数字で読む「令和の米騒動」2025 (下) 始まった損切り 小売りにも値下げの動き2025年12月23日
2025年の農政は「米」に揺れた。「令和の米騒動」を「数字」と「証言」で振り返る連載。「下」では、商系集荷業者の集荷からの撤退と損切り、小売で始まった変化を追う。

746.8万t
米の需給が「じゃぶじゃぶ」(小泉前農相)に緩みつつあったのに、概算金など集荷価格、そして相対取引価格はなぜこれほど上がったのか。全農とちぎ米穀課の担当者は「高温と水不足で作柄への不安が広がり、需給と米価をめぐる情勢は7月下旬に変わった」と話す。猛暑や渇水、カメムシの影響で25年産米の収量が不安視され、需給から乖離して価格が一段と上がったのである。
ふたを開けてみると、10月25日現在の予想収穫量は、ふるい目幅1.7ミリベースで746万8000t、前年産に比べ67万6000tの増加となった。この収穫量をもとに試算すると2026年6月末の民間在庫量は214万t~228万tと見通される。2015年の226万tを上回り近年では最大量となる可能性があった。
神明・藤尾益雄社長は本紙インタビューで「全農は概算金を払っているので販売価格をなかなか下げられませんが、相場が先に下がるでしょう。一つの節目は12月です。......資金繰りもありますので、集荷業者は、高い米を集めたら速く捌かないとお金が回りません。決算期の3月も節目になりそうで、高く仕入れた米を安く手放し損切りする業者も出てくるかもしれません」と語り、米価暴落を懸念した。
この懸念は現在、広く産地、取引関係者に共有されつつある。藤尾社長は12月2日、新潟市内で開かれた米生産者大会で講演し、「このままいけば(米価格が)暴落するのは間違いない。どこまで暴落するかはわからないが、かなり暴落する可能性はある」と語った。ショッキングな内容だったが、生産者大会を主催したJA新潟市米穀課の担当者は「藤尾社長のお話は生産者がみな感じていることだ」と語った。
3億円
倉庫に積まれた在庫を見上げるフクテイの福島英一社長(青森県弘前市)
「高く仕入れた米を安く手放し損切りする業者も出てくる」。その実情を明かしたのが、青森で急成長した商系集荷業者フクテイの福島英一社長だった。
「スポット価格が下がり始めたのは9月前半ですが、まだ米は動いていた。それが10月10日頃からピタッと動きが止まったのです。買うと約束していた先が買えなくなったり、ともかくお米が動かなくなったのです。それでも、これまでの取引先のおかげで何とか終売に近いところまでいきましたが、今年集めた20万俵では3億円儲けたのに、増えた分の5万俵は3億円損をしたので、トータルではトントンでした」
フクテイは、それでも残った「まっしぐら」「晴天の霹靂」など4銘柄を本社前で、精米5kg3480円で売り出した(現在は10kg6880円で販売)。「赤字ですが、高値集荷した玄米で売るより損も少なくて済むし消費者も喜んでくれるので」(福島社長)
3000円台
本体価格3000円台で特売された銘柄の新米が並ぶ売り場に立つスーパー・マルサンの小澤清さん(埼玉県久喜市)
暮れも押し詰まった12月後半になると、農水省が公表するPOSデータにもとづく量販店価格はなお高止まりしているものの、一部スーパーなどで価格を引き下げる動きが出てきた。集荷、卸といった「上流」から始まった米価下落は「下流」の小売りにも及んできたのである。
埼玉県のスーパー「マルサン」久喜店では、宮城県産「ひとめぼれ」が5kg3990円、茨城県産「にじのきらめき」が3790円、同「コシヒカリ」3890円、栃木県産「とちぎの星」3890円、新潟県産「こしいぶき」3890円(いずれも税抜)と、本体価格3000円台の「特売品」が歳末商戦で賑わう店頭にズラリと並んでいた。マルサン久喜店の小澤清さんは「24年産の在庫を抱える卸さんは少しでも売らないと、ということで安くしてきている。小ロットの米を、大手をかいくぐって仕入れているのです」と話した。
12月23日からは、アイリスオーヤマが公式通販サイト「アイリスプラザ」と「ダイシン」など系列ホームセンターで国産ブレンド米「和の輝き」を精米5kg4270円から3980円に値下げしている。同社は「25年産米の販売が前年割れしているのは事実だが、当社は在庫の米が売れないので価格を下げるということではなく、米価がなかなか下がらない中少しでも消費者に買い求めやすく提供できればと考えました」(広報)と説明するが、取引の各段階で損切りの動きが広がる可能性がある。
2026年
12月11日、島根県の丸山達也知事は神明・藤尾社長の発言にも言及しつつ、「来年の米価は急落する。時限爆弾のタイマーが鳴っている」と記者会見で警鐘を鳴らした。米価バブルが最終局面に入る中、私たちは新しい年を迎えようとしている。
「令和の米騒動」からどんな教訓を引き出すか。さまざまな論点が錯綜するが、少なくとも2つのことは言えそうだ。
1つは、米価高騰は需給ギャップ(米不足)の結果であり、特定の業者に悪者の烙印を押して叩いても何も解決しないということだ。米不足(農水省の需給見通しの誤り)については8月5日に石破首相(当時)と小泉農相(当時)が認め、卸業者叩きの誤りについては11月25日に鈴木農相が陳謝したことは前述のとおりだが、「悪者探し」ではなく「構造を見る」ことの重要性は改めて確認したい。
もう1つは、農家が安心して米作りを続けられるセーフティネットの拡充だ。1970年代以降、日本の米問題は「国内需要を大きく超える過剰生産力をどう調整するか」という枠組みで考えられてきた。だが、今はともかく、このまま農家と田んぼが減り続ければ国内需要が国内生産で満たせなくなる恐れが高い。その近未来が浮かぶからこそ、米不足への不安は需給の数字以上に増幅されたのではないか。
農水省が需給をあらかじめ正確に見通しきることは難しい。とすれば、端境期の米不足を防ぐには余裕を持った生産をするしかない。だが、6月末民間在庫が200万tを超えれば価格下落の不安が出てくる。余裕を持った生産を安心してできるには、政府備蓄による買い入れなど需給の事後的調整や直接支払いによる所得補償、セーフティネット拡充が待ったなしの課題となる。
「農家に欧米並みの所得補償を」と訴えた「令和の百姓一揆」トラクターデモは共感の輪を広げた
(3月30日、東京都内)
そのことが生産者の願いにとどまらず、「令和の百姓一揆」などの運動や多くの消費者の「自分ごと」になり、衆参の農水委員会でも踏み込んだ議論が重ねられた点に、「令和の米騒動」のプラスの産物があった。この芽を枯らさず、2027年度からの新しい水田政策へとつなげられるか。バブルが弾けた後にこそJAは真価を発揮し、「瑞穂の国」を守るための真の議論も深める必要があるだろう。
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