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【インタビュー】働く側に立って農業労働力確保を JA全農労働力支援対策室 花木正夫専任室長2021年11月24日

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パートナー企業と連携した農作業請負や、福祉施設などと連携した農福連携の取り組みなどを通じて、JA全農は農業労働力支援事業を展開してきた。担い手のさらなる減少が見込まれる日本農業にとって農業労働力支援はいっそう重要になる。今回は8年前からこうした全農の仕組みづくりの最前線に立ってきたJA全農耕種総合対策部TAC推進課労働力支援対策室の花木正夫専任室長に、農業労働力問題で考えるべき課題などを改めて聞いた。

JA全農労働力支援対策室 花木正夫専任室長JA全農労働力支援対策室 花木正夫専任室長

自分なら働くか? 自らチェックを

--今日は現場での実践から感じていることをお聞かせください。

労働者(賃金をもらう人)と農業経営者(賃金を払う人)に整理してお話しします。

今は農業の都合を労働者に言っていると思います。「なるべく賃金を安く、必要なときに必要なだけ、なるべく経験があって仕事が早い人に来てほしい」とみんなが言っている。

しかし、労働者の視点はたぶん「なるべく賃金は高く、一年を通して安定して勤務できる、もしくは副業的に自分の都合のいい日に仕事があるといい」だと思います。

そうすると、一年間いつ来ても仕事がある環境を作るか、労働者が行きたいときに働けるという条件を農業側が作れば人は集まるということになります。

要はどちらの視点を優先するか、です。言い方を変えれば、「自分ならその条件で働くか?」というチェックが必要だということです。

賃金にしても最低賃金でいいと農業側は思っているかも知れません。農家手取り最大化のためには人件費を抑えることが農家のためになると言っていますが、それで働き手が来るでしょうか。これは農業の都合であって労働者の都合ではありません。

せめてその地域の他産業の平均的な時給程度にはあわせなければ、人口減少下の日本で労働力を確保するのは容易なことではありません。人口が減少するということは人の価値が上がるということです。この感覚を変えないと農業に労働力が集まらないと思います。

なければ仕事をつくる

農業に人が来ない最大の理由は、農業は気象条件に左右されることです。暖かければ収穫予定日が前倒しになったり、寒ければ収穫予定日が遅れたりすることは日常茶飯事です。しかし、労働者からするとこれでは生計の予定が立たないということになります。こうした農業の特異性が他産業と比較して職場として選ばれにくい要素の1つだと感じています。

だから「仕事がなければ探し、探してもなければ仕事を作る」というように労働者の都合に合った環境を作ることが重要で、大分県の農作業請負モデルではパートナー企業とともに、いつ労働者が来ても仕事がある環境づくりに最大限の労力を使っています。他の地域でも同じことで、問題はこれを誰がやるのかということだと思います。

「お試し」から始める

農業に関わるハードルを下げる方法は3つあります。

1つ目は日雇い契約か短期契約です。大分モデルでは一日働いてみてだめなら辞めてもいいですよ、と面接のときにはっきり言います。都会の人は農業経験がなく、それをいきなり安い賃金で長期雇用しようというのは、これは労働者側のリスクになります。とにかく来てもらわなければ何も始まりませんから、まずは雇用契約自体を日雇いや、短期というように短くする。そうすれば「お試し」で来ることができます。

2つ目は労働者が出勤日を決めていいことにする、です。副業でも農業で働けるようにするには大事なことです。そうなるとさまざまな出勤希望日があるから、シフト管理するパートナー企業が必要だという話になるわけです。

3つ目が現場まで送迎するということです。問題は農業における人手不足ではなく日本の人口減少問題として考えるということです。そこで今できることは人口規模がある都市部から農村部に人を送り届けることだと思います。

「通い農業」で支える

なぜ、JAグループがパートナー企業とともに農作業請負の仕組みを作り上げなければならないかといえば、人が少なくなった農村に住み、そこで農業を営む農家にとって自己努力で解決できる問題ではないからです。したがって当面できることは人のいる都市部で人を集めて、農村部に送り届けることだと思います。
最終的には移住、定住を視野に入れるべきだと思いますし、それが地方創生だと思いますが、今は農村で農業をする農家が生産活動をやめないように「通い農業」で支えて時間稼ぎすることが必要だと思います。大分県でいえば大分市、別府市で人を集めて佐伯市、中津市、宇佐市に送り届けて労働力として働いてもらうということです。

後継できる環境づくりを

--一方で農家の後継者問題はどう考えますか。

今の農政は新規就農と盛んにいいますが、問題は「なぜ親から農業を継げないのか」だと思います。後継者が後継できる環境があって、それを見てうらやましいと思って新規就農するような流れを作りださなければだめだと思います。

では、傍から見ていてどういう農家に後継者がいるかといえば、1つは雇用型農業になって家族農業を脱しているということです。つまり、きちんと休みが取れるということです。その際、農作業請負という仕組みが後継者問題の一助となるのは、週一でも農作業請負で外注できれば、農家は休みが取れるようになるからです。

小さな農業から始めなくてはなりませんが、そこにとどまるのではなく、最終的には雇用型農業になってきちんと休みがとれるようにすることだと思います。

もう1つは、当たり前のことですがサラリーマンよりはるかに所得がよくて儲かっている農家には必ず後継者がいるということです。農業は時期的に体力的にもキツイ作業があります。サラリーマン所得と変わらなければ親は子どもに後継を勧めません。最終的には「売る力」、JAグループの販売力にかかっています。

新規就農促進も大切だと思いますが、後継者には土地、機械、ビニールハウス、親という先生、さらに地域で暮らしていく人脈などもすでに準備されているわけですから、そこに投資して後継してもらうほうがスピード感がありリスクは少ないと思います。

私は後継できない理由を明確にして後継させられる道筋が分かれば、その施策はたぶん新規就農確保にも使えるはずだと思っています。ですから後継者問題は大事で、どういう環境であれば後継するのかということを議論し、その施策を新規就農者の確保、定着対策にもっていけば、失敗する人が少なくなるのではないかと思います。

社会課題の解決へ

現場で見ていると、これから高齢化が一挙に進み、間違いなくリタイアが急速に進むと感じています。労働力支援も農福連携もスマート農業、外国人労働力など、あらゆる施策が必要です。

それを現場でどう活用していくか。たとえば圃場管理・生育管理であればスマート農業の導入、カボスの収穫は農福連携、キャベツ収穫はやはり農作業請負の仕組みといった品目や作業ごとに合う対策を考えていくことが大事だと思います。

農作業請負の仕組みは、個人の評価ではなくチームで請け負うことに特徴があります。こうすることによって障害ある人や引きこもりなどでミッシングワーカーとなっている方、子育て世代の女性などもチームに加わることによって働いて社会参加できる。この仕組みは農業労働力支援だけでなく社会的弱者が社会参加できる仕組みでもあります。これにJAグループが取り組めば、それは地方創生にもつながるということです。

--ありがとうございました。

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