【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】新政権の農政~「朝令暮改」2025年10月30日
新総理は以前から「食料自給率100%を目指す」と宣言していた。現実的にすぐに達成できるかと言えば実現性の乏しい目標ではあるが、その方向性と意欲は賛同できる。また、「積極財政」を掲げていることも評価される。
緊縮財政の下、米国からの要請に対応した多大な支出を埋め合わせる予算カットの標的にされてきた農業だ。今度こそ、「農業にこそ積極財政」を実現できるか。自民党の「積極財政議員連盟」のリーダーの城内実先生が引き続き入閣されているのも期待できる。
しかし、具体的にどうやって食料自給率を上げていくのかについて問われると、総理からは植物工場が第一に挙がってくる。これでは、現場の実態をよく把握されているとは言い難い。
植物工場は初期投資もランニングコスト(特にエネルギーコスト)も高く、採算ベースに乗っているものはベビーリーフ(葉丈10~15cm程度で収穫した幼葉の総称)のかなり少ない事例だと関係者は口を揃えている。土壌からの微量栄養素に欠けるという問題はさておいても、植物工場で食料自給率が大幅に向上できるという発想は現実離れしている。
また、コメ政策については、石破政権では増産の方向性が示されたのが、あっという間に覆されて、来年は減産の方向性が示された。「需要に応じた生産」はわかるが、コメ騒動の原因を顧みてほしい。
需給調整を減反でギリギリに行おうとして消費の変化と猛暑の影響に対応できずにコメ騒動が起きた。消費の変化はトレンドで単純に予測するのは困難なことも判明した。不確かな需要予測に合わせて生産を絞り込もうと「再生協議会」ルートで全国に指示すると、生産現場の疲弊と猛暑の影響で生産が減りすぎてしまう。
この反省なしに、また生産を絞り込んだら元の木阿弥である。コメ騒動が再燃しかねない。今、必要なのは、農家が安心して増産できるセーフティネット策を明確にしたうえで、需給にゆとりができるように生産を確保することではないだろうか。
生産者のコストに見合う価格を市場価格が下回ったら、その差額を直接支払いする政策を導入すれば、消費者は安く買えて、農家は所得が確保できる。「価格にコミット(関与)しない」政策というのは、まさに、こういう政策だ。
「価格に関与しない」と言いながら、生産を抑制したら、それは、まさに価格に関与しているのだということが理解されていないようである。また、おコメ券を配布するというのも付け焼刃で、需給と価格の安定につながる根本策では到底ない。
豊凶変動が大きい農業で、生産で調整しようとしても限界がある。猛暑の影響も強まる中ではなおさらだ。これまで農家も農協もよく頑張ったが、これからは生産調整でなく出口で調整する仕組みの強化が不可欠だ。
1つは備蓄用や国内外の援助用の政府買上げ制度を構築する。買上げと放出のルールを明確にして需給の調整弁とする。さらに、輸入小麦のパンや麺をコメで代替し、飼料用の輸入トウモロコシもコメで代替し、コメ油で輸入の油脂類も代替するといった需要創出に財政出動することだ。
しかし、備蓄についても、100万トン程度の政府備蓄は、コメ消費の1.5カ月分でしかなく、いざというときにどれだけの期間、子ども達の命を守れるかと考えたら少なすぎる。これを増やすのは安全保障のコストとして負担されるべきと考えられるのに、逆に、予算をかけたくないから、政府備蓄を減らす方向での検討に入っている。
「朝令暮改」と逆行政策では、コメ騒動は解決できない。「あと5年以内にここでコメ作る人はいなくなる。この集落は人が住めなくなってくる」との懸念が全国各地で聞かれる現実を直視してほしい。ピントのずれた植物工場やおコメ券でなく、安心して増産できるセーフティネットと備蓄を含む政府在庫の買入・放出ルールを明確化した運用で需給・価格を安定化させ、農家と消費者の双方を守ろう。
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