【26年度畜酪論議が本格化】新酪肉近初年度に配慮、産地弱体化に危機感2025年12月8日
政府・与党の2026年度畜産・酪農政策価格・関連対策論議が今週から一気に本格化する。加工原料乳補給金単価は実質手取り増が焦点だ。一方で生乳需給緩和が深刻化しており、需要拡大策と離農加速の中で生産基盤維持・強化の具体策が課題となる。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
畜酪論議では生産基盤強化も大きな焦点だ。昨年、受託酪農家戸数1万戸割れで経営危機を訴える生産者ら。
1年後の今年10月の受託戸数は9500戸割れと離農に歯止めがかからない
■短期決戦、18日にも決着か
補給金単価などを決める2026年度畜酪論議は、10日にも自民党畜酪委員会を再開し北海道東の酪農主産地視察、生産現場との意見交換の結果を報告するとともに、具体的な論議が本格化する。
例年、12月20日の週に畜酪政策価格・関連対策は結着する。だが、今回は経済対策を柱とした政府補正予算案など審議する今国会の会期末が17日の予定で、来週半ば18日前後にも実質的な決着となる"短期決戦"との見方が強い。
今回の畜酪政策論議は、食料安全保障論議具体化の実質、初めての生産者価格決定、関連政策を示す象徴的な位置づけ。特に10月発足の高市政権にとって、食料安保、食料自給率向上は重要な柱で、農業産出額で4割近い畜酪の持続可能な生産、経営強化は喫緊の課題だ。
大きな特徴は、新たな食料・農業・農村基本計画と同時に示された新酪肉近の初年度であること、生産基盤を抜本強化する農業構造転換集中対策期間での財政支援拡充、コストを踏まえた価格形成へ食料システム法施行で持続可能な畜酪へ「再生産」の視点も欠かせない。
■戸数減重視、畜産クラスターで"先手"
例年、年末の畜酪論議は、農水省による食料・農業・農村政策審議会畜産部会、自民党畜酪委での「畜酪を巡る情勢」での項目ごとの強弱である程度の見通しがつく。その後、農業団体の要請などを踏まえ自民農林幹部の重点絞り込みを経て、財政当局との最終調整がなされる。
農水省が11月下旬に示した畜産部会提出資料「畜酪を巡る情勢」は、同省のある"狙い"が潜む。全体で90ページある「巡る情勢」のうち40ページ余りを酪農に充てた。新酪肉近論議同様に需給や経営改善の分析に多くのページを割き、肝心の生産基盤の実態などは後ろのページに簡単な表でまとめた。系統外の生乳自主流通グループの拡大を招き需給調整に支障が出かねない改正畜安法の問題点も、表面上の整理にとどまっている。
ただ、今年の"短期決戦"を踏まえ、農水省は先手を打った。生産基盤を維持・確保する畜産クラスター事業の改善を、JAグループ北海道などの強い要望をある程度受け入れる形で決めたのだ。25年度補正予算案に盛り込んだ。
具体的には、クラスター事業のうち、コロナ禍で生乳需給緩和以降止まっていた酪農牛舎施設の支援を再開した。2030年度目標の北海道酪肉近は生乳生産目標を「445万トン」と、農水省の酪肉近の「上限」を目指す増産計画とする方針だ。そこで同省は今後の酪農家の生産意欲にも配慮した。
■脱粉過剰削減と総交付数量の扱い
増頭にもつながる畜産クラスター事業再開は、現在の生乳需給情勢との「整合性」で課題も残る。脱脂粉乳の在庫が積み上がっているからだ。
Jミルク予測では、このまま在庫削減対策を取らずに放置すれば年度末には在庫8万トン強となる。コロナ禍で脱粉在庫10万トン以上になり2年間の減産を余儀なくされた水準に迫る。畜産クラスター牛舎整備再開による増産と生乳需給緩和との関係だが、農水省は一定の飼料生産基盤のあることが要件で「整合性」は保てるとしている。背景には離農の高止まりがある。
バター、脱粉など加工原料乳補給金対象となる総交付対象数量はどうなるのか。25年度の政治的判断が参考となる。同様に需給緩和の中で、乳製品需要を踏まえ総交付数量を325万トンにとどめる一方で、関連対策としてALIC事業で18万トンを対象にして、実質的な交付対象数量を据え置いた。
■畜酪ヘルパー支援拡充も焦点
関連対策では、生産現場の労働力不足を補うため、酪農や肉用牛の作業を手助けするヘルパー制度の拡充も課題だ。効率経営に乳牛の長命連産支援、異常気象を踏まえた畜舎の暑熱対策支援なども関連対策メニューとして想定される。
■食料システム法と「再生産」
キロ11円90銭の補給金等単価(補給金9円9銭、集送乳調整金2円73銭)は、特に物流コスト高下で指定団体に充てられる集送乳調整金単価の扱いに注目が集まる。25年度は算定ルールで補給金算定をしたうえで最終的に別途8銭を集送乳経費加算としてALIC事業で上乗せし、補給金単価アップで着地した。
コストを踏まえた価格形成へ食料システム法が26年4月に全面施行する。農業団体は「再生産確保」を前面に出し、コストの高止まりを踏まえた補給金水準を求めている。農水省も何らかの政治的配慮を迫られる情勢だ。
■改正畜安法の規律強化も課題
脱粉過剰が深刻となる中で、改正畜安法の規律強化、実効性ある需給調整も大きな課題となっている。こうした中で、問題の核心を突くのが畜酪論議で日本乳業協会の佐藤雅俊会長(雪印メグミルク社長)の提案だ。
「需給」対策参加を要件としたクロスコンプライアンス導入を評価する一方、改正畜安法の一層の規律強化を求めた。具体的には系統傘下の酪農家と非系統との公平性確保が不十分と問題提起。乳製品の過剰在庫を巡るコスト負担の公平性担保へ「より多くの酪農関係補助事業を対象に加えるとともに補給金制度も対象とするよう検討してほしい」とクロスコンプライアンスの強化、拡大を求めた。的を射た指摘だ。
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