JAの活動:JAづくりは人づくり
山田 泰行・JA紀の里代表理事組合長 果樹の周年供給拡充へ2016年5月10日
和歌山県のJA紀の里は地理・自然条件を活かし、果樹を核に多品目の「大型」産地を実現。さらに10年後の「夢(みらい)の種をまく」をスローガンにJA・地域農業のビジョンを描く。山田泰行組合長に聞いた。
◆温暖で品目多様 10年後150億円に
――地域の農業はどのような特徴がありますか。
管内は果樹地帯です。それも「大型の周年供給産地」で、一つひとつの品目の量が比較的多い上に、1年を通じて何らかの果物を生産しています。その意味で周年供給の大型産地です。
平成4年の合併以来、これを基本方針に「元気な農業」、「元気な地域」、「元気なJA」の実現に向けて取り組んできました。
JA紀の里は和歌山県の北部農業地帯の中央にあり、北部は関西の台所と呼ばれる一大消費地大阪に接し、関西国際空港にも近い果物の一大産地です。中央部を紀ノ川が流れ、気候温暖で野菜、花きの栽培も盛んです。
こうした恵まれた地理・気象条件を生かし、「果樹・やさい、花の里、紀の里を愛し、人々の豊かな心を育み地域の発展に貢献します」。これを基本理念に、これまでやってきました。そのうえで、今年28年度からの第6次中期3か年計画で、JA紀の里のビジョン「10年後の目指す姿」づくりを進めているところです。
ビジョンのテーマ「夢(みらい)の種をまく」に、私たちの今の思いを込めました。その中で、まず農業生産は150億円を掲げました。現在、農協の販売高はファーマーズマーケットの約26億円を含めて120億円余り。市場出荷が減少傾向にありましたが、ファーマーズマーケットが順調で、この数年、なんとか横ばいを維持しています。
販売高のなかで果実は約90億円で全体の65%。桃、柿、みかん、八朔、キウイフルーツ、梨、いちご、イチジクなど品目は多様です。150億円の販売を達成するには、果樹を核として野菜、花きを含めた地区ごとの品目構成の見直しや新規品目の導入が必要だと考えています。
周年出荷の強みは、年間を通じて紀の里の果実が店頭や市場にあることで、消費者に「紀の里」の名前(ブランド)を覚えてもらえます。この条件を生かし、さらにマーケットインに基づいた商品開発、輸出の拡大、量販・加工業者との直接取引拡大などに挑戦するつもりです。
◆新規担い手支援 ブランドを守る
――担い手の確保はできていますか。
それが大きな課題です。担い手が減り、農家の高齢化で荒廃農地も増えています。10年後の「夢の種をまく」ためにも担い手確保に力を入れなければならないと思っています。
その対策の一つとして、「トレーニングファーム」があります。生産者の部会に研修生を受け入れてもらうものです。管内の桃山地区には高級な桃として知られる「あらかわの桃」があります。このブランドを維持するため、部会が3人の研修者を受け入れています。住み込みで研修し、一人前になると農地を斡旋するなどで、自立のため支援します。
また、新規就農希望者には、農協の「農業塾」で1年の研修を行い、さらに希望者にはその後に専門コースがあり、毎年15人前後の参加者が学んでいます。
果樹の経営は細かい作業が必要なことなどから、その多くが小規模な家族経営です。しかし大規模志向農家もあります。その人たちの支援に農地の斡旋、研修なども行っていますが、将来はJA出資による法人化に力を入れる必要も出てくるだろうと思っています。
また同じ果樹でも品目ごとに適正な規模や経営形態があります。複合経営を基本とする営農類型をJAで示すことも必要です。
農地に関しては、農地利用円滑化事業などで150ha以上の貸し借りの実績を挙げています。10年後を考えると、優良農地はなんとしても保全しなければなりません。
――農業の振興に「めっけもん広場」はどのような役割を果たしていますか。
平成12年に開設して15年が経過しました。約26億円の売り上げがあり、安定した経営を続けています。新鮮で安心・安全な青果物を安い価格で販売し、消費者に喜ばれています。
そして何よりも消費者の「ふれあい」の場になり、生産者の大きな励みになります。現在出荷者は1500人ほどですが、年々増えています。なによりも高齢者や女性でも出荷でき、さまざまな種類の果樹や野菜が集まります。「いつ来ても何かある」という多品目産地の強みです。当然ながら地域の活性化にもつながります。
――生産者組織も充実していますね。
選果場の整備には合併以来、取り組んできました。現在、流通センター2か所とサブ選果場3か所があり、品目別生産部会が15、メンバーは延べ6300人ほど。こうした生産者組織が産地を支えています。
部会は会費で運営する自主的な組織で、センターや選果場を核に切磋琢磨することで、規格や包装、品質の統一などが徹底し、「紀の里」のブランドを維持しているのです。
◆大きい女性の力 職員は土着力で
――地域活動はどのように。
JAは地域とともに歩む組織であることはいうまでもありません。地域との接点は支所です。支所の元気なくしてJAの元気は考えられません。「ふれあい祭り」は全支所で開いていますが、地域に合わせて独自性を出すよう働きかけています。
また支所にはそれぞれ直売所があり、地域独自の「ふれあい」活動の場にもなっています。小規模とはいえ1~2億円売り上げる支所もあります。
いま、准組合員の利用制限が問題になっていますが、農協は地域の住民を含めた組織としてこれまでやったきました。何事をするにも、准組合員であろうと員外であろうと、参加を拒むことはありません。地域と足並みをそろえないとJAも農業もやっていけないのです。このことを「農協改革」を唱える政府は分かっているのでしょうか。
――JA紀の里は女性組織「かがやき部会」の活動が知られていますね。
女性の参加は、今の時代からいっても当然のこと。「めっけもん広場」の出荷者の約半分は女性です。「かがやき部会」は、昨年度は組織全体で延べ518のイベントを行い、54のサークルが1029回の集まりを開いており、こうした活動が農協の他の事業にもプラスになり、いまや農協の事業・活動に欠かせない存在になっています。
もちろん員外にも参加も呼び掛け、全国的に会員が減少する中で、「かがやき部会」はこの5年間で17%も会員が増えています。農協の運営面でも、いまや組合員の3分の1、総代の29%、理事の20%(6人)が女性で、それも全員地区選出です。こうした女性の活躍の背景には、家族労働が中心の果樹で、経営面でも女性が重要な役割を果たしていることが背景にあるのではないでしょうか。
――これから、どのような農協職員であってほしいと思いますか。
農協は地域の組織であり、職員は地元の出身者で、地元のことを熟知しています。この"土着力"が総合事業を行う農協の強みです。助け合いや共助、人と人のつながりづくりなど、競争原理とは対極にある協同組合として大切なことができる職員になってほしいですね。
【略歴】平成14年和歌山県農協連理事長。20年JA紀の里非常勤理事を経て23年代表理事組合長
(写真)山田 泰行・JA紀の里代表理事組合長、地域農業活性化の推進役「めっけもん広場」
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