農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(96)JIRACの分類【防除学習帖】第335回2026年2月7日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っており、そのことを実現するのにはIPM防除の活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探りたいと考えている。
IPM防除では、みどり戦略対策に限らず化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせ、必要な場面では化学的防除を使用して防除効果の最大化を狙うのが基本だ。その際、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できればみどり戦略対策にもなるので、本稿では現在、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理し、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道がないかを探っている。そのため、登録農薬の有効成分ごとに、その作用機構を分類し、RACコードの順番に整理を試みている。
前回よりJIRACの分類表(2023年9月版)にもとづいて整理し紹介している。整理の都合上、JIRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
2.アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤 (有機リン系)
(1)主要作用機構:アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害
この主要作用機構グループには現在のところ、カーバメート系と有機リン系の2つのサブグループがあり、今回は、有機リン系を紹介する。
(2)作用分類:神経作用
(3)サブグループ名:有機リン系/IRACコード[1B]
(4)有効成分名[農薬名]:
有機リン系に属する有効成分は15成分があり、それぞれの有効成分名[農薬商品名]は次のとおり。
①アセフェート[オルトラン・ジェイエース・ジェネレート・スミフェート]
②カズサホス[ラグビー]
③クロルピリホス[ダーズバン]
④CYAP(シアノホス)[サイアノックス]
⑤ダイアジノン[ダイアジノン]
⑥ジメトエート[ジメトエート]
⑦MEP(フェニトロチオン)[スミチオン]
⑧ホスチアゼート[ネマトリン、ガードホープ]
⑨イミシアホス[ネマキック]
⑩イソキサチオン[カルホス、カルモック、ネキリエースK]
⑪マラソン(マラチオン)[マラソン]
⑫DMTP(メチダチオン)[スプラサイド]
⑬PAP(フェントエート)[エルサン]
⑭プロフェノホス[エンセダン]
⑮有機リン系/プロチオホス[トクチオン]
(5)アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤の作用機構と特徴
害虫が行動を起こす時、神経細胞が信号を受け取り、それに対する行動を起こすべく、隣接細胞へと新たな信号を発信するという情報処理が行なわれている。この時重要な役割を果たすのが神経伝達物質であり、神経細胞はこれを使って他の神経や筋肉細胞と通信している。神経伝達物質は神経細胞から放出される小さな分子で、速やかに隣接細胞へと拡散し、たどり着くとある決まった反応を促す。その反応の種類は、神経伝達物質によって異なり、GABAは情報の行き来を阻害し、アセチルコリンは主に信号を神経細胞から筋肉細胞へ運ぶ仕事を担っている。運動神経細胞が神経系から特有の信号を受け取ると、シナプスから筋肉細胞へとアセチルコリンが放出されて、筋肉細胞上にある受容体を開いて筋肉を収縮させる。この役目を終えるとアセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼの働きで速やかに分解されるのだが、本グループの殺虫剤は、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害してアセチルコリンを分解されないようにする。そうなるとアセチルコリンが蓄積して、筋肉を収縮する信号が発信続けられることになり、害虫は運動障害を起こし、殺虫効果が現れる。
(6)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
有機リン系殺虫剤の各有効成分のリスク係数と基準年のリスク換算量およびリスク換算総量を次表に示した。ジメトエートとDMTPについてはADIが未評価であるが、有機リン系殺虫剤全体のリスク換算量を算出する目的で最高のリスク係数1を当てはめて算出した。
これによると、有機リン系殺虫剤のリスク換算量の合計は2,183.8トンと基準年のリスク換算総量に対し9.4%を占めた。農薬登録の維持状況を確認すると、2026年1月末ではCYAPおよびDMTP、クロルピリフォス、プロフェノホスの4成分が登録失効しており、加えて農薬の再評価制度の影響で登録が維持される有機リン系有効成分においても適用場面が大幅に減る見込みで、総じて有機リン系殺虫剤の使用量は減少していくと考えられている。現に直近の統計データ(2024農薬年度出荷実績)では、有機リン系殺虫成分のリスク換算量合計は1,388.7トンと基準年より795トンも減っており、これは基準年のリスク換算総量が5年間で3.4%減少したことを示している。今後も使用量の減少は続くとみられており、それよりも再評価制度の影響で使用できる殺虫剤が減っていく中、再評価をクリアして登録が維持できる有機リン系殺虫剤は貴重な殺虫剤として維持された登録の範囲内で使用を継続する方が農作物の安定生産に寄与できると考えられる。
(7)有機リン系の農薬登録がある主要害虫一覧
有機リン系殺虫剤は非常に適用作物が多いため、適用害虫と登録有効成分の一覧を次表に示した。現在登録を有している有効成分を列記したが、再評価制度の進行に伴い登録内容が変更される場合があるので、この表は防除対象害虫ごとの殺虫剤選定の参考とし、農薬の実際の使用にあたっては、適用作物等の適用内容を製品のラベルでよく確認して使用すること。
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