JAの活動:JA革命
【JA革命】第4回 農業法人化のトップランナー宮崎県 県中央会がバックアップ2014年9月12日
谷口信和・東京農業大学教授「限りないJAの挑戦」
インタビュー「地域農業との共生を強化」
JA宮崎中央会
三田井研一・営農対策部部長
曽我部学・営農対策部課長
これからの日本農業のあり方として農業経営の大規模化、生産法人化がいわれている。JA宮崎中央会は、家族経営による小規模農業経営とも共生する生産法人を育成することを目的に、長年にわたって活動を続け、多くの先進的な成果をあげてきている。シリーズ「JA革命」第4回は、政府や規制改革会議などから集中的に批判を浴びている中央会の役割に注目し、地域農業振興の先頭に立って奮闘しているJA宮崎中央会の営農対策部を谷口信和東京農業大学教授と訪ねた。
限りないJAの挑戦
谷口信和・東京農業大学教授
(写真)
(有)アグリセンター都城の直営茶園の収穫風景
◆起点はアグリセンター都城
耕作放棄地増加を食い止めるべく、農業サービス事業体の機能をJAから切り離す形で、JA都城において宮崎県第1号のJA出資型法人(有)アグリセンター都城(ACM)が設立されたのは2001年7月だった。すでに出資型法人が各地で誕生していたから、決して先発組ではなかった。しかし、ACMは将来の100ha規模の茶園経営を展望しつつ、51人もの正職員の異動により設立された大規模なJA現業部門型経営という全く新しい経営類型の全国初のモデルとなった。
◆転換点は03年法人育成プラン
JA宮崎中央会はACM設立・運営の経験を踏まえて、03年に「地域と共生する農業法人をめざして」というプランを策定した。ここに、[1]耕種部門を中心とする、[2]三タイプの法人育成を図る(JA出資型・集落営農型・個別経営体型)、[3]JAに法人設立専任部署を設け、事業部署の法人化支援内容を明確化する、[4]JAは農業法人の運営に参加し、関連機関と連携して農業法人の指導を行う、[5]中央会は法人設立マニュアル作成、研修会開催、税務等の専門的支援、設立・事業支援を行い、県レベルでの支援体制を構築する、という包括的で体系的な法人育成プランが確定した。
◆多様な類型・事業の法人設立
こうした方向に沿って04年には宮崎県第1号の集落営農法人(農)夢ファームたろぼうが設立され、全国で初めてJAが出資する集落経営体となったほか、2年後に設立された(農)きらり農場高木は12年には経営面積が200haに達する大規模なJA出資型集落営農として成長を続けている。さらに、06年に設立された(有)ジェイエイファームみやざき中央は新規就農研修事業を前面に掲げた施設園芸におけるJA出資型法人(育苗が主軸)としてすでに83名の研修・66名の就農実績を誇る名だたるパイオニアである。また、(株)都城くみあい食品は農畜産物加工から68haの露地野菜作に進出した屈指の6次産業化を体現したJA出資型法人でもある。
(写真)
(有)ジェイファームみやざき中央での研修風景
◆中央会による育成・支援
現在までにJA宮崎中央会が設立に向けて支援した100件のうち、51件が法人化したが、JA出資型が12件、集落営農型が25件(15件はJAの出資)、個別経営体型が14件となっていて、JAが出資しない法人が24あり、多様な法人の組織化に貢献している姿が浮かびあがってくる。菌床シタケ1法人と畜産3法人を除く47法人が土地利用型農業や利用事業を中心としている。農業生産法人のうち畜産が占める割合は、06年の全国26.4%に対して宮崎は55.6%に及んでいたが、13年には全国18.6%に対して宮崎24.7%となって、宮崎における畜産法人化の先行性と03年以降における土地利用型法人の急展開が明らかである。その成果は都府県の農業産出額ベスト6県における耕作放棄地率が12.5?14.6%であるのに対し、宮崎県が都府県平均12.9%をも下回って8.5%とかなり低くなっていることに反映されているのではないか(2010年)。
◆充実したアフターケア
設立・育成を支援したならば、法人のアフターケアは一層大切である。JA宮崎中央会はJA出資農業法人等研究会として設立した法人の勉強会を05年から定期的に開催してきたが、14年度からは地域営農組織協議会に名称変更し、農地中間管理機構に対して影響力を行使しうる担い手の「公的な組織」として再編した。それが、法人経営にとっては直接の新たな支援策となるからである。県中央会はこうして、法人やJAとの連携の下のそれらの発展に限りない独自の支援を送り続けている。
