農薬・肥料業界は「新規参入が極端に少ない構造」と分析 ――東京商工リサーチが業績動向調査で2016年10月7日
企業情報調査会社である(株)東京商工リサーチは、規制改革会議などで「農業の生産資材価格形成の仕組み見直し」を重要課題に掲げていることを受けて、「特別企画」として農薬・肥料メーカー264社の業績動向を調査し、その結果を10月6日に公表した。
この調査は、同社が保有する企業データベースから、主業種を「農薬製造業」「化学肥料製造業」「有機質肥料製造業」とする企業で、業績が3期連続で比較可能な264社を抽出し分析したもの。
この調査によれば、264社の2015年売上高合計は6389億5000万円で2期連続減少し、利益合計は236億8100万円となっている。
これを資本金別にみると、資本金1億円以上の35社(構成比13.2%)の売上高合計は4989億3000万円で、売上高全体の78.0%を占めている。
このうち業歴5年未満の企業はなく、5~10年未満企業も3社(同1.1%)にとどまり「新規参入が極端に少ない業界構造となって」おり「大手と地域密着の中堅企業が共存する独特の市場が形成されていることがわかった」と分析している。
A4版3頁のこの調査結果のまとめとおぼしき部分でも、「新規参入が少なく既存市場が固定化することで、競争原理が失われ、新陳代謝が起こりにくい構造が既存業界の変化をより遅らせるスパイラルに陥っているかもしれない」と、韓国に比べて日本の価格が高いことの要因だと印象付ける分析をしている。
そして最後の結論で「農業改革は流通価格だけでなく、農業資材メーカー再編によるスケールメリットの追求、農薬や肥料など農業資材の輸出拡大による生産コスト削減など、あらゆる方面から議論が必要な時期を迎えている」とむすんだ。
この調査報告が公表された6日の日本経済新聞では「農業資材値下げへ新法 未来投資・規制改革会議が提言へ」という見出しで、「生産性の低いメーカーがひしめく肥料や飼料の資材業界や、コメの卸業者など農産物の流通業者の再編を促す新法の制定」が提言されたと伝えている。
まさに「グッド・タイミング」といっていい見事な連携プレーだ。
しかし、既によく知られているように、国内肥料製造会社は、全国各地でその地域の農業に適応した肥料を生産する小規模企業が多いのが実情だ。そうした肥料会社と比べれば、企業規模が大きい農薬会社を一緒くたにして分析すれば、資本金1億円未満企業が圧倒的に多くなることは当然であり、それを大げさにいうことに何か意味はあるのだろうか?
同社の担当者は肥料と農薬を分けると「分母(企業数)が小さくなる」からだと説明した。
さらに「新規参入がなく」「新陳代謝の起こりにくい構造」によって、「流通銘柄の多さ」となり、それがあたかも価格を高くしているかのように分析するが、それは本当に日本の農業の実態をきちんと理解したうえでの分析といえるのだろうか。また、韓国と比較することで価格が高い安いと論議されることは、正しいのだろうか。
そして、業界を再編することで生産コストが安くなれば、本当に「農業者の所得は向上する」のだろうか? 農業の改革というが、それは農業生産者の所得が向上し、若い後継者や担い手が「農業で食っていける」と確信できる状況をつくらねば、この国から農業そのものがなくなってしまうことにつながる。その肝心なことの議論がされず、生産資材価格が高いというだけの「農業改革」や「農業は成長産業」論は、まやかしの議論ではないだろうか。
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