【農と杜の独り言】第1回 国際園芸博覧会とは 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年6月25日
「農と杜(もり)の独り言」と題してコラムを投稿させていただくことになりました。なぜに「農」と「杜」なのかは、追ってお話したいと思います。まずは、現在、少々関わっております「横浜国際園芸博覧会」の話題から。
千葉大学大学院園芸学研究科客員教授・賀来宏和氏
(2027年横浜国際園芸博覧会 GREEN×EXPO2027 農&園藝チーフコーディネーター)
過日、本サイトの「農政・クローズアップ」でご紹介した通り、令和9(2027)年、神奈川県横浜市において国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」が開催されます。平成2(1990)年にアジアで初めての国際園芸博覧会「国際花と緑の博覧会」(通称:「花の万博」)が政府によって大阪市で開催されて以来、実に37年ぶりの国主催の国際園芸博覧会です。
「花の万博」以降、わが国においては、平成12(2000)年に兵庫県主催で「ジャパンフローラ2000」(愛称:「淡路花博」)、平成16(2004)年に静岡県主催で「パシフィックフローラ2004」(愛称:「浜名湖花博」)と続いて国際園芸博覧会が開かれ、アジアでも中国、韓国、タイ、フィリピン、シンガポール、台湾で開かれるなど、平成2年の「花の万博」は、わが国のみならず、アジア諸国にも大きな影響を与えました。
国際園芸博覧会は国際的な民間組織であるAIPH(国際園芸家協会)によって承認される博覧会ですが、その萌芽は19世紀にまでさかのぼります。18世紀半ばから19世紀にかけて英国で起こった産業革命を機に、市民の暮らしぶりが変化します。それまで、貴族や大商人らに限られた嗜(たしな)みであった園芸が、英国、さらに、その刺激を受けた欧州各国において、産業革命によって豊かになった一部の新興市民階層に徐々に広がります。
現在、世界で最も質の高いフラワーショーとされる毎年5月にロンドンで開催される「チェルシー・フラワー・ショー」の前身である「グレート・スプリング・ショー」が最初に開催されたのが1862年。この19世紀後半の英国におけるショーを参考に、国際園芸博覧会の前身とも言うべき、国際的に開かれた園芸展示会を行ったのが、ベルギーとされます。ベルギーのゲント地方はアザレア(西洋ツツジ)の生産で名高く、生産者たちが、生業の拡大を狙って、英国のショーを参考に園芸展示会を開催したとされます。ちなみに、アザレアの育種には、台湾や日本から欧州に持ち込まれたツツジが使われています。
この園芸展示会が進化し、国際園芸博覧会として形を整えたのは、第二次大戦後のこと。戦後間もない1948年に設立された国際園芸家協会(AIPH)は、大戦の際に国土を蹂躙(じゅうりん)されたオランダ、ベルギーを中心に、戦勝国である英国、フランス、及び、敗戦国であるドイツ、イタリアの各国の民間の園芸・造園団体によって構成された組織である点が大きな特徴であり、二度の大戦を経て、欧州を再び戦禍の地とすることなく、花によって交流と平和を、という理念に基づいたものでした。そして、最初の国際園芸博覧会は、1960年に花の王国オランダのロッテルダムで開催されました。
AIPHが承認する国際園芸博覧会は、その規模により分類されます。最も規模の大きい博覧会(A1クラス)は国が主催する国際園芸博覧会であり、政府間の国際条約に基づくBIE(博覧会国際事務局)認定の国際博覧会(万国博覧会)にもあたるもので、「花の万博」はこのA1クラスの博覧会でした。一方、「淡路花博」「浜名湖花博」は、自治体が開催主体となる国際園芸博覧会で、一つ小さいクラスでした。
BIE(博覧会国際事務局)認定の万国博覧会は、国際博覧会条約に基づき、一定の年次に開催することが定められ、オリンピックの誘致のように、各国が開催年次と開催候補地についてしのぎを削ります。現在開催中の「大阪・関西万博」も、世界から手の挙がった候補地の中から日本の大阪が選ばれたものです。一方、AIPHが承認するA1クラスの国際園芸博覧会は、開催年次は通常の万国博覧会と重なってはならないなどの規程はあるものの、AIPHが承認したものは(つまりその時点で開催候補地は1ヵ所となっています)、BIEはいわば自動的に承認するような仕組みになっているのです。つまり、政府間の国際条約上でありながら、民間団体のAIPHが例外的に特権を有しているということです。
このことは国際博覧会の中で、「園芸」が別格の存在であったことを意味します。1851年、産業革命華やかりし英国のロンドンで最初の万国博覧会が開催された頃、「園芸」は、当時の為政者にとって特別な存在であったことが現在のこの仕組みにつながっているのでしょう。
園芸博覧会と言えば、花を思い浮かべます。しかし、その意味するところの「園芸」とは、「花き」や「樹木」及びその作品である「庭園」や「装飾」にとどまらず、「果樹」「そ菜」などを含んだ広い園芸産業を対象としています。そして何よりも、農業の源でもある植物に対する国民的な関心や行動を促す場が園芸博覧会です。
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