農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(84)グルコピラノシル抗生物質【防除学習帖】第323回2025年11月8日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っており、そのことを実現するのにはIPM防除の活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探りたいと考えている。
IPM防除では、みどり戦略対策に限らず化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせ、必要な場面では化学的防除を使用して防除効果の最大化を狙うのが基本だ。その際、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できればみどり戦略対策にもなるので、本稿では現在、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理し、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道がないかを探っている。そのため、登録農薬の有効成分ごとに、その作用機構を分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
38.グルコピラノシル抗生物質
(1)作用機構:[U]不明
(2)作用点:不明(トレハラーゼ阻害)
(3)グループ名:グルコピラノシル抗生物質/FRACコード[U18]
(4)殺菌剤の耐性リスク:不明(ほとんど無いと考えられている)
(5)耐性菌の発生状況:無し
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
このグループには現在のところ1つの化学グループおよび有効成分名、農薬名がある。
[1]:グルコピラノシル抗生物質/バリダマイシン(バリダシン)
(7)グループの特性:
このグループに属するバリダマイシンは、イネ紋枯病やその類縁菌、および細菌に特有の酵素であるトレハラーゼの活性を阻害する。トレハラーゼは病原菌体内のトレハロース(貯蔵糖)を分解する酵素であり、活性を阻害されることにより、トレハロースからエネルギー源であるグルコースへの分解が阻害され、病原菌体内のエネルギー代謝に異常をきたすと考えられている。その結果、リゾクトニア菌やその類縁菌の菌糸の伸長や侵入菌塊の形成を抑制し、病斑の形成を阻害する。また、菌糸の基部に薬剤が付着すると、菌糸の先端部分の生育も阻害されるため、バリダマイシン自体に作物体への浸透移行性が無いにも関わらず、作物の内部に入り込んでいる菌糸にも効果を発揮するというユニークな特性を持っている。作用点不明となっているのは、トレハラーゼのどの部位に作用して酵素活性を阻害するかが判明していないからである。
また、作物体への残留はほとんど無いため、十分な殺菌効果を発揮させるためには、病原菌の菌糸にバリダマイシンを直接触れさせる方がよく、病害の発生前よりも発病初期(作物の表面に菌糸が認められる時期)に菌糸を目がけて散布すると防除効果も高くなる。
その他、バリダマイシンを処理した植物体内では、抵抗性誘導に係る遺伝子の発現による全身獲得抵抗性を誘導することが示唆されており、その結果、トレハロースを利用しない細菌性病害にも防除効果を示すと考えられている。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属するバリダマイシンのリスク換算係数は0.1で基準年のリスク換算量は2.4トンと少量でリスク換算量総量に対する割合は低い。加えて、リゾクトニア菌(および類縁菌)に加え、細菌病にも効果を示す上に、耐性菌発生のリスクもほとんどない貴重な殺菌剤であることから、削減することなく使用を継続した方が良いと考えられる。
(9)バリダマイシンの農薬登録がある主要病原菌一覧
バリダマイシンの農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌別有効成分の一覧を次表に示した。これらの他、他の殺菌剤との混合剤も存在するので、実際の使用前には必ず製品のラベルにて登録内容(適用作物・適用病害・使用方法等)を確認して正しく使用してほしい。
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