(460)ローカル食の輸出は何を失うか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月7日
比較優位という経済の大原則のひとつから見れば、農産物輸出の拡大は好ましい現象です。ただし、同時に、地域の食文化を少しずつ消耗させていくかもしれません。
「和食」は世界的なブランドに成長したようだ。2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されてから既に10年以上、今や世界の多くの国で認識されるようになった。これ自体は大変喜ばしい。
一方、昔から「量の増加が質の低下につながる」との指摘は各分野でなされている。「和食」も例外ではない。世界各地で「和食もどき」が大量に発生している。しかし、そもそもグローバル化が進展し、農産物や食が世界的に動くようになれば、質の低下だけでなく、地域の食に関わる"文脈"、つまり人や土地との関係性が抜け落ちるかもしれない。
台湾茶や中国料理、音楽におけるK-Popなどを例にするまでもなく、本場での楽しみ方とはやや異なる形であれ、多くの人が楽しむ過程で、微妙に作法や仕草、味わい方などが変化しながらも、広範に普及する例は食に限らず数多く存在する。
ビジネスの観点から見れば、これは、食や娯楽を含めた地域独自の文化産業と、相手方市場の特性を踏まえたマーケティング戦略、そして場合によっては国家戦略などが交錯する領域でもある。
その結果、恐らく今や、日本国内で消費される「寿司」「天ぷら」などより、海外で消費される「寿司的な食事」や「和食的な食事」の方が、遥かにグローバル市場に適用しているという状況が生まれている。
ここでのポイントはグローバル市場のニーズに適用するために、本来の「和食」から何が削ぎ落されたか、そして、今後は何を喪失するか、である。言い換えれば、巨大な市場に適用するため、効率的な生産が不可欠となれば、一般的には画一的な生産に行きつく。利益は欲しくとも画一化するのが嫌な経営者は、製造工程や最終製品をいくつかのパーツに分け、それらの組み合わせを活用し、あたかも独自性と多様性が存在するような形を選択するであろう。これがモジュール化である。
一般に、製造業において職人の手作りのようなインテグラル型と均一化した部品を用いる大量生産のモジュール型という分類が行われる。多かれ少なかれ、現代人はモジュール型製品の恩恵を受けている。だからこそ、何か困ったときには、特定部品の交換だけで快適な生活が維持できている。食のグローバル化も最後はモジュール化に傾きやすい。
これは確かに合理的だが人間の心はそれだけでは割り切れない。地方に行けば、その土地独自の料理を食べたいし、特定の素材や、特定のシェフだからこそ出来る料理が高く評価される。
同様に、ローカル食材を輸出しようとした場合、グローバル市場のニーズに応えるためには、生産者がこだわってきた細部をどこまで削れるかが試される。料理も同様である。
厳しい言い方をすれば、世界中に普及させるためには、現地の流通や顧客のニーズに対応して、「和食」の何を削れば良いかを試行錯誤しなければならない。それが単なる技術的な点であれば比較的簡単かもしれない。
問題は、核心が"文脈"のような場合である。「和食」の核心とは、素材とそれを生産・調理する"職人"、特定の土地と季節、さらには提供者と顧客、といった関係性や地域性が伴い初めて本当の価値が生じるものなのではないだろうか。
注目されているフードテックの進化は、いつの日か、「味」という面についてのみでは、同水準に到達するかもしれない。それはそれで良い。ただし、あえて問うとすれば、日本が本当に守るべきは、テクニカルに再現した「味」そのものではなく、その「味」を生み出す土地や季節、人との関係性なのではないだろうか。
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