農政:極端気象・猛暑・豪雨とどう向き合うか
【極端気象・猛暑・豪雨とどう向き合うか】(3)人災要因 脱炭素"放置"のつけ 災害多発で国力低下も 三重大学大学院教授 立花義裕氏2025年9月24日
「今年7月に上梓した『異常気象の未来予測』(ポプラ社)で、世界は地球温暖化による“アナザーワールド”の入り口に来ていると書いた。アナザーワールドとは、たとえば『日本の夏の気温は40度が当たり前で、豪雨も日常化する世界』のことである。異常気象がニューノーマルとなる日本の未来。それは日本の国力をも弱めることになりかねない。
三重大学大学院生物資源学研究科地球環境学講座教授 立花義裕氏
「異常気象は仕方ないから諦めるしかない」という声を聞く。そんなことはない。人間の活動によって異常になっているのだから、元に戻すべきだ。そのためには、温室効果ガスの排出量を一刻も早く減らすことが何よりも重要だ。日常化する異常気象は「人災」の側面がある。元の気候に戻すための脱炭素を「本気」で取り組んでいない我々がここにいる。米価高騰も、異常気象による「人災」といってもいい。災害級の「自然現象」の発生は防ぎようがないが、「人災」の発生は脱炭素によって防ぐことができる。
今年の夏は、猛暑だけでなく、豪雨が各地で発生した。8月の熊本の線状降水帯による豪雨が注目されたが、今年は、北陸、北海道、東北等を始めとして観測史上一番の豪雨が日本列島各地を襲った。9月には東京都心部をゲリラ雷雨が襲った。特徴的なのは、雨量があまり多くない、日本海側や北海道でも豪雨が発生したことだ。9月には北海道でも観測史上初めて線状降水帯が発生した。実は猛暑と豪雨は関係している。そして、8月の豪雨の構造は、気象の天気図的には、梅雨前線とそっくりだった。今年の梅雨明けは異常に早かった。梅雨前線は一旦消滅したが、8月になって、復活した。これが豪雨の直接的原因だ。偏西風が一時的に南に下がり、それが梅雨を復活させた。「ゾンビ梅雨」といっても過言ではない。ゾンビ梅雨は、梅雨期の「普通の梅雨」よりも強力となる。その理由は、海面水温の異常高温だ。温暖化と6月から続く史上一番の猛暑により海水温が上昇し、大気中の水蒸気量が増えているためだ。水温が高ければ高いほど、海からは水蒸気が大量に蒸発する。海面水温が高いということは、それだけ水蒸気が大量に海面から上がってくるため、豪雨被害が起こりやすいということだ。温泉の露天風呂からでる湯気をみればそれは誰でも想像できよう。低気圧や前線が海上にある場合、海面水温が高ければ高いほど水蒸気が大量に空気中に吸収されるため、豪雨が強化される。それが激しい豪雨の発生の原因だ。だから猛暑と豪雨が連鎖する。晴れれば猛暑、降れば豪雨の二極化となる。これが温暖化時代の日本の気候だ。
真夏に梅雨前線が一時的に下がることは、過去にもしばしばあり、珍しいことではない。今年が過去と決定的に違う点。それは海水温だ。観測史上一番の異常高温の海から、大量の水蒸気が大気に供給され、それが豪雨となる。だから水温が低い北海道や東北北部でも豪雨が起こった。
一旦上がってしまった海水温は、なかなか下がらない。だから、9月も10月も水温は高温傾向となる。だから、秋雨前線による雨も豪雨が予測される。台風の豪雨も同様だ。水温が高いほど、台風が強くなることは、よく知られている。台風と秋雨は連動する。台風接近時に秋雨前線が停滞すると台風から遠い場所でも豪雨となる。
豪雨は、農地だけではなく、道路や鉄道などの社会インフラや建築物を破壊する。それは、「自然災害」と呼ばれるが、人災の側面もある。豪雨を強化させたのは、まぎれもなく、温暖化だ。だから、脱炭素に本気にならなかった「人間」が災害増幅に加担したと考えられる。農地、道路、鉄道の復旧費は、温暖化がもたらす社会的費用と考えられる。自然現象だから仕方が無いのではない。脱炭素によって、元の気候に戻せば、気象災害は、確実に減る。
最近は、豪雨で幹線鉄道網が機能しなくなっている。日本海側を縦貫する鉄道や東北本線などが、長期間通れなくなることが多くなっている。日本海縦貫線は大阪と北海道の物流、東北本線は北海道と東京を結ぶ物流だ。北海道と本州を結ぶ鉄道は、農作物を大量に運ぶ。
貨物輸送の主流はトラック輸送が圧倒的多数だが、1000キロ以上の遠距離輸送だと鉄道が4分の1程度を占める。食品や農作物は、鉄道の分担割合がさらに増加。鉄道が長期にわたって使えなくなれば、他の輸送手段を用いるため、時間とコストが増加する。そうなると価格にも反映される。鉄道貨物の特性は、大量輸送であり低炭素排出だ。単位重量、単位距離あたりの二酸化炭素排出量は長距離トラック輸送の10%未満。トラックよりも圧倒的に地球環境に配慮されている。長距離輸送をトラックから鉄道に切り替えることは温暖化を食い止めるために大いに推進すべき施策だ。これを「物流のモーダルシフト」と呼ぶが、豪雨に脆弱(ぜいじゃく)な幹線鉄道インフラがそれを阻む。
温暖化に伴う異常気象は食料問題に直結する。気候が変われば日本や世界の農作物の収穫量や品質が悪化する。毎日の食卓に影響が及ぶ。日本の食料自給率が極めて低く、他の先進国と比べると最低の水準だ。猛暑は経済に悪影響を与える。その代表例が、米だ。猛暑とそれに伴う干ばつで米どころの県で一等米が育ちづらくなっている。この影響がトリガーとなったのが2024年から始まった米価の高騰だ。米価高騰の責任を政府の農業の分野の「悪政」のためとする風潮があるが、それだけでは、急激な米価高騰は起きない。一番の「悪」は、温暖化問題に背を向けてきた我々だ。政府に責任を求めるなら、脱炭素政策に本腰を入れてこなかった「悪政」を非難した方がよいであろう。
米価高騰を始めとする食料価格高騰が目の当たりとなった今、「経済優先と脱炭素優先の二者択一問題化」が間違いであることに気づいた人が増えた。脱炭素を放置した場合、日本や世界の経済を悪化させる。そして、それは日本の国力をも弱める。(おわり)
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