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シリーズ:農は国の宝なり

2019.06.04 
【農は国の宝なり】第2回 未来のふるさとづくり ―個性輝く産地づくりをめざす一覧へ

長野県南佐久郡佐久穂町 佐々木勝町長に聞く
聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長

 今回は長野県南佐久郡佐久穂町の佐々木勝町長へのインタビューを紹介します。本町は、2005年(平成17年)3月20日に旧佐久町と旧八千穂村が合併して発足しました。人口はおよそ1万人。主要な産業は農林業。

20190604 ヘッドライン 長野県南佐久郡佐久穂町の佐々木勝町長佐々木勝町長

 

◆魅力的な町の基本理念
 
小松;町の基本理念である、「水と緑のうるおい 人の営みが奏でる未来のふるさと」が魅力的ですが。

佐々木;合併協議の中で、新町の理念として定められたものです。魅力的と言っていただきうれしいのですが、何を言いたいのかわからない、と言った批判もありました。
 
小松;確かに、ちょっとわかりにくい、というのが本音です(笑い)。

佐々木;ですよね。実は、私自身もそう感じた時期もありました。でもね、この理念のもとで佐々木定男前町長を先頭に、新しいまちづくりにみんなが必死に取り組んできた15年を経て、今あらためてこの言葉の意義深さを実感しています。

小松;少し解説していただけますか。

佐々木;「水と緑のうるおい 人の営みが奏でる」とは、「豊かな自然の恵みを、外から来る人や新たに生まれてくる子どもたちの財産となるように大切にするとともに、人や文化の交流によって、未来に向けて発展させること」です。
 「未来のふるさと」とは、新しい価値観を付加し、愛着と誇りの持てる地域を作り上げていくことを表現しています。新たな価値観を受け入れる包容力を持つ地域に、人は集まると言われていますからね。

 

◆活躍する新規就農者

小松;合併前の2001(平成13)年からのデーターですが、約20年の間に60名の新規就農者が来られましたね。

佐々木;ユニークな方が多いのですが、初期の新規就農者の萩原紀行さんが、今年2月に開かれた(社)日本有機農業普及協会主催の野菜の栄養価の高さを競う「オーガニック エコフェスタ栄養価コンテスト」で総合グランプリを受賞されました。
 興味深いのは、このコンテストの目的が、「栄養価の高い高機能野菜を生産している農家は誰なのか」を明らかにして、グランプリ受賞の技術を伝授してもらうことです。

小松;萩原さんは、佐久穂町の農家にも伝えねばならないわけですね。

佐々木;彼は、「高機能野菜を栽培するには水が極めて重要。この町の自然と栽培方法が噛み合えば、全国最高峰の高機能野菜を生み出すことができそうです。今回の受賞は、佐久穂という土地で、素晴らしい高機能野菜を皆で収穫できるようになるための通過点です」と語っています。近い将来、高機能野菜産地が誕生します(笑い)。

 

◆腰を据えた農畜産物のブランド化

小松;他の農業の動きも意欲的ですね。

佐々木;地域が誇るブランド品として、「きたやつハム」があります。これは、旧八千穂農協が1987(昭和62)年から取り組んだ畜産加工です。農協合併が続く中、現在は農協から独立しています。その品質は国の内外から高い評価を得ています。ふるさと納税の返礼品として最も人気があります。

 


20190604 ヘッドライン きたやつハムの放豚きたやつハムの放豚

 

小松;新たなブランドづくりに取り組んでおられるようですが。

佐々木;今秋から「オータムキュート」という品種のプルーンを、首都圏の高級果物店と取引します。手応えがあるので、新たなブランド品に仕上げたいと意気込んでいます。それから、腰の据わった堅実経営で頑張っているのが酪農です。現在8経営体で3億4000万円ほどの売り上げです。

 

◆廃校の再生

小松;廃校になった小学校が私立の小学校として再生したそうですが。

佐々木;児童減少で2012年に閉校した小学校が、異年齢グループで学ぶイエナプラン教育を実践する国内初の私立小学校として、今年4月に再生しました。校名は地域の名前から大日向(おおひなた)小学校です。
 大日向といえば、戦前に日本が国策として進めた「満州開拓移民」のモデル例とされた大日向村です。そこに「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる。」という建学の精神をもった学校が作られるのも感慨深いものがあります。生徒数は70名です。

 

20190604 ヘッドライン 大日向小学校大日向小学校

 

◆大日向食堂は交流拠点もめざす

小松;給食というか食堂の運営もユニークなようですね。

佐々木;まちづくりを意識した事業企画や店舗運営を行っている会社が給食を任されています。「大日向食堂」とも呼ばれ、有料で昼食やお茶を楽しむことができます。

小松;なんか、「おとな食堂」的な役割も期待できますね。

佐々木;そうなんですよ。地域の高齢者の方が時々集まって、生徒たちと交流しながら、ランチやお茶を楽しめる場所です。

小松;地元の食材もしっかり利用していただけるとありがたいですね。

佐々木;そのような交流の兆しも出ています。かつての小学校の時にも、住民が収穫した野菜類を給食の食材として提供したこともあったので、やれる気がします。できたら、学校農園などに取り組んで、地域の重要な営みである農業を身近に感じていただければありがたいですね。
 それから、町立の小学校もありますから、両校の生徒たちの交流ができたら、生徒にも教員にも保護者にも化学反応が起こるかもしれませんね。

 

◆JAは個性輝く小規模産地も大切に

小松;これまでJAとの関係が話題に上りませんでしたが。

佐々木;JA佐久浅間にもJAグループにも期待しています。本町のように、日照量の多さ、水の豊かさ、1日の寒暖差の大きさなど、大いなる自然の恵みに、科学的な知見を加え、地域力で、小さいからこそ個性的にならざるを得ない産地では、役場の職員だけの力には明らかに限界があります。農家を中心に据えるJAやJAグループの総合的支援が不可欠です。ただJAも大きくなりすぎたようです。なかなか、手も気も回らないようで、残念です。

小松;長野県のように多様な地域、多様な産地を抱えているJAグループは、いかにして個性輝く産地を大切にしていくべきか、最後に大きな宿題をいただいたようです。ありがとうございました。

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