スマート農業アクセラレーションサミット開催 労働時間低減など実証 JA全農2024年2月5日
JA全農は2月2日、東京・大手町のアグベンチャーラボで初めてとなるスマート農業アクセラレーションサミットを開いた。スマート農業技術を活用することによる労働時間の削減や、適正施肥による収量増などこれまでに実証された成果が報告され、現場での導入の意義などを発信するとともに、今後さらに推進する必要性が確認された。
スマート農業アクセラ―レーションサミットの参加者
全農はこれまでにないスピードで進んでいる担い手への農地集積に対応するため、農地を効率的に管理する営農支援システムに着目し、Z-GISとザルビオフィールドマネージャーの開発、導入を進めてきた。
今回はこれらの導入コストを上回る効果が確認された5事例が報告された。
宮城県のJA新みやぎは農業生産法人ITOへの導入支援を行ったザルビオによる可変施肥の成果を報告した。
同社は水稲50haと大豆41haを栽培。中山間地域も多く、ほ場は平均10aのため管理の効率化を目的にZ-GISを導入。さらなる生産効率化を図るため23年産でザルビオの地力マップに基づく可変施肥の実証に取り組んだ。
基肥で可変施肥、追肥は均一とした。その結果、前年産に比べて10a当たり40kg増(720kg 品種:萌みのり)となり、JAの概算金をもとに試算すると同7000円の増収となることが示された。生育が均一となったため、倒伏リスクをなく収穫作業もスムーズにこなせたという。
ザルビオは初めて栽培するほ場でも衛星による分析で地力が分かる。地力分析に基づく施肥量データを農機に設定すれば設計どおりに散布ができる。担い手への農地集積が急速に進んでいるなか、担い手の経営安定にとっては有用な技術といえる。同JA営農支援課の関根学さんは「熟練の技術に誰でも取り組めるようになり、生産性の向上につながる」と評価、「導入をバックアップしてくれる体制が必要」と指摘した。
JA全農千葉県本部とJAちばみどりはZ-GISを活用したドローンによる農薬散布請負事業について報告した。
23年度は県内12JAで水稲400ha、園芸で21haの農薬散布請負事業を実施した。県本部が主導するこの事業は生産者の労働力軽減となるだけでなく、米や園芸品目の集荷量維持・拡大、JAの事務負担と経費の削減にもつながる。また、Z-GISによるほ場管理は今後、市町村が策定する「地域計画」への活用も視野に入れた取り組みと位置づけている。
JAちばみどりは、紙での地図作成や散布作業確認などをZ-GISに変更したことで事務負担軽減により残業代の削減が可能となったことや、防除組合の経費削減、地区ごとの生産組合長の出席が不要となるなどの付帯効果もあったという。
今後についてはZ-GISを使用したことのない職員にも使い方を覚えてもらったり、各営農センターで課題を設定しながらほ場登録を行うなど、将来的な業務の効率化もめざして活用を図る。
同JA営農部の勝部彰太氏はZ-GISをただのほ場管理システムではなく「さまざまな視点や他の業務に活用していき業務の効率化と、生産者の所得増大につなげていく」と話した。
JA鈴鹿営農指導課の谷口昌志氏は「Z-GISを活用した出荷管理」について報告した。
新たな品目として鉄コンテナ出荷ができる加工用の白菜生産に取り組んだ結果、5年間で面積と出荷量が3倍に拡大した。ただし、在庫が積み上がるなど販売管理に課題が出て、ほ場在庫を把握できる仕組みをZ-GISを活用してつくった。ほ場別に株数と玉重を入力し、生産者は出荷日ごとに鉄コンにほ場番号を記入することで、出荷後のほ場在庫量が分かるようになった。Z-GIS導入で在庫確認など作業時間が月に75時間削減できたという。
さらに出荷量が増えても作業も楽で精神的な負担も少なくなった。産地としての信頼も向上し、キロ単価もアップし、農業者は10a当たり5万円~8万円の増加となった。今後は栽培管理から販売・出荷まで「流れるような生産現場づくり」をめざすと話した。
広島県北西部の中山間地域である北広島町では17の集落営農が千代田地域法人協議会を設立し、各法人がほ場情報をZ-GISで集約管理、さらに飼料用米を対象にドローンセンシングによる追肥始動を始めた。
センシングは葉色解析サービスを用いて、生育状態をほ場ごとに把握、それを各法人に返却し、追肥提案を行っている。23年は169ほ場、計31.9haで実施、飼料用米は専用品種「北陸193号」に全量切り替わり、データに基づく追肥を行ったところ、平均収量は過去最高となる10a当たり695kgとなった。
助成金などを含めた飼料用米ほ場の平均収入はドローンセンシングによる的確な追肥で2015年~2019年平均にくらべて、10a当たり3万8000円以上の向上となった。Z-GISの活用で飼料用米ほ場だけ簡単に抽出できるほか、ドーロンを使うことによって約6時間でセンシングが終了、作業時間を50時間程度削減した。
JAひろしま千代田支店営農指導担当の益田悠太氏は「中山間地域でもデータによる見える化など時代に即した技術を取り入れ農業を継続する環境をつくっていきたい。今後は飼料用米以外にも取り組みを広げたい」などと話した。
JA本渡五和はザルビオによる可変施肥の取り組みを報告した。
23年度はザルビオの地力マップ機能を活用し、宮地岳営農組合で水稲での可変施肥試験を実施した。目的は生育ムラをなくし収量・品質を向上させることと、過剰な生育を抑制することで作業性を向上させること。
例年の生育傾向に基づきほ場内を地力マップで5ゾーンに分けて基肥の量を変えた。生育中にドローンセンシングを行った結果では通常ほ場にくらべて、可変施肥実施ほ場は生育が均一になっていることが示された。
収穫の結果、約13%の単収増となり、等級もほぼ1等米となった。
今回の結果をふまえ、可変施肥田植機の導入費用は、1haの可変施肥を償却年数(7年)実施すれば回収可能と試算されたという。
また、前年度は病害アラートに試験が行われたが、イモチ病に対する早期防除が実施できたなどと評価され、ザルビオの活用が経営体の収益向上に寄与することが示された、としている。
JA本渡五和営農課の山下清弥氏は「農業従事者の減少が続くと予想されるなか、地域農業を続けていくためのツールとしてスマート農業は貢献する。手の届かないものではなくなりつつある」としてJAとして管内の法人への導入を支援していきたいと話した。
サミットではそのほか自動給水機による水管理の実証試験や、ゆずのドローン防除なども有料事例が発表された。
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