JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
【現地ルポ】福岡・JAみなみ筑後(1)地域住民とともに資源循環 生ごみで発電、液肥化2024年7月18日
福岡県最南部みやま市と大牟田市を事業エリアとするJAみなみ筑後は、大坪康志代表理事組合長を先頭に、今年度総代会で承認を得た「3大プロジェクト」をもって、今後の地域農業展開をめざしている。髙武孝充元JA福岡中央会営農部長と村田武九州大学名誉教授がJAみなみ筑後の大坪康志組合長に話を聞いた。
生ごみで発電、液肥化
市民参加の資源循環が農業を支える
みやま市(人口3万7000人)は隣接する柳川市と共同運営する清掃センター(ごみ焼却施設、1994年完工)やし尿処理場(1999年完工)の老朽化にともなう改築が迫るなかで、2014年にバイオマス活用推進基本法(2009年制定)に基づく農水省を中心に7府省が関係する「バイオマス産業都市」の選定を受けた。
ごみ焼却施設やし尿処理場など廃棄物処理施設の単純な改築ではなく、資源循環の施設にする構想が環境経済部から持ち上がり、みやま市当局者の合意をえたものである。これには、すぐ近くの大木町で、「生ごみなどを資源に!! 循環のまちづくり」をスローガンに「おおき循環センター『くるるん』」が2006年に完工していたのがモデルになった。
みやま市バイオマスセンター「ルフラン」
みやま市バイオマスセンター「ルフラン」
2013年度には「みやま市一般廃棄物資源循環計画」を策定し、「生ごみの資源化メタン発酵発電・液肥化」を盛り込んだ目標を設定し、生ごみの分別収集についての市民の理解を得るのに時間をかけ、みやま市バイオマスセンター「ルフラン」の完工にこぎつけたのは2018年末であった。
生ごみが分別収集されるので、柳川市と共同運営のごみ焼却場にみやま市から持ち込まれるごみ量は1万300tから5千tに半減したという。しかも、みやま市はし尿処理施設も廃止できた。市民には生ごみ専用バケツが無償配布され、ほぼ10戸に1個ずつ配置された大型生ごみ桶に投入すればよく、生ごみ収集車が週に2回巡回して収集する。市民は生ごみ用袋を買う必要がなく、市民の環境意識の向上が確実に進んでいるという。
2023年度の実績では、生ごみは市内1万5000の全世帯から1100t、事業系生ごみ530t、し尿1万4300t、浄化槽汚泥2万3400tがメタン発酵槽に投入される。メタン発酵後の消化液は殺菌処理され液肥(みのるん)となるが、液肥生成量は1万400tに達する。
肥料代や労力"浮く"
左から深山市環境経済部の猿本邦博農林水産課長、木村勝幸部長、環境政策課脱炭素社会推進係の今村雅義係長、同副島智夫主査
2023年度の液肥撒布実績は、水稲(元肥、5月~7月)が93ha・4279t、水稲(追肥、8月)が117ha・2423t、タケノコが10月と1月に合計1・7ha・119t、菜種が10月・11月に合計7・2ha・501t、麦が10月・11月に合計44・5ha、3073t、レンコンが4月に0・8ha・35t、ナスが7月に0・4ha・35tである。合計すると265haに1万465tの撒布になる。液肥撒布希望のとりまとめと、撒布車・運搬車の配車計画事務は農協が担当している。
液肥そのものは無料で、液肥運搬車利用は1台550円、液肥撒布車(「ルフラン」従業員が指定農地に出向き、撒布する)は撒布10アール当たり1100円である。農家にとっては、液肥撒布で追加の化成肥料も不要になり、10アール当たり1万円はかかる肥料代が1100円で済み、肥料撒布労力も不要になる。なお、小学校区ごとに17カ所の「校区設置タンク」が配置されており、市民は無料で家庭菜園用に液肥を利用できる。みやま市環境衛生課循環型社会推進課係発行の『バイオ液肥「みのるん」・家庭菜園用施肥方法』が、市民向けに野菜種類ごとの「みのるん」施肥方法を23ページにわたって、くわしく紹介している。
同じく市民向けのパンフレット『みやま市バイオマスセンター「ルフラン」』が、「福岡県ワンヘルス啓発施設第4号」の認定を受けたとして、「ルフランでの資源循環の取組を通して、環境保護だけでなく、人や動物の健康にもつながることを啓発しています」としている。「どうするのか? この国のかたち」との問いに、みやま市のバイオマス産業都市構想は一つの大いなる回答ではなかろうか。
【取材を終えて】
みやま市のバイオマス産業都市構想が、基幹産業である農業を活性化することが土台にあること、それをめぐって自治体と農協が本気にタイアップすれば、相当のことがやれることを知ることができたたいへんうれしい取材であった。事件現場に駆け付けるような、急な取材のお願いに対応いただいた、JAみなみ筑後の大坪康志組合長と、みやま市環境経済部の木村勝幸部長、環境政策課脱炭素社会推進係の今村雅義係長、同副島智夫主査に心から御礼申し上げたい。
【あわせて読みたい記事】
【現地ルポ】福岡・JAみなみ筑後(2)大坪康志組合長に聞く 「農業元気に」モットー(2024.7.18)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日