JAの活動:農業協同組合に生きて―私の農協運動史―
【萬歳 章・前JA全中会長】農が基軸の国 協同組合の力で(上)2017年7月10日
新全中指導力保ち出発を
農は国の基であり、農業協同組合こそが農を基軸とした国づくりに役割を発揮すべきだと萬歳章前JA全中会長は改めて強調する。就任時から「全中トップ」として内外にその信念を発信してきた。しかし、その全中を廃止するという政府の農協改革を真っ向から受け止めることに。インタビューでは、全中をあくまで農協法に位置づけることなどを農相らに主張し続けたが、「官邸が…」とはぐらかされ、「足をすくわれたとの思いも」と振り返った。政府が進めた農協改革の過程の一端を振り返るとともに、なお改革途上にある農協にとって今何が求められるのか語ってもらった。聞き手は白石正彦東京農大名誉教授。
◆激動の時代 農協理事に
――最初に、農協との関わりからお聞かせください。
平成5年からです。父親が全農副会長を務めていましたが体調を崩して職を辞したんです。それで地元から理事になれと。当時の五泉市農協です。
新潟県の農業は稲作が中心で、まだ新潟のコシヒカリに非常に人気があった時代でしたが、平成5年は細川内閣がガットウルグアイラウンドに合意し大変な転換期になる年でした。その後にWTO(世界貿易機関)も発足するなど世界的な影響も受けて米価が下落するという状況になったころです。
米価は新潟の農家経営の基本ですから、生産調整を含めて米価が安定するよう運動を展開したという思いでした。5年後には五泉よつば農協の組合長に選出され、常勤役員として農協運営に参画することになりました。ですから農協についてはまだ新参者です。
――平成15年に県中央会の副会長に就任し19年には新潟みらい農協の会長に就任されました。その時代もいちばん苦労されたのはやはり米問題ですか。
作付けの8割近くがコシヒカリでしたから作業が集中するという問題もありました。私がよく言っていたのは、新潟はコシヒカリにあぐらをかいている、ということでした。それで県も新品種の育種を始め、それが新之助という新しいブランドとなっていくわけです。生産調整も含めて新たな米の品種をどう作るかも課題で県財政も厳しいなかJAも一定の負担をして新品種の開発をしていきました。
新潟でも園芸を振興し複合営農をといいながらも、土地条件などもあってなかなか簡単にはいかず、米の過剰作付けが問題でした。
◆震災・TPPで底力
――全中会長には平成23年8月に就任されましたが、その年は3月11日に東日本大震災が発生しました。
会長就任後すぐに被災3県を回りました。最優先課題は被災地の復旧、復興支援であって「絆」という言葉が広まりましたね。JAグループも支援体制を組み募金活動もしました。
当時は、民主党政権で首相は菅さんから9月に野田首相になりました。
震災と同時にTPPも大問題になって、野田首相はあの年の秋にハワイのAPEC会合で交渉開始の意向を示したという時期でした。それに対して国技館で6000人が参加した集会を開きました。TPP反対署名は1100万人も集まり、国会請願するため国会議員に紹介を依頼したところ、全国会議員の過半数を超える365名もの議員が賛同したことを覚えています。
翌年は第26回JA全国大会を開き、大会議案では福島の原発事故があったことから、将来は脱原発の方向をという項目も柱にしました。
その年は2012年国際協同組合年でもあり、国内の協同組合が結集して実行委員会をつくって協同組合憲章の制定を働きかけました。草案まではできましたが、政府による制定というところまではいかず、これが今後の課題のひとつになっていると思いますが、今はJC総研が事務局をやりながら取り組んでいるようですね。
協同組合憲章も大事ですが、私は協同組合全体を網羅する協同組合基本法を制定すべきだと言ってきました。韓国は2012年に協同組合基本法を制定し、それから協同組合が数多く設立されているようです。
◆唐突に出た農協解体
――基本法があると福祉やワーカーズコープなど既存の協同組合ではカバーできない分野でも協同組合が設立できるということだと思います。
一方で日本は平成26(2014)年から農協改革が大問題となります。規制改革会議が全中をなくすなどの改革案を出すといった新聞報道が4月ごろに見られ、5月に規制改革会議農業WGが意見を出しました。
5月14日でした。集会をやっている最中です。私は先頭にいて当時の全中冨士専務が大変なものが出ましたと教えてくれたことを覚えています。とんでもないなあ、と。全中を廃止して農業協同組合法から削除する、全農を株式会社化する、信用事業の代理店化、准組合員の事業利用を半分にする、全国監査機構の監査機能をなくすなど、これはわれわれの分断解体だなと思いました。今でもその流れは続いているわけですが。
――この問題についてどう対応していきましたか。
もちろん全国連の会長さんとの話し合いは持ちましたが、何よりも全国から全組合長に緊急に参加してもらった集会を6月の初めに開きました。組合長さんたち700人ぐらい集まった。初めてのことだそうです。
みんな農業ワーキンググループの意見はとんでもない話だという意見でした。それぞれの選挙区に国会議員がいるわけですから当然、みなさんいろいろな要請行動をしました。その後は与党の議論のなかで調整を図られていきましたが、与党のとりまとめでは農協は自立的な組織であり改革は自主的に取り組むものだということなど盛り込んでいきました。政府の補助金の受け皿ではあるかもしれないけれども、組織として補助金をもらっているわけではない組織に土足で入り込んでああせい、こうせいなどというのはとんでもないという話もしました。
それから農協の監査を公認会計士監査とするという改革では国がその費用負担を支援する趣旨の項目も入りました。しかし、現在までまったくその約束が実践されていないのではないでしょうか。
その後、いろいろな議論を経て、最終的には准組合員の利用規制の問題と、中央会の監査権限とどっちを取るかという問題になっていきました。 それで中央会会長会議などを開いて協議しましたが、各県ではやはり准組合員問題が大事だという人が多かった。私はどちらも大事だと話しましたが、最終的に決断をしなければならないという局面に入っていきました。信用事業分離問題もいろいろな方面から圧力もあったと思います。やはりお金を握ることは金融資本主義の中心ですから。
全中の問題については役割を見直すにしても、あくまで農協法のなかに位置づけるべきで削除して一社化してはならないと。
(写真)萬歳 章・前JA全中会長
(続きは下記のリンクより)
【萬歳 章・前JA全中会長】農が基軸の国 協同組合の力で(下)
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