【JA人づくり研究会】鍵は優れた人材と農協組織2013年3月18日
「農業復権を目指した仕掛けと、JAにおける人づくりをどう進めるか」―。JAやJA連合会などでつくる「JA人づくり研究会」は3月15日、東京で第16回研究会を開き、戦略的・計画的な「人づくり」「モノづくり」「組織づくり」が必要という観点から、都市化地域のJAづくり、女性による農家レストランの運営、支店協同活動の意義などの事例報告をもとに討議した。
研究会の代表である今村奈良臣東大名誉教授が問題提起。日本農業の特質として、(1)優れた生産装置である水田がある(2)教育水準が高く優れた人材が多い(3)機械化・装置化の水準が高い(4)安定的社会層を形成している(5)村落・集落の自治組織があり、それをもとに農協が組織されている―の5つを挙げる。
戦後の経済成長とその変動のなかで、日本の農業は大きくその地位を低下させ、多くの問題を抱えているが、それを克服し、発展の展望を開くため、この優れた特質を生かすべきだと主張する。特に優れた人材と、地域農業の発展に欠かせない農協の役割は重要であり、この2つは、これまで人づくり研究会が追ってきたテーマでもある。
JAの取り組みを報告した神奈川県のJAあつぎは、金融共済・資産管理事業を中心とする典型的な都市型JAから、地域農業の振興と教育文化活動を重点とする取り組みに転換したJAである。
転換の背景には、(1)正組合員の66%が65歳以上という中核的組合員の高齢化(2)農業後継者の不足(3)組合員の次世代層との関係の希薄化(4)組合員のJA離れという危機感がある。
◆直売所軸に農業振興
ファーマーズマーケットを拠点とした農産物の直販により、小規模・副業経営でも一定の所得が確保できるようにした。また農業塾を開講し、就農を希望する農家の後継者や新規就農者を支援。つまり、多様な担い手の育成・確保につとめた。
教育文化活動は、地域農業の振興を軸に協同の輪を広げるための活動として位置付けている。それによって緑豊かなコミュニティを創造する。そこにJAの総合力を発揮して組合員、利用者の満足度を向上させてファンを増やし、組織基盤を強化しようというものである。
こうしたコミュニティの活動には、いまや農業の大宗を担う女性の力が欠かせない。岐阜県中津川市で農家レストランを経営する。バーバーズダイニングの報告は、地域を元気にする女性起業のあり方の一つを示した。
特に家族や地域社会、グループの仲間との葛藤、そのなかから理解や協力を得ることの重要さと難しさ、各地の先進的取り組みから学び、商品開発や運営方法など常に新たな挑戦の必要性などが指摘された。
◆支店活動で職員育成
地域の農業の振興やコミュニティ活動にはJAの支店の活動が大きな役割を持つ。JA長野開発機構は、職員の満足度を高めるために必要な評価の方法について問題提起した。特に、個人目標は数値化できない質的な貢献を中心に設定することの必要性が強調された。
地域農業重視に方針転換
井萱修己・JAあつぎ代表理事組合長
JAあつぎの理念は、「夢ある未来へ 人とともに、街とともに、大地とともに」です。
管内は都市化が進み、JAの事業は信用共済、資産管理が中心でしたが、組合員の高齢化が進み、このままではJAの将来が危ないと考え、「地域農業の振興」と「教育文化活動」を重点とした取り組みに方向転換しました。
大きな契機は、青壮年部との意見交換です。けんか腰でやりあう中で、JAの存在意義や使命は何かについて考えさせられました。特に部員からあがった「JAはなにもしない」という声は、これまでJAが農業をおろそかにしてきたからだと反省させられました。
第一歩としてJAに指導販売・地域農業対策の部署を設け、続いて大型農産物直売所「夢未市」をつくりました。農業塾や農産加工塾の開講、市民農園づくりを進め、ここで育った後継者や卒塾生が野菜や加工品を直売所に出荷しています。
もう一つの柱である教育文化活動は協同組合員であるという意識を醸成するためのものです。今日のJAにおける思想・信頼・経営の危機の原因は、協同組合意識の希薄化にあります。組合長就任の翌年、事業方針に「役職員の意識の変革を」を掲げ、「教育文化活動元年」を宣言。組合員講座、各種セミナー、食農教育、地域貢献など地域と一体になって、さまざまな活動に取り組んでいます。
こうした活動がJAの組織基盤の強化に結び付き正組合員、准組合員ともに大きく増え、教育文化活動の重要さが職員にも認識されてきました。
直売から農家レストランへ
後藤展子・(株)菜っちゃん代表取締役
レストラン「バーバーズダイニング」は開店5年目で、スタッフは19人。すべて手づくりの家庭料理で約1億円の売上げがありますブッフェスタイルランチを中心に80種類の料理を出しています。
ここまでくるには2つのチャンスを生かすことができたからだと思っています。最初は、商店街の空き店舗対策として農家の野菜直売所を開設したことです。農家の主婦が街の中にお店を持てるなんて、こんなチャンスはないと考え、20人ほどの農家の主婦に呼び掛け、直売所を立ち上げました。
第2のチャンスは、付き合いのあったサラダコスモの社長から勧められたファーマーズマーケットの運営です。ちょうど大手スーパーが潰れ、出荷先に困っていた農家から喜ばれました。
次の段階は、直売だけでなくせっかくの農家手づくりの野菜を使った料理を食べてもらいたいと考えてつくった今のレストランです。おばあちゃんたちの台所という思いを込めた名前です。
素人の女性ばかりが、資金を借りるにも担保なしでレストランを運営するのですから苦労しましたが、何とか黒字経営を維持しています。行政やJAの支援に頼らず、自力でと考えていたので「まあいいか…」という気持ちにならなかったことがよかったのかも知れませんが、借金しないで工夫しながらコツコツやっています。3月から野菜のスイーツを始めました。野菜の魅力を発信していこうと思っています。
数値化できない貢献の評価を
西井賢悟・(社)JA長野開発機構地域開発部研究員
JA全国大会で決議された支店の協同活動強化の取り組みが広がっていますが、事業実績と支店の協同活動には相関関係があります。つまり協同活動で職員のやる気が高まり、これが事業の成果につながっているということです。
長野県6JAの職員の満足度調査によると、満足しているのは「仕事」「労働条件」「組織風土」「経営方針」、不満は「評価」「自己の成長」「報酬水準」「経営方針」の順になっています。この不満を改善することがポイントです。
具体的には、本店と現場の意思疎通を強化することです。現場の職員は経営陣に自分たちの努力を認めてもらえないという疎外感を感じています。また自分の仕事についてJA全体の中での意義を見出せていないということもあります。トップによる顔の見えるマネジメントが必要です。
もう一つは現場の自主性の尊重です。自ら取り組む仕事の計画への納得度合が満足度に大きく影響します。現場で柔軟な提案、動きがとれること、それに必要な権限を整理しておくこと、そしてそれを支える上司のサポートが重要です。
また、支店の活動は数値化できない仕事が多くあります。結果だけを評価するのではなく、仕事のやり方や姿勢なども評価の対象にすることが重要です。
(関連記事)
・支店を軸にしたJA運営と人づくりの課題 第15回JA人づくり研究会(2012.12.17)
・JA全中が人づくり3カ年計画 全JAで「人材育成基本方針」策定(2012.12.07)
・【JAは地域の生命線】「農業が軸」はJAの生命線 JAあつぎ(神奈川県)・歌を忘れたカナリアにはならない(2012.11.30)
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