JAの活動:第30回JA全国大会 持続可能な社会をめざして
【JAトップ座談会】JAみっかび井口組合長、JA鳥取県中央会栗原会長、JA松本ハイランド田中組合長(1)【第30回JA全国大会特集】2024年10月8日
JA全国大会のスローガンは「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」。JA鳥取県中央会会長で家の光協会会長でもある栗原隆政氏、静岡県JAみっかび組合長の井口義朗氏、長野県JA松本ハイランド組合長の田中均氏を招き、大会に合わせた座談会を企画した。司会は文芸アナリストの大金義昭氏。
写真左からJAみっかび井口義朗組合長、JA鳥取県中央会栗原隆政会長、JA松本ハイランド田中均組合長
【出席者】
▽JA鳥取県中央会会長、(一社)家の光協会会長 栗原隆政氏
▽静岡県・JAみっかび組合長 井口義朗氏
▽長野県・JA松本ハイランド組合長 田中均氏
▽司会・文芸アナリスト 大金義昭氏
◇ ◇
輸入絡みの「食と農」懸念
大金 国内農業や地域社会が未曽有の難局に直面している今、JAやJAグループは協同組合の真価を発揮するために何をすべきか。第30回JA全国大会を控え、まずは大会議案の全般についてご意見を。
栗原 大会議案について語る前に、改正食料・農業・農村基本法のことから話したい。農家の最大の関心事は、適正な価格形成や価格転嫁です。この問題は法制化もさることながら、生産者と消費者との相互理解が肝要です。私も直売所に出かけたりスーパーを回ってみたりしていますが、消費者の皆さんからは「ある程度高くなっても仕方がない」とのご意見をいただいています。
JA鳥取県中央会会長、(一社)家の光協会会長 栗原隆政氏
田中 かつての農業基本法は「農業をどうするか」でしたが、現行の基本法は「国民の食料をどうするか」。現在の食料自給率は先進国最低の38%にもかかわらず、「食料が確保できれば輸入でもいい」というスタンスですね。それで良いのか。何か有事の際に、自分や家族や友人の食いぶちを少なくしてまで私たちは供出できない。「食と農」がないがしろにされてきた中で、それが農家の率直な心情です。
米価でいえば、高くなったといってもご飯一杯40円ですよ。アンパンは150円なのに。国が価格を決めるのは「食管制度」に戻ることですから、難しい。消費者の皆さんにも受け入れやすいのは「所得補償」ではないか。
井口 「米不足は危機だ」とJAも言っていますけど、実はチャンスでもあると考えたい。
大金 そうした中で迎えるJA全国大会が、しばしば過去に言われてきたように「決議すれども実行せず」ではいかがか。ぜひ「実行」を前提にした決議にしていただきたい。
栗原 山積する課題を考えれば、大会決議がある程度「総花的」になるのはやむを得ないが、いわゆる「PDCAサイクル」を回す発想やスタンスがこれまでは確かに弱かった。できなかった点は反省し、その上で次に進みたい。JA全国大会の決議を受け、県段階なり単協段階で自分たちにとって大事なことは何かを絞り込み、実際に着手する必要がある。
JA松本ハイランド組合長 田中均氏
田中 その通りです。今回の大会議案のスローガンに「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」と、30回にして初めて「組合員」という言葉が入った。「組合員とともに」であって「組合員のために」じゃない。一緒にやろうね、ということです。
2014年に政府や経済界が言い出した「農協改革」に対抗し、翌年にJAが「自己改革」を打ち出した。それはそれで間違いではなかったけれど、マインドとして「言われたからやる」のではなくて2012年大会でJAグループが自ら決めた「支店協同活動」にまで立ち返ってリスタートすることが必要です。
井口 かねてからの持論を算式にすると、実効を伴うには「JAの事業分量=組合員の平均経済活動量×組合員数×利用率」に尽きると思っています。組合員の経済活動とは「米やミカンを作った、稼いで貯金をした、共済に入った」などといったこと。そうした組合員がJAをどのくらい利用しているか。三つの要素の掛け算で、JA全体の事業分量が決まる。
組合員が「正」と「准」とで構成されている中で、どう対処するか。利用率をどうアップするか。あるいは組合員の経済活動をどのように増やすかなど、この算式のどの要素をターゲットにするかで、当面の危機を打破できないか考えています。
「農業所得の増大」では、今まで95%以上が市場向けだったミカンを、ECサイト(電子商取引)を含めた直販を増やして利益を上げ、組合員に還元していきたい。
静岡県・JAみっかび組合長 井口義朗氏
栗原 直販は手間がかかるけれど、市場経由とはどのように差別化を?
井口 JAみっかびには、任意団体でJAとは別組織の柑橘(かんきつ)出荷組合があり、そこで集荷したものをJAが市場に委託販売しています。ECサイトは、出荷組合からJAが仕入れ、JA特販課がたとえば3500円で仕入れて5000円の値をつけて売り、上がった利益を事業分量配当で返している。別計算ですね。
新規就農、定年帰農 重ね
大金 新規参入など農業の「担い手」問題などについては?
栗原 鳥取県は人口が約53万人しかいないので、都会から人に来てもらうためには農業や地域に魅力がなければいけない。新規参入の支援では技術や資金、住居などをパッケージにし、行政も一緒になって力を注いでいる。その結果、生産者数は減っても面積は何とか維持している。
井口 先述の出荷組合は、昭和50年代に1300人いた組合員が現在は730人。平均年齢が68歳です。かつて80アールくらいだった1人当たりの面積を110~130アールに広げてカバーしていますが、最近はさすがに厳しくなってきた。
田中 新規就農支援はいろいろ試みていますが、なかなかまとまった数字にならない。そこで「定年帰農者のためのエージェント制度」と銘打ち、もうちょっと積極的に「定年帰農」に踏み込みたい。
井口 かつての親元就農の人たちは、親がミカンなら畜産などを始めたりして、親と同じ仕事をしなかった。今の人は親と同じことをする。チャレンジするのは、マニュアルができているトマトやイチゴの栽培くらい。「同じ作物で違うことを!」と思うから、共販ではなく自分の名前で売りたくなるのかなぁ。(笑)
栗原 米の概算金でもJAが精いっぱい引き上げると、それに業者が上乗せをしてくる。すると、そちらに出荷してしまう農家が増えているのが気になる。自分ひとりで何から何までやるならまだ分かるけど、途中まで協同活動に加わっていながら、最後に抜け駆けをする「ええとこ取りはいけないよ!」という教育をもう一度しっかりやらんといかん。
井口 ミカンも抜け駆けで一時は高値で売れることもありますが、だんだん価格が下がってくると手間だけがかかるようになって、共販から抜けた人はたいがい苦労している。「共販から1度抜けたら10年は戻さない」という厳しい約束があるのですが、時代に合わせて見直し、戻ってこられるようにすることも必要かなと最近は考えています。
あとは基盤整備ですね。ただし永年作物の場合は1年に1回しか取れないので、計画的に行わなければならないし、規模拡大した分だけ機械化が必要で、スマート農業を導入していくことが課題です。
【JAトップ座談会】JAみっかび井口組合長、JA鳥取県中央会栗原会長、JA松本ハイランド田中組合長(1)【第30回JA全国大会特集】(2)へ続く
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