JAの活動:築こう人に優しい協同社会
「総合力で地域貢献」JAいちかわ・今野博之理事長に聞く(2)【築こう人に優しい協同社会】2022年3月15日
千葉県のJAいちかわ管内は江戸川を挟んで東京都江戸川区に接し、急速に都市化が進んだところである。合併前の旧JA管内では、すでに農業がなくなったところもある一方で、歴史のある梨の産地があり、ニンジンやカブなど都市近郊の野菜産地としても知られる。JAいちかわは都市化と伝統ある産地という大きく異なる環境を生かした地域密着の事業・活動を展開し、大都市近郊におけるJAの一つのあり方を示している。今後の事業展開方策について、今野博之代表理事理事長に聞いた。
――農水省は先の農協改革で准組合員の拡大を問題にしていますが、どのように考えますか。
それを言ったらJAのいちかわのような都市農協は成り立ちません。一般的に、地域の人にとってJAは敷居が高いとみられています。それを改めることができるのはJAの総合事業です。水田も畑もない地域の人にとって、JAの総合事業をもっと知っていただかなければなりません。もともとJAは購買・販売、信用・共済など総合事業を行う協同組合としてスタートしたものです。農協改革で農水省は、営農経済事業に力を入れるべきだといいますが、JAの原点はこうした総合事業にあります。
JAに貯金するとマイカーローンがあり共済もある。また住宅ローンなどで融資が増えるとJAの収益が増えます。これを地域に還元する。それが総合事業の強みであり、このよさをもっと地域の人にアピールする必要があります。住宅ローンなどの融資が増えると貯貸率が上がり、収益が増える。そのためにはJAは今日、総合事業による地域貢献が求められているのです。その原点に戻るべきです。
還元事業では、今はコロナ禍で中止に追い込まれていますが、桜の季節にはJAの前にある桜並木を1週間ライトアップし、「桜まつり」を行っています。このほか食農教育、こども食堂の運営、JAファンづくりの女性大学の開講、納涼祭、農産物直売、さらに毎年8500名規模の歌謡ショーや招待旅行、ディナー招待会、JAの野球部応援など、正組合員、年金受給者などを招き、幅広い地域貢献活動を行っています。
――農産物の販売で、市街地にあるという環境をうまく生かしていますね。
地域社会との絆づくりのためも農業は重要です。JAの支店前で新鮮な梨、野菜の直売をしています。管内は消費人口が多いので、こうした直売は人気があります。そもそもJA管内の消費者は、地元産で野菜がとれることを知らない人も少なくありません。コロナ禍で花が売れなくなった花き農家支援のため、JAが買い取り、母の日にカーネーションを管内の行政や駅、福祉施設などへ寄贈しました。
大消費地の利点生かした地下鉄駅でナシの直売(地下鉄「妙典駅」)
管内を通る私鉄の「市川真間(ママ)駅」の名称にちなんだイベントでしたが、通勤客に好評でしたね。梨やニンジンなどの特産物を都内や、遠くは北海道まで行ってプロモーション活動もしましたが、身近に多くの消費者がいることに改めて気づかされましたね。昨年はJR西船橋で梨を販売し、3日間で3000個売れました。コロナ禍で、農家の所得を少しでも増やそうと思ったのがきっかけですが、その後、これが梨やイチゴなどの買い取り販売に広がりました。
――これからのJAいちかわの目指すJAは。
地域のインフラになり、地域に密着した貢献のできるJAを目指さなければならないと思います。これからJAの信用事業は厳しくなると思います。
経営を安定させるには、JAも利益を上げる必要があり、新しい組合員を増やして、組織基盤をもっとボリュームのあるものにしなければなりません。
そのための広域合併が難しいのなら、事業面で提携し、〝オール千葉〟という意識改革が必要です。JAいちかわには米の生産がありませんでしたが、合併した旧JA船橋市と柏市の旧JA田中にはありました。それでアラブ首長国連邦(UAE)への輸出ができたのです。つきあいのあるJAきみつにも、JA安房にも自分では売り切れないほどの米があります。JAはみんな仲間です。一緒に販売することができないかと提案しています。
成田市にある国際空港に新しい滑走路ができることになり、発着便が増えます。千葉県には米やイチゴのほか、トマトやキャベツなど輸出できる農産物はたくさんあります。それを空港に近い地の利を生かしてオール千葉で取り組めたら素晴らしいと思います。それを県の中央会は研究していただきたい。
これから消費人口が減り、農家数も減少が続くでしょう。特産の「市川のなし」は203人の生産者がいます。その多くは梨街道と呼ばれる道沿いで観光農園や梨の直売店を出しています。街道から外れる農家の梨はJAが買い取って駅や支店での直売していますが、これからもっと収益の上がる経営を考えなくてはならないでしょう。梨のジュースやイチゴの加工なども、食品メーカーとコラボで検討しています。大きな環境変化が想定されるなかで、JAはこれまでと違った事業展開が求められるのではないかと思います。
【JAの概況】
1963年市川市農協発足。87年浦安市農協、2004年船橋市農協、10年田中農協が合併して現在の市川市農協になる。
▽組合員2万76人:(うち正組合員4756人)
▽貯金残高:3581億9000万円
▽長期共済保有高:6530億1000万328人
(2020年12月末現在)
重要な記事
最新の記事
-
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日 -
「農林水産業みらいプロジェクト」2025年度助成 対象7事業を決定2025年12月19日 -
福岡市立城香中学校と恒例の「餅つき大会」開催 グリーンコープ生協ふくおか2025年12月19日 -
被災地「輪島市・珠洲市」の子どもたちへクリスマスプレゼント グリーンコープ2025年12月19日


































