日米新通商交渉で牛肉自給率16%へ-鈴木教授試算2019年4月24日
TPP11と日欧EPAが発効し、加盟国からの畜産物輸入が増えているが、そこに日米新通商交渉による貿易自由化がさらに進むと、自給率がさらに低下し、生乳では現在の62%が28%に、牛肉は40%が16%に低下するとの試算を東京大学の鈴木宣弘教授が4月23日に行われた講演会で指摘、総自由化によって「輸入増加のスピードが思っていた以上に早い。国内農業がなくなれば私たち国民の命が縮む。もっと危機感を持たなければならない」と警鐘を鳴らした。
講演する鈴木教授
鈴木教授は国会内で開かれた「TPPプラス交渉をただす院内集会」(よびかけ:TPPプラスを許さない全国共同行動)で「失うだけの日米FTA」と題して講演した。
そのなかで、日本はこれまでの自由化や市場原理重視の国内政策ですでに農業生産力が弱まっており、「そこに一層の自由化が上乗せされる全体の影響の大きさを見なくてはならない」と指摘、「酪農では都府県の生産減が続いているところに、日欧EPA、TPP11、さらに日米FTAが加わると、飲用牛乳が不足し子どもに牛乳を飲ませられない日が頻発する危機は目の前。チーズが安くなったと喜んでいる場合ではない」と警鐘を鳴らした。
鈴木教授の試算によると今後、飲用乳消費は減少するがチーズ消費が増えて生乳需要は一度減少後、反転する。しかし、すう勢的な生産減少が大きく、そこに自由化の影響が加わって自給率は2015年の62%が2035年には28%まで低下する。
牛肉は貿易自由化による価格下落で消費減少は一定程度緩和されるが、すう勢的な生産減少に貿易自由化が追い討ちをかけ、自給率は40%から16%に低下する。豚肉はさらに生産減少が加速され、51%が11%となる。
また、果実は比較的高い関税率(りんご:生果17%、果汁34%、ぶどう:生果17%、果汁29.8%)が即時撤廃される影響が大きく、自給率40%が28%へと低下するとの試算だ。
一方、米はすう勢的な消費の減少が大きいため大幅な米価下落で需給が調整されるか、飼料用米や輸出米が増えて過剰が吸収されないと米余りが増幅していくという。総生産は稲作農家が減って2030年には670万tとなる見込みだが、同時に消費も600万t程度となるため70万tも余ると試算。米余りで自給率は127%となるが、畜産農家が壊滅的な状況になれば飼料用米の行き場を失うことになる。
鈴木教授は総じて農業の規模拡大も進むが、貿易自由化で離脱や縮小による生産減少分をカバーできず、総生産が減少する局面に入っており事態は深刻化していくとする。飼料用米政策も畜産農家が減れば政策として機能しなくなり「現行政策の延長線上では食料自給率の低下に歯止めをかけることは極めて困難な状況に直面している」と強調した。
そのうえで自給率が1割水準になったら、安全・安心な国産農産物を選ぶことができなくなり、それは農家が困る問題ではなく「自分たちの命の問題だということを消費者にもっと明確に伝え、消費者と生産者の双方向のネットワークを強化して、食料輸入を排除し、自身の農業経営と地域の食と暮らしを守らなければならない。それこそが強い農林水産業だ」と強調した。
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