花をつくる新メカニズム「フロリゲン・リレー」を発見 横浜市立大など2025年12月24日
横浜市立大学木原生物学研究所の佐藤萌子氏と辻寛之教授らの研究グループは、信州大学、農研機構、東京大学との共同研究で、フロリゲンが花をつくる新しいメカニズム「フロリゲン・リレー」を発見(図1)。フロリゲンが花をつくる際の詳細な分布を高精細に明らかにし、フロリゲンとサイトカイニンの拮抗的な関係を明らかにした。同研究成果は植物が花をつくるしくみの理解を大きく深め、植物の改良を加速させる。

植物が花をつくる際に最も重要な役割を担うのがフロリゲンす。植物が花づくりに適した環境を認識すると、フロリゲンが葉で合成されて維管束を通って茎の先端へ運ばれ、到達したフロリゲンは、幹細胞を含む組織である茎頂メリステムに作用し、植物は葉をつくる状態(栄養成長相)から花をつくる状態(生殖成長相)へと切り替わる。
フロリゲンがメリステムでどのように相転換を引き起こすのかを明らかにすることは、植物の生存戦略の理解にも農業生産への貢献にも大きく関わる重要な研究として注目されている(図2)。
図2:フロリゲンによる茎頂メリステムの成長相転換
同研究では、フロリゲンは茎頂メリステムのどこに分布しているのかを細胞レベルで明らかにし、花をつくるために重要な役割を果たす植物ホルモンとどのように関わりながらメリステム全体を転換させるのかを明らかにすることに取り組んだ。
研究内容
同研究は将来の食糧生産への貢献も視野に入れ、世界三大穀物のひとつであるイネを用いて進めた。はじめに、茎頂メリステムにおけるフロリゲンの分布を観察した結果、フロリゲンは茎頂メリステムの中央部分に多く蓄積することがわかった(図3)。フロリゲンによる花づくりはメリステム全体で開始すると考えられてきた従来の仮説とは異なり、フロリゲン自身はメリステム全体ではなく中央部分に強く偏って分布していたため意外な発見だった。
図3:イネのメリステムにおけるフロリゲンの空間的分布。
(左)花序メリステムとその周辺領域におけるフロリゲンの分布、
(右)一細胞解像度で可視化したメリステム内部のフロリゲンの分布
次に、フロリゲンと植物ホルモンの関係を調べ、多数の実験と観察から、細胞分裂を活性化する植物ホルモンであるサイトカイニンが特に重要であることが判明。サイトカイニンの観察を可能にする独自のイネ系統を開発し、これを先に使用したフロリゲンのイメージング技術と組み合わせることで、フロリゲンとサイトカイニンの空間的分布を同時に可視化することに世界で初めて成功した(図4)。
図4:メリステムにおけるフロリゲンとサイトカイニン情報伝達の空間的分布。
(左)フロリゲンHd3a(緑)とサイトカイニン(マゼンタ)の働く領域、
(右)フロリゲンとサイトカイニンの空間的分布の模式図
観察の結果、フロリゲンはメリステムの中央部に、サイトカイニンは周縁部に位置し、まるで異なる領域をそれぞれが支配するように分布していることが明らかになった(図4)。これは、フロリゲンによる花づくりとサイトカイニンによる細胞分裂が、空間的に異なる領域で進むことを示している。
さらに、フロリゲンとサイトカイニンが機能的にどのように異なるのかを調べるため、一つのメリステムから全遺伝子の発現を解析できる独自技術、シングルメリステムRNA-seqを開発して解析。その結果、フロリゲンとサイトカイニンはメリステムでOsFTL1と呼ばれる遺伝子を拮抗的に制御していることが分かった。
フロリゲンはOsFTL1を活性化し、サイトカイニンは抑制。OsFTL1についても空間的分布を観察してフロリゲンと比較したところ、OsFTL1はフロリゲンが主に分布するメリステムの中央部分で合成された後、メリステム全体へ広がり、各領域で花づくりに関わる遺伝子の発現を促すことを発見(図5)した。
図5:メリステムにおけるOsFTL1の空間的分布。
OsFTL1は遺伝子発現の発現領域からメリステム全体に広がり、花を作る遺伝子(OsMADS15)を活性化する
今回明らかになった「フロリゲン・リレー」は、フロリゲンがどのようにメリステム全体へ影響を広げて花がつくられていくかを説明する新たな発見。また、今回の研究では、フロリゲン・リレーの中心を担うOsFTL1の働きを抑えることで、穂の種子数を増やせる可能性も示された。これはフロリゲン・リレーを利用した収量向上の可能性を示しており、将来の育種技術や栽培技術に新しい発想につながる。
同研究成果は12月20日、米国の科学誌『Science Advances』に掲載された。
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