JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
【今村奈良臣のいまJAに望むこと】第64回 荒廃した山を牛の放牧で見事に修復した2018年10月6日
世界文化遺産である群馬県富岡市の富岡製糸場は明治5年に創設され近代日本産業の発祥の原点とされている。この暑かった夏でも修学旅行生をはじめいまなお毎週数万人の人々が訪ねてきているという。
この地域は水田はきわめて少なく、養蚕とこんにゃくの主産地として古くから生計をたてていた地域でもあった。
◆輸入自由化で地域農業崩壊
ところが、1962年の生糸の輸入自由化、さらにガット・ウルグアイラウンドのコンニャクの輸入割当制度、つまり輸入の自由化によって壊滅的な打撃を受けた。
この地域のJA甘楽富岡の輸入自由化前の農産物の売り上げは約93億円であったが、この自由化により一挙に激減し、実に10億円に激減した。こういう地域は他にはないと思う。
◆「ベジタブルランドかぶらの里」の策定と推進
このような惨状を前に、JA甘楽富岡は、黒澤賢治営農事業本部長(当時)を中心に、首都圏から100キロという地の利を生かし、かつ、標高150メートルから840メートルという条件不利な立地を逆手にとって活かし、多彩な野菜、キノコなどの通年供給可能な産地への改造と多彩かつ巧みな販売戦略を含む「ベジタブルランドかぶらの里」という計画に衆知を活集し、策定、実践、推進して、この難局を切り抜けて、いまでは、首都圏一とも言われる野菜供給基地へと発展、成長した。ついでながら「かぶらの里」といのはこのJA管内を貫流している鏑川のことである。また、本欄でもかねてより紹介してきたJA-IT研究会はこの地でその産声をこの時期にあげて発足し、来る10月19日(金)に第50回記念研究大会を学士会館で開催することになっている(なお2日目の20日はJAビル36階大会議室で開催)。
◆「Challenge 500」の推進
この黒澤賢治さんに、いまから17年前に、JA甘楽富岡を訪ねたおりに、「管内を久しぶりに見せてもらったが、「畑は実にきれいに作物が作られ見事だが、山間地に入ると桑の木の廃園や雑草、カズラや竹林がはびこっていて山は荒れ果ててもったいないことだ。ひとつ『牛の舌刈り』とか、牛がいなければ、『Rent A Cow』というのをやってみたらどうですか。ここはかつての名牛『紋次郎』の血を引く牛もいるのではないですか」、と話したことがあった。
この私の提案に対して黒澤賢治さんは早速応えてくれて別表に示したような"Challenge 500"という計画をすぐさま作ってくれて、具体的に推進してくれた。
別表にみるように、平成15年の母牛421頭、子牛販売頭数265頭、販売額1億1571万8000円から始まって、平成19年には母牛頭数543頭、仔牛販売頭数420頭、販売予定額1億8700万円という実施計画を作り、推進してくれることになった。この計画はほぼ予定通りというよりも超過達成されて推進され、最近、お会いした時には、「先生に差し上げた計画は超過達成させながら推進し、とうとう親牛の放牧頭数は1200頭になりました。もう、放牧すべき林野も放棄桑畑も山林も無くなりました」と話された。実に素晴らしい実践力であると威嘆している。
この黒沢さんの実践と推進力を見て、群馬県農政部は、山林、特に里山や放置された桑畑に和牛の放牧を全力をあげて推進しているとの報に接している。
どうか、全国各地の農政、農協関係者の皆さんも、この黒沢さんの実践力と指導力に見習って牛の放牧に取り組んでもらいたい。皆さんのどの地域でも荒れた山林、里山、さらに耕作放棄地が多数存在していると思う。そこは牛の放牧にとっては適地であり、地域農業再生の拠点となり中山間地域再生の光となってくると思う。全智、全力をあげていただきたい。
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(174)食料・農業・農村基本計画(16)食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する目標2025年12月27日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(91)ビスグアニジン【防除学習帖】第330回2025年12月27日 -
農薬の正しい使い方(64)生化学的選択性【今さら聞けない営農情報】第330回2025年12月27日 -
世界が認めたイタリア料理【イタリア通信】2025年12月27日 -
【特殊報】キュウリ黒点根腐病 県内で初めて確認 高知県2025年12月26日 -
【特殊報】ウメ、モモ、スモモにモモヒメヨコバイ 県内で初めて確認 高知県2025年12月26日 -
【注意報】トマト黄化葉巻病 冬春トマト栽培地域で多発のおそれ 熊本県2025年12月26日 -
【注意報】イチゴにハダニ類 県内全域で多発のおそれ 熊本県2025年12月26日 -
バイオマス発電使った大型植物工場行き詰まり 株式会社サラが民事再生 膨れるコスト、資金調達に課題2025年12月26日 -
農業予算250億円増 2兆2956億円 構造転換予算は倍増2025年12月26日 -
米政策の温故知新 価格や流通秩序化 確固たる仕組みを JA全中元専務 冨士重夫氏(1)2025年12月26日 -
米政策の温故知新 価格や流通秩序化 確固たる仕組みを JA全中元専務 冨士重夫氏(2)2025年12月26日 -
米卸「鳥取県食」に特別清算命令 競争激化に米価が追い打ち 負債6.5億円2025年12月26日 -
(467)戦略:テロワール化が全てではない...【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月26日 -
【スマート農業の風】(21)スマート農業を家族経営に生かす2025年12月26日 -
JAなめがたしおさい・バイウィルと連携協定を締結 JA三井リース2025年12月26日 -
「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業」採択 高野冷凍・工場の省エネ対策を支援 JA三井リース2025年12月26日 -
日本の農畜水産物を世界へ 投資先の輸出企業を紹介 アグリビジネス投資育成2025年12月26日 -
石垣島で「生産」と「消費」から窒素負荷を見える化 国際農研×農研機構2025年12月26日 -
【幹部人事および関係会社人事】井関農機(1月1日付)2025年12月26日


