地域農業との共生を強化
インタビュー:JA宮崎中央会
三田井研一・営農対策部部長
曽我部学・営農対策部課長
谷口 法人経営を育成しようと考えたのはなぜですか。
三田井 法人化には集落営農組合を法人化していくパターンと個別経営を法人化するのと2つのパターンがあります。集落営農組合は地域のリーダーがいれば成立ちますが、そのリーダーが次世代にバトンを渡しやすいように、ちゃんとしたルールや規約をつくり法人化していくことが継続的に存続するためには必要です。
個別経営体を法人化するメリットやデメリットはいろいろありますが、一つは、法人形態の方が、相続が発生しないので継続していきやすいことが指摘されます。
国が法人化を進めているので、ある程度の規模と所得のある経営体では法人化することでメリットが出てくるため、法人化への志向が強まったのが始まりだと思います。
法人化して大規模化して自分たちだけ…というのではなく、「地域農業と共生する法人を育成」するというのが当初の基本的な考え方です。
(写真)
三田井研一・営農対策部部長
◆支援しなければ離れていく
谷口 「法人化」は92年に新農政が始まって93年ころからいわれていましたが、あまり進みませんでした。それが世代交替が進む2000年以降の事態の中でこれをやらなければということが背景にあったと思いますが…。
三田井 最初は個人が相談にきました。
曽我部 「農業法人対策室」を立ち上げた平成15年から16年頃は、露地野菜や“しきみ”、ブロイラーや肥育牛、養豚などとバラエティに富んでいました。
宮崎では当時、農家数の0.3%で16%の生産額を上げていました。JAグループとしてもこの層を無視することはできませんので、法人を支援していこうということになったわけです。
そしてJA出資型法人の作り方や支援方法について一から勉強しながら取組み始めました。そうしているうちに集落営農の法人化も進んできました。
三田井 法人化したいという人が出てきたときに、JAグループが何もしないと、当然その人たちはJAグループから離れていきますから、相談を含めて支援をしていく必要があると考えました。将来的には、規模拡大していけば到達点として法人化に行きつくと思いますし…。いま法人の雇用者数は8800人ですから、これも大きな力です。
そして農業経営者組織協議会(青色申告会)の7000人が、JAグループ販売高の8割を占めています。この人たちと大規模化した法人経営がJAグループにとって重要だということです。
谷口 当初はとにかく法人を作るというところから始めたのですか。
三田井 最初は法人化すると青色申告から抜けていくので、JAの組合長からは「法人化してくれるな」といわれましたが、「法人化を推進したから出て行ったのではなく、法人化した時にJAが何もしなかったから出て行ったんです。まず相談にもっていって、すべてを利用するのは無理でも、一つでも二つでもJAの事業を利用してもらえれば…」といいました。JAが後押ししなければみんな離れていきます。
谷口 農業にとって法人はいけないという意見はなかったですか。
三田井 ありましたが、法人化や大規模化を支援していかないと、「小さな農家の爺ちゃんばあちゃんだけの組織になりますよ。だから個人の法人化も集落営農も含めてすべてに何らかの形で関わるようにしていこう」といってきました。
谷口 JA浜中町の石橋組合長は「地域に残ってやってくれる人はすべてJAの支援対象だ」といっていますが、既成概念にとらわれないこういう発想が大事ですね。
(写真)
曽我部学・営農対策部課長
◆法人組織化で支援を継続
谷口 法人化支援の方針を最初に作ったときにはどんな評価でしたか。
三田井 法人の数が圧倒的に少ないのに力を入れてどうするという感じでした。
谷口 先ほどの数字が示すように数は少なくてもインパクトは大きいわけで、そういう規模の経営を目指さなければいけなかったわけですね。
三田井 その通りです。
谷口 農協は「人の組織」という意識が強いけれど、農業に対して農協が責任を負うならば、そこには家族経営もあるし法人経営もあるわけです。
しかし私がすごいなと思っているのは、宮崎では法人化を支援するだけではなく、それを束ねる組織「JA出資法人等研究会」(現在は「宮崎県地域営農組織協議会」)を作っていることです。これはどういう経緯があったのですか。
