事故防止にGAPを リスクチェックを徹底 日本農業労災学会がシンポ2019年5月20日
GAP(生産工程管理)を活用して農作業事故を減らせないか。この視点で、日本農業労災学会(門間敏幸会長=東京農業大学名誉教授)は5月17日、東京農大世田谷キャンパスでシンポジウムを行った。GAPは農業経営の改善とともに、経営上のリスクをチェックすることで、農業労働の安全対策に有効であることを確認した。
農作業事故防止で意見交換
GAPの導入には、大きく分けて食品安全・環境保全・労働安全衛生の確保という3つの目的があるが、農業分野では「売り上げ・販路拡大と生産物の安全・安心が中心であり、安全な労働環境の整備を目的とする取り組みは少ない。なぜ農作業の安全対策に結びついていないか」と、シンポジウム座長の白石正彦東京農業大学名誉教授が問題提起した。
実際、農業分野でもGAP導入が進んでおり、農水省の調査では2800以上の産地でGAPに取り組んでいるが、農作業による死亡事故は年間300人を超え、事故防止の呼びかけにもかかわらず、事故死はこの数年、減っていない。
門間名誉教授は、生産者主導のGAPについて、「農業経営持続の条件としての労働安全の取り組みを第1の目的にすべき」として、「これまで運動論的な性格の強かった労働安全の取り組みに対して、組織的に実効性の高い労働安全の手段になりえる」と指摘。またJAにとっては、団体認証で取り組むことによって、多くの生産部会の生産者を巻き込むことができる。「労働安全の取り組みの効果を高める可能性がある唯一の手段である」と、JAによる団体認証の意義を強調する。
団体認証の取得について、JA全中JA支援部営農担い手支援課の城向孝洋氏は「生産者同士の声掛けが生まれた」と、そのプラス面を挙げる。一人だけでは忘れたり、面倒だと思ったりすることも、仲間と一緒だと意識的に取り組むことができるようになる。
農作業事故ゼロ運動を展開している福島県と同県のJAグループは、農作業事故防止に向けたとりくみは、GAPで取り組む労働安全管理と密接に関連することからGAP手法の導入・実践を通じて現場での改善を進めている。報告した東京農大の半杭真一准教授は「農作業事故防止には、営農指導の主体である『人』の育成が欠かせない」と、マンパワーの重要性を指摘する。
特に、危険性への認識が薄く、講習会にも出席しない高齢者には、チラシやでは伝わりにくく、人を介し、実体験に基づいた会話で直接伝えることが重要となる。「事故が減らない理由はある程度明らかになっている。GAPがどこまで事故発生の抑止力になり得るかが、今後のGAP普及の鍵になる」と、今後の研究に期待する。
実際、「ASIAGAP団体認証」を取得し、農作業の安全対策に取り組んでいる団体として、JAいわて平泉「黄金の風」栽培研究会の小野正一会長が報告。同会長は「GAP手法は自分の経営改善ツール」と言い切る。農作業を生産工程ごとに確認し、記録に残し、そのデータを活用するGAPの手法は、当然ながら農作業のリスクチェックも対象になる。
小野農場では、徹底したリスクの見える化を行った。草刈り時の滑落、大型機械のスリップなどのほか、施設までの坂道のリスクもGAP審査の対象になった。細かいところでは、エンジン停止後、操作レバーにヘルメットを置き、装着忘れを防ぐなど、作業習慣の改善も行った。小野農場には、年間100人以上の人が研修視察に訪れており、地域への水平展開が広がっているという。
神奈川県秦野市の伊藤隆弘さん(60)は、新規就農で170aのブルーベリーを栽培する農家で、GAPを利用して農作業のルールを学ぼうと考え、JGAP指導員研修を受講。以来「JGAPを農作業のルールブックとして利用している」と言う。就農後、ブルーベリー研究会で団体認証を取り、さらに平成29年には個人でASIAGAPを取得した。
労災防止面でのGAP取得の効果として、伊藤さんは、(1)ヒヤリハットカードの習慣化、(2)農機格納庫の整理整頓と清掃、(3)農場管理ツール(アグリノート)の活用を挙げる。特にアグリノートの活用では、「衛星写真上で、ほ場周辺のリスク評価と管理が効率的にできる、これによってヒヤリハットカードによる改善項目を逐次更新している」と言う。
なおシンポジウムでは、このほか(一財)日本GAP協会の荻野宏事務局長が「第三者認証によるGAPの現状と労働安全について」報告した。
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