DNA・血液・遺体の行方【小松泰信・地方の眼力】2025年9月24日
9月10日付の当コラムでは、佐賀県警科捜研の元職員によるDNA型鑑定不正事件を取り上げた。まずはその続報から。

捜査機関の隠蔽体質
西日本新聞(9月18日付)によれば、17日の佐賀県議会本会議の一般質問で、県議4人がこの問題に関して「同じ捜査をする立場の人が『公判への影響はない』と言っても納得しがたい」として、再三、第三者機関での再調査を求めた。しかし、福田県警本部長は、「県公安委員会が調査を確認している」ことから、第三者機関の設置や再調査を拒否。同公安委員会の岸川委員長も「設置する必要はない」と答弁。
山口知事は「公判に影響がなかったというのは結果論。民主主義の根幹を揺さぶる話なので、再発防止策を打ってもらいたい」と取材に答えている。
第三者機関での調査を求める声明を出している県弁護士会の杉山刑事弁護委員長は「組織の隠蔽(いんぺい)体質がうかがわれる答弁。筋が通らず、誰が聞いても違和感しかない」とコメント。
田淵浩二氏(九州大法科大学院教授・刑事訴訟法)も「公安委は第三者機関ではなく県警の管理組織であり、調査能力はない。第三者の調査が必要だ」と外部調査の必要性を強調した。
同紙(9月23日付)によれば、22日に県弁護士会が記者会見を開き、県警の姿勢を「組織的な欠陥を改める姿勢が全くない」と批判。既にプロジェクトチームを発足させ、第三者委の設置や詳細な情報開示を県警側に求めることや刑事裁判で不利益を被った人がいた場合、国家賠償請求訴訟や再審請求を支援するとのこと。
第三者委員会の設置は不可避
「不正は鑑定の過程全般にわたる。驚くべき事態だ」とする朝日新聞(9月22日付)の社説は、「供述に頼った捜査が冤罪(えんざい)を生み、再審で無罪になる事例が相次ぐなか、客観的な証拠に基づく科学的捜査、とりわけDNA型鑑定の重要性は増している。鑑定への信頼を揺るがす不正やミスが生じていないか、全国の警察は確認を急がねばならない」で始まる。
佐賀県警本部長の第三者委員会の設置拒否に言及し、「信頼を回復するには調査自体を『外の目』で行うことが不可欠だ。判断を佐賀県警に任せるべきではない」と断じる。
そして、「究極の個人情報とされるDNA型の鑑定が『もろ刃の剣』」であるがゆえに、「資料の収集・保管から鑑定作業、その後の保存と登録まで、適正な対応を徹底する必要がある」とする。
読売新聞(9月21日付)の社説も、「科学捜査への不信を招きかねない前代未聞の事態である。DNA型鑑定は、捜査や裁判で重要な証拠となる。不正は断じて許されない」と指弾する。
県警が捜査への影響を否定していることについても、「その説明を額面通りに受け止めていいのか。試料が正しく保管されていなければ、再捜査が必要な時に再鑑定ができなくなる」として、「本当に影響がなかったのか、第三者を含めた検証が必要だろう」とする。
毎日新聞(9月22日付)は、県警が元職員を懲戒免職処分にし、書類送検したことを「幕引きを急ぐような姿勢」とした上で、「DNA型は証拠の最後のとりで。逮捕して調べるべきだ」「7年以上も不正が見過ごされてきたのは、警察をチェックする機関が事実上存在しないことが背景にある。内々の調査では限界があり、評価機関やシステムを整えるべきだ」とする、大谷昭宏氏(ジャーナリスト)のコメントを紹介している。
冤罪被害者を生むとともに、真犯人を取り逃がすという二重の罪を犯さぬためにも、第三者委員会による徹底した事件解明とそれに基づく対策づくりが不可欠である。
「DNA」の次は「血液」
日本赤十字社は、献血針の使い回し事故や手順ミスによる血液の廃棄などが相次いだことを受け、19日に会見を開き謝罪した。
朝日新聞(9月20日付)によれば、今年5月、東京都赤十字血液センターで、冷凍庫の故障によって血液製剤約1万3700本が当初の用途では使えなくなる事態が発生。8月には、JR大森駅での献血で集めた39人分の製剤を廃棄。9月には、北海道、兵庫県、福岡県で、他人に使った献血用の針を誤って別の人に刺す事故や、血小板製剤の保管方法のミス、血液製剤の輸送時に温度管理を誤って33人分の血液を廃棄、とのことである。
日赤の紀野血液事業本部長は、「献血事業が国民の善意で成り立っていることをふまえ、これらの事態の発生について大変重く受け止めている」と述べるとともに、日赤本社に「安全管理室」を新設し、再発防止に取り組むそうだ。
比較対象のレベルが低すぎるが、佐賀県警よりは「ちょっとだけマシ」な対応か。
そして「遺体」
葬儀会社が、遺体を取り違えて火葬するトラブルが相次いでいることを報じているのは日本経済新聞(9月20日付)。死亡数や「直葬」(葬儀を行わず遺体を火葬)の増加により、葬儀会社が一時的に保管する遺体が増えていることなどを背景とする。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、年間死亡数は40年に166万人に達するまで増え続けるとのこと。
「死者数が増えれば、トラブルも増えていく可能性がある」と語るのは、松本勇輝氏(全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)専務理事)。
「遺体の管理や衛生面に関する公的なルールはない。葬儀会社を直接所管する省庁もなく、全葬連などの業界団体に加盟する事業者も一部にとどまる」との記事には驚いた。
「尊厳のある最期を守るためには、葬儀会社を登録制などにしてルールを整備し、トラブル事例などを共有する仕組みを整えるべきだ」と語るのは横田睦氏(全日本墓園協会主管研究員)。
厚労省は近く遺体を取り扱う事業者向けに、遺体の管理や衛生面に関するガイドラインを作成する方針だそうだ。
これまで、法律での部分的規制と地域慣行や業界ルールで対応してきた「遺体の取り扱い」だが、遺体の尊厳を損なう悲しむべき事案の多発化などを受けてのガイドライン、すなわち国としての「統一基準」の作成となったようだ。
DNA、血液、そして遺体をぞんざいに扱うこの国が、米粒を大切にする訳がない。肝に銘じておこう。
「地方の眼力」なめんなよ
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