豚熱発生がイノシシの広域的な分布に与える動向を初めて把握 岐阜大学2021年3月29日
岐阜大学 応用生物科学部附属野生動物管理学研究センターの池田敬特任准教授と同学部の鈴木正嗣教授、淺野玄准教授の研究グループは、岐阜県環境企画課と協力して行ったカメラトラップ調査で、豚熱発生前後の郡上市、下呂市、高山市におけるイノシシの相対的な個体数が急激に減少したことを把握した。また、イノシシの個体群管理や豚熱対策のために、数種類の個体数指標を継続的に収集するモニタリング体制の必要性を提言している。同成果は、学術誌「Journal of Veterinary Medical Science」に3月26日付で掲載された。
図 1:高山市で自動撮影カメラにより撮影されたイノシシ
同研究グループは、岐阜県「清流の国ぎふ森林・環境税」を活用した「清流の国ぎふ森林・環境基金事業:野生動物総合対策推進事業」の一環として、岐阜県内に生息する野生動物の調査研究を実施。今回の生花はその過程で把握された。
豚熱は2018年に日本で再流行し、12府県62か所の養豚場、23都府県で3062頭のイノシシでの感染が確認され、野生のイノシシが感染源であると考えられている。豚熱の発生を防ぐには、養豚場におけるバイオセキュリティレベルの向上だけではなく、イノシシにおける個体数管理も重要だが、豚熱がイノシシ個体群に与える影響を報告した事例は限られている。イノシシの個体数管理を適切に実施する上では、従来の捕獲情報だけではなく、豚熱がイノシシ個体群に与える影響も収集する必要がある。
そこで同チームは、豚熱感染の発生前(2017年8月)から発生後(2020年3月)にかけ、郡上市、下呂市、高山市で自動撮影カメラ(図1)を利用してイノシシの相対的な個体数指標の動向を調査。発生前後における相対的な個体数指標や捕獲統計のデータから、豚熱ウイルスがイノシシ個体群に与える影響を明らかにした。
その結果、イノシシの相対的な個体数指標は、2017年で最も高く(100日当たり8.88頭)、その後継続的に明らかな減少を示し、豚熱発生後の2019年で最も低い値(100日当たり2.03頭)を示した。しかし、2014年から2017年の間では、安定的な捕獲努力量があった一方で、狩猟統計の個体数指標には変動はなかった。
以上のことから、(1)豚熱はイノシシの個体数減少の一因であり、(2)安定的な捕獲活動はイノシシの個体数の激減要因ではなく、(3)豚熱と捕獲活動の相乗効果がイノシシの個体数の激減要因である可能性が示唆された。そのため、イノシシの個体数管理を適切に実施する上では、野生動物管理者は在来種の根絶リスクと豚熱発生リスクの双方を考慮する必要がある。
さらに、豚熱の発生に対して、臨機応変に対応するために、野生動物や養豚業に携わる関係者は、イノシシの個体数や分布を継続的にモニタリングし、豚熱対策に反映できる体制を構築する必要がある。今後は拡散要因となる行動圏を調査し、県内全域でのイノシシの分布状況を把握するモニタリング体制を構築しつつ、フィールドデータの成果からイノシシの個体数管理や豚熱対策に貢献することが期待される。
図2:2017年8月から2020年3月までの郡上市、下呂市、高山市における100日当たりのイノシシの撮影頭数
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