JAの活動:農協改革を乗り越えて -農業協同組合に生きる 明日への挑戦―
【JAいわて花巻】「地域ぐるみ農業」実現へ(前編)2017年10月19日
岩手県中央部に位置するJAいわて花巻。平成10年、平成20年と2度の合併を経て、東は太平洋沿岸部から西は奥羽山脈まで、距離にして東西約120km、総面積は約3400平方kmという、広大なエリアを事業管内としている。組合員との物理的な距離が広がるなか、「農家組合」を重要な基礎組織と位置付け、各支店をその活動拠点として、組合員全員参加の「地域ぐるみ農業」を実現し、揺るぎない経営基盤を確立している。そこには、政府主導の農協改革で、捨て去られようとしている「協同」の理念が息づいている。
◆農家組合を再編地域の基礎力に
(写真)「集落営農ビジョン」の中核になる農業生産法人
JAいわて花巻が、事業や活動を組み立てる上で母体と位置付ける基礎組織が、現在367ある農家組合だ。かつては700を超えたが、組合員の高齢化などで農業者が減少し、集落内農用地の維持管理や作業の共同化といった地域課題に対応するため、平成元年から24年にかけて、1組合70戸から100戸を目標として農家組合を再編、集約した。
各農家組合は営農部と生活部とで構成され、農業振興事業はもとより、JA農業まつりへの参加などのふれあい活動に至るまで、JAに関わるすべての事業と活動は農家組合単位で行われている。
各農家組合では、JAいわて花巻が目指す「地域ぐるみ農業」確立のため、自らが3年後になりたい姿を描いた「集落営農ビジョン」を組合員全員参加で策定し、進捗や情勢の変化に応じた見直しを毎年行っている。集落営農ビジョンは、国の交付金の決定に関わる市の地域農業マスタープランの基礎資料となり、正確さが求められるため、めまぐるしく変わる農政への対応や出入りの激しい担い手数の把握などの事務手続きは、各農家組合に配置されたJAの職員が後方支援する。
また、ここ数年、法人化への流れが顕著になったが、法人化したものの維持することが難しく、フォローを求める声が挙がっていた。そこでJA職員OBを中心とした「担い手支援アドバイザー」が、法人などへ出向き「声を聴く運動」を始めた。聞き取った意見や悩みは、集落営農ビジョンに反映させるとともに、実際の支援体制の構築に活かしている。
◆多様な作目の産地化「農の匠」が貢献
JAいわて花巻管内は県内屈指の米どころ。主食用米に加え、政府備蓄米や加工用米など、平成28年度の米穀販売高は122億円、JA全体の販売額構成比では半数以上を占める。
その一方で、転作作目としての大豆・麦のほか、東西に長い立地を活かしたバラエティーに富んだ園芸作目の栽培も盛ん。平成28年度の園芸販売高は35億円、販売額構成比では約15%と、産地として定着しつつある。
そこで、農家所得のさらなる拡大を目指し、新たに取り組みを開始したのが「農の匠(たくみ)」による指導システムだ。重点作目ごとに地域の中核農家を農の匠として委嘱し、同じ作目を生産する農家への技術指導や、栽培にかかる情報を発信・共有し産地全体の底上げを目指す。
(写真)園芸振興に「農の匠」が活躍(上)とJAオリジナルのリンドウを栽培する鉢花生産部会
農の匠の一人、晴山文佳さん。35年前からピーマン栽培を手掛けるベテランだ。現在9棟のハウスで年間10t以上のピーマンを生産、地域の平均販売額を大きく上回る実績を誇る。
「かつての篤農家は、技術を外へ漏らすことはありませんでした。でもそれでは、産地全体の評価はいつになっても上がりません。地域で生産されるすべてのピーマンの品質が向上して、初めて産地として認められ、定着するのです。自分の持っている技術や情報を、地域に217人いる生産者全体で共有することで、産地ブランド化を進め、各農家の収入アップにつなげたい」。
(写真)ピーマンの「農の匠」晴山文佳さん
ピーマン栽培には、主枝以外を剪定し、実のなり方をコントロールする整枝が欠かせない。晴山さんは、整枝をする時期に、自身の圃場で実際に作業をやってみせる実演型の技術指導を行っており、毎回60人を超える生産者が集まる。圃場に来られない遠隔地の生産者のために、別会場での出前指導会も実施しているほか、相談を受ければ、個人の圃場にまで出向き、それぞれの状況に見合った個別指導を行う。
「ピーマン栽培で、整枝は一番肝となる作業。整枝を行うのとそうでないのとでは、質も量もまったく違ってきます。これまでは、整枝をしないでピーマンを生産出荷していた農家もいたので、出来ばえが均一化せず、収量も安定しませんでした。しかし、技術指導を行うようになってからは、品質が向上し、一定程度の収量を確保することができるようになりました」。
今では、大きさが不揃いだったり、極端にわん曲したピーマンを選果場に出荷する生産者は少なくなり、高品質化は着実に進んでいるという。「今はまだピーマンの生産マニュアルがありません。通りいっぺんの分厚い資料ではなくて、土づくり編、作業編というように、定植前の準備から管理までを分割し、ポイントを押さえてまとめたものを、タイミングよく発信する。それをバインダーに綴じていけば、1年後には立派な生産マニュアルになります」。農家の需要に伴走する新たな生産マニュアルの作成に向けて、現在、普及センターとJA、晴山さんとで協議を進めており、来春には実現する予定だ。
ピーマンの他にも水稲、大豆、ホウレンソウと、晴山さんが手掛ける栽培品目は多岐にわたり、守備範囲は広い。「机上の論理だけでは農業はうまくいかない。一人ひとりの農家が自信を持って活躍できるように、JAと協力しながら、自分にできることがあれば、力を尽くしていきたい」。
農の匠の取り組みは今年で2年目。晴山さんを含め現在29人の中核農家が農の匠として活躍している。
取材・構成:(一社)JC総研 主席研究員 小川理恵
※後編へのリンクはコチラ
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日
-
キウイブラザーズ新CM「ラクに栄養アゲリシャス」篇公開 ゼスプリ2025年4月30日
-
インドの綿農家と子どもたちを支援「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」に協賛 日本生協連2025年4月30日