三田井 JAには生産部会とか青年部などの組織がありますが、法人部会はありません。「百人の一歩と一人の百歩」をいかにコーディネートするかが、これからのJAグループの柱だと考えました。そして法人は農地を柱に地域に根ざしていますから、ここを組織化しないと話し合いにならないと考えたわけです。
曽我部 平成15年に、JAグループだけではなく県、農業会議、農業振興公社などが参加して「宮崎県農業法人等推進会議」を設置し、設立後の支援をどう行っていくかを検討していく中から、組織化されました。
谷口 支援を継続していくためには必要だということですか。
曽我部 当初はJA主導型法人が中心でしたから、設立の目的を達成するためには経営が安定しなければ力を発揮できませんから、経営安定を目指して研究を積み重ねていったわけです。
谷口 そのときにJA都城が果たした役割は大きかったですか。
三田井 大きかったですね。
曽我部 利用事業と農作業受託がきちんと行われていたことが一つです。そして、農地が借りられるようになり、JA出資型農業生産法人の先駆けとして農業経営を実現したことですね。
三田井 平成5年の農地保有化合理化事業が始まる前に都城は農地(水田)の貸し借りを独自に行っていました。それが今日に繋がっています。
◆地域実態に合わせ現実的に
谷口 法人化にあたっては、JA主導型を重視したのはなぜですか。
曽我部 水稲育苗などの利用事業を切り離して始めたので、JAの子会社だという意識でした。JAがリードして地域再編を行う上での会社だから、JA主導型の法人ということです。集落営農型は農家の人たちが主体となっているところに一部出資し、手助けするというイメージでした。
利用事業で儲かっている間に農業経営の練習をということです。
谷口 他県の事例とはその辺りが違いますね。
三田井 もともと受託作業を含めてJA組合員への支援機能が主体になっていたということです。
曽我部 平成18年?19年ころは畑が遊んでいたので、畑に特化しました。ところが20年を境にみんなが畑を借りだし、いまは畑が足りません。
谷口 宮崎県の地域実態に合わせて企業形態や事業分野を選んできたわけですね。そういう意味では極めて現実的に…
曽我部 できることをやってきたわけです。
谷口 出資法人はこういうものだと決めつけずに、現地にあったタイプを考えてみたらJA主導型で行くという判断になったわけですね。
曽我部 各JAも1年くらいかけて検討して、そこで判断しています。そして都城にはJA出資法人が2つできましたから、宮崎ではそれが普通と思っています。
谷口 都城の経験を県内に広めたのが中央会の役割ということに…。
曽我部 全JAが同じようにやることが宮崎の伝統ですから。
谷口 「所得アップGO!GO!テン」運動の重点取組み目標と達成結果について、良いのも悪いのも全データを全JAに公開し、比較できるようにしていますが、すごいことですね。
三田井 中央会営農対策部は中央会、経済連、信連、共済連から人がきて、各々のノウハウを持ちより一緒に仕事をしていますので、その結果としてこういう資料が作れるわけです。
◆設立の趣旨に立ち返って
谷口 これからの課題としては…。
曽我部 今年から本格的に焼酎原料用の米麹用米の生産を始めました。宮崎の焼酎用原料用米は大手酒造会社1社だけで年間2万トン使いますが、多くを県外から買っているので県内産でという取り組みで、1100haで5000トンの予定です。
三田井 主食用と非主食用、さらに非主食用では焼酎用加工用と飼料用米そしてWCSはきっちりとエリアを特定しないといけません。そのためには、集落営農と集落営農法人そして農地中間管理機構でゾーニングをしないと、コンタミを含めてトラブルの原因となります。そのうえで6次化も含めて地元産を使うことを徹底しなければならないと思います。
谷口 農地中間管理機構の土地がこれから出てくると思いますが…
三田井 JAグループが農作業の受託業務を出資型法人に任せて、受託業務の幅を広げていくことが、これからの地域営農支援の機能だと思います。出資法人設立の主旨に立ち返ってもらうことでもありますが…
谷口 ありがとうございました
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