米:多収米を考える
【多収米を考える(1)】 多収米とはどんな米2018年11月13日
低コストで業務需要期待
いまいろいろな意味で、日本の農業、とくに水田稲作の在り方が問われている。その一つが、「食の外部化」にともなう中食・外食の食生活に占めるウェイトが高まり、家庭での炊飯はすでに半分になっているともいわれている。そうした時代の流れに的確に応えるコメの生産はなんだろうか。その一つが「多収米」だといえる。10a当たり収量を増やすことで、生産コストを下げて生産者の所得向上にも寄与し、外食・中食業者も価格的に満足する米を手に入れられるというものだ。
それでは「多収米」とはどんな米なのか。農研機構の次世代作物開発研究センターが毎年発表している「業務用・加工用に向くお米の品種2018」に掲載されている。ここには、「多収で良食味な業務用品種」のほかに「多収の加工用品種」、カレーライスに向いた「華麗米」、米粉パン用や米粉めん用など多様な用途に向いた米がならんでいる。
図は、同冊子に掲載されている「栽培適地」をあらわしたもので、概ね全国を4つのブロックに分けて表示されている。
このほかにも、国や民間企業が独自に開発した品種もあり栽培されている。それは住友化学の「つくばSD1号」「同2号」。三井化学が開発したハイブリッド米の「みつひかり」や豊田通商の「ハイブリットとうごう」などがある。今後、これらの産地を訪れて、実際にどれだけ多収になり、生産者所得は本当に増えたのかを検証していく。
◆生産量は全体の3%程度
それではこれら多収米はどれくらい作付けされているのだろうか? 正確な作付面積はわからないが、農水省が毎年3月に発表している「銘柄別検査数量」(29年産)から検査数量を拾い出してみると次のようになる(五十音順)。
▽あきだわら1464t、▽笑みの絆360t、▽華麗米23t、▽きぬむすめ4万7800t、▽恋の予感2633t、▽たちはるか79t、▽ちほみのり1028t、▽つくばSD1号2822t、▽つくばSD2号1988t、▽とねのめぐみ308t、▽とよめき569t、▽和みリゾット19t、▽にこまる2万456t、▽ほしじるし1603t、▽みつひかり4273t、▽萌えみのり7334t、▽やまだわら1143t、▽ゆきさやか227tで合計9万4129tだ。29年産米検査数量は440万9356tなので、多収米の割合は2%強ということになる。記者の見落としもあると思うが、多くて3%程度だといえる。この数字は29年産米なので、30年産米は増えていることに間違いないと思う。
要望が強い割には、産地が応えていない実態が見えてくる。
◆ひとめやはえぬきが中心で取引
農林水産省が毎月公表している「米に関するマンスリーレポート」の2018年3月号では、平成28/29年(28年7月から29年6月までの1年間)に年間玄米取扱量4000t以上の販売事業者が精米販売した数量約330万tのうち業務用向けに販売した数量を調査した「業務用向けの米の販売実態について」(対象事業者225社・回収率99.6%)を報告している(なお本欄では「中食・外食用」と表現する)。
このレポートによれば、主食用米の需要は年々減少するなかで、中食・外食用需要は「堅調に推移し」、28/29年の販売割合は39%となり前年(27/28年)より2%増えている。特に、群馬県(65%)・福島県(65%)・岡山県(63%)・栃木県(63%)では販売数量の6割以上が中食・外食用販売となっている。また、5割を超えているのは、宮城県(57%)・山口県(56%)・山形県(55%)・佐賀県(55%)・岩手県(52%)・青森県(51%)・埼玉県(50%)だ。
また、中食・外食用に販売された産地品種銘柄別の割合についてレポートでは、宮城ひとめぼれが全体の8%を占めトップで、次いで山形はえぬきが7%、栃木コシヒカリが7%と上位3銘柄で22%を占め「前年に引き続き割合が高い」としている。前年はこの3銘柄で25%だった。この3産地銘柄に続いて北海道ななつぼしと岩手ひとめぼれが5%、福島こしひかり、茨城こしひかり、青森まっしぐらが4%、秋田あきたこまちが3%、さらに新潟こしひかり、北海道きらら、福島ひとめぼれ、富山こしひかりが2%となっている。いずれも家庭用米銘柄として知られたものばかりだ。産地とすれば、家庭用でも中食・外食用にも振り分けられるので、こうした銘柄を生産することにメリットを見ているのではないかと推測できる。
◆高い仕入れ価格
そして「価格」について、レポートでは、中食・外食用に販売された「産地品種銘柄ごとに、28年産の相対取引価格(年産平均)を用いて、価格帯別の販売量を見ると、1万4000円/60kg未満の銘柄が約7割となっており、前年に引き続き、全銘柄平均価格以下の取引が太宗を占めている」としているが、このレポートに表示されている27年産の価格と28年産の価格を比べると、28年産は平均価格が約1200円高くなっている。つまり、中食・外食は1200円/キロ高くなった米を仕入れたことになる。
コスト高騰に対応するために、例えば弁当業界では、米飯の量を減らしたり、米飯の代わりにパスタを使用した「パスタ弁当」を販売する業者も現れた。また、コンビニの主力商品であるおにぎりや回転寿司のシャリの1個当たり使用量を少なくするところもある。
そしてSBS(売買同時入札)輸入米入札では13年振りに年間計画10万t枠全量が落札された。今後、米のコストを考えれば、この枠を20万t以上に拡大してほしいと中食・外食業界では考えている。それは使用量を減らすことと合わせて、国内産地の縮小につながることは間違いないといえる。そうならないために、中食・外食業界は、家庭用よりもコストパフォーマンスがいい「多収米」生産を産地に求めているといえる。
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