米:揺れる米生産の現場
商社や大手卸業者 コメの事前契約で囲い込み2018年3月9日
・生産者に直接打診
30年産米から国による生産数量目標の配分がなくなるが、需要に応じた計画的な米生産への取り組みは農業経営の安定と産地の農業の持続に欠かせない取り組みとなる。需要に応じた米生産が叫ばれるなか、業務用需要とのミスマッチ解消も課題となっているが、実需者の原料用米の確保の動きはいっそう活発になっている。米穀新聞社の熊野孝文記者にレポートしてもらう。
◆作付品種を指定 購入価格も提示
千葉県で100haの水田を耕作するある大規模稲作農業法人。この会社の社長は、30年産米でどのような品種を作付するかすでに決めている。もちろん29年産米の収穫を終えた時期からそうした方針は決めていたが、30年産がこれまでと違うのは、年末から年明け早々に商社や大手卸が複数社訪れて来て、30年産米の購入契約を持ちかけて来たことがある。
購入契約内容の特徴は、第一に作付する品種を特定してきたこと。第二は購入価格を提示してきたことである。こうした傾向は29年産から始まっていたが30年産はより一層顕著になった。
生産数量目標の配分枠が示されなくなった平成30年産は、見方を変えれば生産カルテルの廃止であり、生産者は何を作付しようが自由で、まさに自身の経営判断に任される。その分リスクが増大することからコメの生産者にとって大きな変革であり、各地で生産者の集まりがあり筆者も呼ばれて、今後の見通しについて話をするよう求められた。コメの需要者や流通業界にとってもこの変化は重要な関心事であることに違いないが、それにも増して29年産米の価格上昇が一向に沈静化する気配がなく、今後、端境期に向けての対応に追われているというのが実態だ。
◆コメをやめてパスタ弁当へ!?
29年産米の値上がりに最も危機感を持っているのが中食業界で、中食業界で組織される国産米使用推進団体協議会は「米価3年連続値上げの衝撃と対策」という文書を作成している。それによると米価の高騰でテレビ局11社、一般紙8社が取材に来て、この問題を大きく取り上げたことで「すでに社会問題化している」とし、なぜ社会問題化したのかに関して、値上げの理由について川上から川下まで誰も消費者に説明していないからであるとしている。添付資料には、26年産から29年産(2月13日現在)までの概算金や相対価格、中食業界が主に使用している22銘柄の平均価格動向や数量等が詳しく記されている。
こうした文書を作成し、再三にわたり農水省に対策を講じるように要請しているが、まったく無視されているというのが実情で、ゼロ回答のままである。会員社はコメの値上がりを製品価格に転嫁出来ないことからコメの使用を止めて代わりにパスタを使用した「パスタ弁当」を作り始めたところもある。
米価の値上がりは家庭用精米でも同じで、最も販売ウェートが高い5kg精米袋は全銘柄平均で2000円を超えている。ただし、スーパーの精米売り場を見れば分かるように残量が少なくなるが早いのは価格の安い精米で、高価格帯のコメは売れ残り日切れ品になってしまう。
穀検が発表した食味ランキングで28年間特Aの座にあった魚沼コシヒカリがAランクに陥落、NHKの7時のニュースでとり上げられるなど社会的関心も高かったが、すでに魚沼コシヒカリは販売に陰りが出ていた。米のマンスリーリポートには、新潟一般コシヒカリのほか岩船、佐渡、魚沼コシヒカリの5kg当たりの精米販売価格(税込)の推移が掲載されているが、掲載されている直近の12月価格は、新潟一般コシヒカリが前年同月比1.2%高の2165円であるのに対して魚沼コシヒカリは同0.6%安の2840円になっている。コメの需給がひっ迫すると価格の安いコメの値上がりが著しくなるというのはセオリーであり、29年産もそうした動きが目立つようになっている。流通業者としても売れ筋になっている低価格の品揃えを優先するのは当然で、業務用米需要と併せてますますこのクラスのコメのひっ迫感が強まっている。
◆種子の取り合いも
このことはすでに産地の作付動向にも現れている。
農水省が2月27日に公表した30年産米の作付動向では主食用米の動向は、増加傾向が6県、前年並み36県、減少傾向5県となっており、全体的にはほぼ前年並みの作付面積になると予想されているが、千葉県の動向を集荷業者等に聞くと「ふさこがね、ふさおとめの種子は払底状態だ」という。もち米の種子購入が大幅に減少、コシヒカリが減少した代わりにふさこがね、ふさおとめの購入が大幅に増えたことがその要因だ。この両品種はコシヒカリより刈取り時期が早く、ひっ迫が予想される端境期に出回るため高値で取引される可能性が高い。冒頭に記した千葉の大規模稲作生産者が作付依頼されている品種の中ではこの両品種のウェートが最も高い。
ここで最大の問題になるのが、果たして事前契約したコメが上手く流通するのかという点である。
農水省は業務用米ミスマッチ対策として盛んに契約栽培による産地と実需者の結びつきを強化するように働きかけ、新年度予算でもそれをサポートするために予算を計上しているが、契約栽培をするうえでの価格の取り決めをどうするのか全く示されていない。それは売り手、買い手の民民同士の問題だと片づけてしまうのは簡単だが、最低でも価格の目途になる市場がなければ、そうした事前契約は難しい。契約による結びつきの強化には現物が出回る前に価格形成される市場が欠かせない。
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