基本理念に平時からの食料安保確立 基本法検証部会2023年2月27日
食農審基本法検証部会は2月24日10回目の会合を開き、食料・農業・農村基本法に盛り込む「基本理念」について議論した。
現行基本法の基本理念は「食料の安定供給の確保」、「多面的機能の発揮」、「農業の持続的な発展」、「農村の振興」の4つで構成されている。
基本法検証部会は昨年から、基本制定以降のこれら理念をめぐる情勢変化や新たな課題などを検証してきた。
これまでの議論を整理し農水省は24日の会合で、今後の政策課題を示した。
1つは平時でも食品アクセスに困難を抱える国民が増加していることをふまえ、平時から食料を確保し国民すべてが入手できるようにするという考え方の必要性だ。
また、生産資材も含めて何時でも必要な量を安価に輸入できるという時代は終わり、農産物と生産資材の国内生産の拡大へ転換する必要が出てきている。
さらに温室効果ガス排出削減など環境に配慮した農業を進めていくことも課題となっている。
一方、長期にわたるデフレ下で低価格競争が進み、価格形成に生産コストが十分に配慮されず農業基盤の弱体化を招いており、適正な価格形成が行われるための環境整備が必要になっている。
加えて人口減少が続くなか、国内農業生産力を維持するためには、国内市場だけなく海外への輸出も視野に入れる必要や、農業者も減少するなか、スマート農業などで生産性の向上を図ること、農村維持には関係人口の増加のための施策が求められる。
今後の方向をこのように整理したうえで基本理念の第一に「国民一人一人の食料安全保障の確立」を盛り込むことを提起した。
そのうえで▽買い物困難者の解消など食品アクセスの改善、▽国内農業生産の増大を基本としつつ、輸入の安定確保と備蓄活用の一層の重視、▽農業を海外市場視野も入れた産業へと転換、▽適切な価格形成に向けたフードシステムの構築の4つを施策の方向として打ち出す考えを示した。
基本理念の2つ目は「環境負荷の低減を図る持続可能な農業・食品産業への転換」。環境負荷の低減に貢献する農業への転換をめざすことを理念に掲げる。
3つ目は「人口減少下においても生産力を維持できる生産性の高い農業経営」。離農する経営の受け皿となる経営体への農地集約と、スマート農業技術や新品種の導入などで生産性向上を図ることを基本理念に掲げる。
4つ目は農村政策に関わる理念で「農村への移住・関係人口の増加、農村コミュニティの維持、農村のインフラ機能の確保」。現行基本法では単に「農村の振興」とされていたが、都市からの移住促進や、関係人口の増加も含めたコミュニティの維持など具体的な方向を打ち出す。また、用排水路など食料生産に必要なインフラ機能の確保も新たな課題であることを理念で示す。
会合ではこうした農水省の考えをもとに意見交換した。
食料安全保障について「生活様式が多様化しているなか国民一人一人の生活を支える政策が必要」寺川彰丸紅副社長)との意見が出る一方、「食料安全保障は国家レベルの施策ではないか。国民一人一人の食料安保はしっくりこない。国民への食料の安定供給がなされるように何がなされるべきか、と整理したほうが分かりやすい」(二村睦子日生協常務理事)、「食料の安定供給が上位概念ではないか」(合瀬宏毅アグリフューチャージャパン理事長)などの見方も示された。
ただ、「国民一人一人」という考え方はFAО(国連食糧農業機関)の食料安全保障の定義「すべての人がいかなる時も~十分で安全かつ栄養ある食料を入手可能」に即したものであり、国際的な考え方をふまえ「一人一人、家庭単位で食料安保を考えるべき」(清原昭子福山市立大教授)との指摘もあった。
海外市場も視野に入れた輸出について、食料安保にとって必要で「農業団体は輸出拡大に努める、と明記すべき」(真砂靖TH総合法律事務所特別顧問)との意見や「自給率を上げていき生産力を上げていくには輸出拡大が必要」(柚木茂夫全国農業会議所専務)との意見がある一方、自給率が38%と低迷し国内への供給が不足している現状のなか、「海外市場も視野に入れた産業への転換、には違和感がある。国内生産の増大を基本とするといいながらも実際は縮小。従来以上に国内生産の強化、輸出依存からの脱却を打ち出すべきだ」(中家徹JA全中会長)との意見も出ている。
そのほか農地を「エネルギー生産の場としても位置づけSAF(持続可能な航空燃料)のため作物生産するなど新しい農業の広がりを検討すべきだ」(大橋弘東大副学長)との指摘をはじめ、耕作放棄地も利用するなどエネルギー政策と一体化して農地利用を考えるべきとの意見も出ている。
今回は「多面的機能」について基本理念では言及されず、環境に配慮した農業への転換が打ち出されている。全中の中家会長は「多面的機能は引き続き基本理念として位置付けるべきだ」との意見を述べたほか、柚木全国農業会議所専務は「水田の機能を評価し基本に位置づけるべき」との考えを示した。
そのほか農村政策では、農業者が減少するなか、農業生産を維持する関係人口の増大や半農半Xなどの多様な担い手との連携の必要性を指摘する意見、「中山間地域は生産量の4割を占める。農村という地域があり、その上に農業がある。農業政策は農村政策は切り離せない」(茂原荘一群馬県甘楽町長)といった指摘が出ている。
適切な価格形成に国がどう関与するかは意見が分かれている。所得は国が保証していくべきで国が価格形成に関与すれば国民は反発する(合瀬委員)という意見がある一方、「適切な価格形成は今回の目玉ではないか。どうすれば実現できるか事業者、消費者が参加して検討すべき」(中家委員)と具体化を求める意見も出ている。「国の関与」について今後の論点になる。
次回は3月14日に開催される。
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