の子どもたちの最大の楽しみは、村の鎮守様のお祭りだった。私の生家の場合は八幡神社の祭りだ。9月15日になると学校も午後は休みにしてくれた。
露店が神社の境内に賑やかに軒をつらねる。流鏑馬(やぶさめ)もある。この非日常が子どもには楽しくてしかたがない。しかも家から小遣いをもらえる、その上、親戚などお祭りに招ばれてくる客からもお小遣いがもらえる。
そのお金をもってまず行くのが綿(わた)飴(あめ)屋だ。甘い匂いをただよわせながら白い綿糸が出てくるのをまるで魔法であるかのごとく見ながら、割り箸にくるまるのを待ちわびる。買うと早速口や鼻のまわりに砂糖をこびりつかせながらぱくつく。あっという間になくなってしまうのが何となくもの足りない。
どんどん焼き(山形風お好み焼き)、こんにゃくなどを売る食べ物屋もある。おもちゃ屋には一銭店屋にはない、こんな時にしか買えない色とりどりのおもちゃが並ぶ。くじ引き屋もある。なお、金魚すくいは記憶にない、近在の農家らしい人がいろいろな種類の金魚を担いできて売ってはいるが。
採ってきたばかりの、まだ茶色になっていない「いが」に入ったままの栗の実を地べたに並べて売っている人もいる。これも近在の農家の人のようだ。子どもたちはそれを買って、その場であるいは家に持ち帰って、いがで痛い思いをしないように注意しながらはいている下駄の歯で栗をおさえ、火箸をいがの中に突っ込んでいがのなかに入っている栗の実を取り出す。それから白から茶色になりかけの栗の皮を親指の爪で傷をつけながらむき、まだやわらかい渋は爪でこすってはがす。実はまだ甘くはなっていない。でも、こうした時期の生栗の独特の味を楽しむ。買ってから食べるまでかなりの時間がかかるが、この皮むきも一つの遊びであり、楽しみでもある。
夜になると、アセチレンガス灯の青白い炎がシューと音をたてながら独特の臭いを放って店のなかを明るく照らす。それが何とも幻想的で昼とはまったく違った雰囲気が味わえる。
ただし、女性にとっては自分の家の祭りはあまり楽しくない。他県のむらもそうなのかもしれないが、ともかく山形ではお祭りの時に親戚や友人の間で招待したりされたり、その客の家にお赤飯を届けたり届けられたりする慣習があったからである。女性は朝早くからお赤飯を炊いたり、客に出す食事をつくったり、てんてこまいで祭りを見に行く暇もない。
子どもたちも重箱に詰めた赤飯を親戚などに届ける仕事が与えられる。しかし、届けた家でお赤飯を空けた重箱を返すのといっしょにお駄賃をくれるのでうれしい。それで文句を言わずに、近くは歩いて、遠くは自転車で届ける。
招ぶときは大変だが、招ばれるときは楽である。母も父と一緒に実家のお祭りに行くときもある。そのときはわれわれ子どもももちろんついていく。祖父母に連れられてよく親戚の家の神社のお祭りに連れて行ってもらった。今と違って交通条件が悪いから遠い親戚まで歩いていくのが大変である。それでも楽しみだった。
今述べたことは私の生家の近くの話でしかない。しかも忘れたことが多々ある。地域によって異なるきわめて多様な行事や祭りがあったことはいうまでもない。今も残って有名になっている祭りなどはいいが、消え去ったものもあるし、大きく変わったものもあるだろう。せめてこうした祭りのことがきめ細かくきちんと整理されて記録されて残されていけばいいのだが。
それにしてもこうした祭りが消えてなくなってきたのは寂しい。
祭りを支える人が、子どもが、若者が、そして家がなくなりつつあるのだから当然のことだ。
しかし都市にはいる。そしたらそこで地域の祭りを盛大にやればいい。でもそうはならない。
今から半世紀も前の話である、小学生だった私の子どもの友だちが親に連れられて東京に行った、駅のホームからどっとばかりに乗降客が出入りしているのを見てこう言ったそうである、
「ねえお母さん、東京は毎日お祭りなの?」
そうなのかもしれない、かわりに農山村から祭りがなくなる、そして毎日お祭りの大都市ではその集大成としてハロウィン騒ぎが起きたりなどするのだろう。
そうした事態を引き起こす土壌をつくったのはあなたたち高齢者世代ではないか、などと言われたら、すごすごとあの世に引っ越すより他ないのだが。
その前に、せめてもの罪滅ぼしとして(などという大げさなものでもないが)、わが国の大事な農産物の一つであるイモ類についての雑学(これまた、それにすら入らないかもしれないのだが)を次回から語らせていただきたい。
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