JAの活動:第28回JA全国大会特集「農業新時代・JAグループが目指すもの」
【JA自己改革の現場から・JA岩手ふるさと】営農座談会や全戸訪問 "徹底対話"で意思疎通2019年3月11日
作目や経営形態が多様化した今日、かつて組合員のほとんどが米作農家であったころと違い、JAと組合員の意思疎通が十分にできなくなった。しかし、稲作を中心としてきたところでは、生産部会や集落単位で組合員との話し合いの仕組みが維持されているJAが多い。JA岩手ふるさとは、これを有効に活用して組合員のニーズをくみ取り、特に営農指導、販売・購買事業に生かしている。
JAグループは現在、全組合員を対象にしたアンケート調査を全国規模で行っている。調査訪問を通じて組合員と「徹底した話し合い」を行い、JAと組合員の意思疎通を強めようというものだが、JA岩手ふるさとの高橋隆常務は、「言われるまでもなく、組合員との話し合いは農協運営の基本で、これまで、わがJAは率先して取り組んできた」と言い切る。同JAには全職員による全戸訪問や、営農座談会などを徹底してやってきたという自負がある。
(写真)管内の水稲作のほとんどをカバーする農家が参加する冬期営農座談会
◆全職員が総外務活動
具体的には、毎月第3週の水・木曜日を「総外務活動日」に設定し、正組合員全戸、それに農村部の准組合員全戸と都市部の准組合員の一部の戸別訪問を行っている。このときは、支店窓口業務などの内勤者を除く全職員に担当地区を割り当て、JAの広報誌を持参してJAの事業を説明するとともに、組合員の注文や要望などを聞く。併せて訪問先の近況確認も行い、終了後には「総外務活動実施報告書」を作成し、情報を集約している。
(写真)正組合員全戸対象の「総外務活動日」の訪問
組合員には、外務活動日を明記したカレンダーが配布してあり、訪問時間帯も決まっていることから、職員の訪問を待っている組合員も多い。「これが職員のモチベーションを高める動機付けにもなっている」と高橋常務。
職員一人当たり40~50戸を訪問することになり、この仕組みを使って、JAグループが進めている全組合員アンケート調査に、1月の総外務活動日から取り組んでいる。3月の総外務活動日までには終える予定で、事前の研修で調査の主旨を徹底した。
同JAは約1万1000人の正組合員に対して准組合員はその半分強の6000人余り。米穀の98億円を主力とする170億円余りの販売額を持つ、営農経済事業を主体とするJAである。当然ながら組合員との対話は、米穀や園芸、畜産などの生産部会に属する正組合員が中心で、内容も営農指導を通じたものとなる。その場が「冬期営農座談会」や「営農指導会」である。
◆216か所で米現地指導
「『地域』と育む協同の『輪』」をスローガンに毎年、2月中旬に集落ごとに開いている冬期営農座談会は4、5日かけて米穀・畜産・園芸等、JAの事業方針を説明する。これがその年の営農指導のスタートとなり、参加者は231会場で延べ3000人に達する。
同JA管内では大規模農家約100人が水稲全体の約半分を生産しており、座談会参加者全体で管内水稲のほとんどをカバーすることになる。また米穀部門では、3月から9月まで管内216会場で現地指導会を開き、ほ場に合わせた稲作の栽培指導を行っている。園芸部門でも、年間を通じて適宜、作物・品目ごとに栽培指導を徹底している。
(写真)「産直来夢くん」を拠点とする地域でのくらしの活動
このほか、JA全農のTAC(出向く営農経済担当)が始まる前から設けている「営農アドバイザー」が営農指導・サポートを行っている。さらに平成28年から、JAの5か所の地域センターの営農経済課に「担い手担当」職員を配置。現在営農アドバイザー63人、担い手担当22人が、組合員の営農・生活など、組合員のさまざまな相談に応じ、ニーズを聞く活動を展開している。こうした出向く体制の充実で、「当初は『大きい農家だけ見ている』という指摘もあったが、小規模生産のさまざまな担い手を含めて、幅広く訪問できるようになった」と高橋常務は言う。
また、集落営農組織の支援のため、平成20年に「集落営農組織連絡協議会」を設立した。現在76組織が加入し、農政情報等の共有や経営力の向上に努めている。組合員の世代交代による新規組合員セミナー、青色申告サポートも実施。青色申告では、決算時期に約1か月間、支店等に窓口を設け、営農指導員が中心になってサポートする。平成29年には販売農家約6000戸のうち、1500戸を支援した。
こうした正組合員を対象とする「徹底した話し合い」を通じ、また総代会などで出た資材価格の低減に関する組合員の意見に対し、JAでは「同じ物であれば、少なくとも同じ価格にする」という姿勢を示し、集落座談会や営農指導会に出席する職員にも徹底。組合員の要望に応え、従来は系統と商系が同じ場で資材価格を協議していたものの、思うような価格が実現できなかったことから個別交渉に切り替え、価格の引き下げに努めた。
また水稲では主要品目の「ひとめぼれ」を中心に、本格的な生産に入った岩手県産オリジナル品種「金色の風」との2本立てで有利販売をめざし、現在、出荷量の約半分を量販店や米卸などに直接販売している。
一方、同JAは農家所得向上のため米プラス園芸に力を入れており、水稲と労力面で競合しないピーマンの生産拡大を計画。管内の胆沢地域は、かつて全国でトップクラスの産地だったこともあるピーマンの産地であり、技術的な基盤はある。平成30年から新たに導入した形状選別機が稼働し、増反に弾みがついている。
営農指導ではこのほか、新規就農・担い手育成で「農業マイスター制度」を導入。新規就農者に対して、JAを始めとする関係機関・生産部会が一体となって支援する制度。2年の期間で1年目はJAの特別臨時職員扱いとし、15万円の給料を払いながら研修し、後期の1年は実際に就農あるいは就農に向けた準備にかかる。平成29年度までに20、30代を中心に19人がこの制度を利用した。この中から、ピーマンの生産に挑戦する若手就農者のグループ「Growth(グロース)」も生まれた。
◆農協で農協の全てが
一方、同JAには平成24年にオープンした東北最大級の直売所「産直来夢くん」がある。ここが、生産農家だけでなく地産地消・食育・JAの情報発信の拠点になっている。産直野菜を利用したレストラン、ベーカリー・アイス工房を備え、併設したほ場でイチゴ狩りもできる。
組合員や地域住民を対象にしたJAまつり大収穫祭には約3万人が参加。地域の人々にJAの存在をアピールしている。小学生親子対象の「食農親子フェスタ」、子育て支援サークル「にこにこクラブ」、高齢者対象の「元気アップ講座」、女性限定農機具講習会、多様な担い手相手の野菜園芸教室など、さまざまな暮らし・営農活動の拠点としての機能を果たす。
「『来夢くん』を覚えてもらうとともに、ここに来れば農協のやっていることは何でも分かる」と高橋常務。地域での農協の存在感を示す場となっている。
(写真)若手就農者のグループ「Growth」
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