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シリーズ:農は国の宝なり

2019.09.20 
【農は国の宝なり】第5回 農林業を守り、自然豊かな地域であり続ける 神奈川県山北町湯川裕司町長に聞く一覧へ

 今回は神奈川県山北町の湯川裕司町長へのインタビューを紹介します。
 山北町は東京から西へ80km、横浜市からは直線距離で50km、神奈川県の最西端に位置し、山梨県・静岡県と境を接しています。面積は224.61平方kmで、その約90%は丹沢大山国定公園と県立自然公園などの山岳地帯。森林セラピー基地に認定されていることもあり、自然を求め多くの観光客が訪れています。
 特産品は、「足柄茶」と「みかん」。2019年8月1日現在、世帯数4226戸、人口1万0174人です。

◆オリーブ栽培の狙いは?

山北町長 小松 まず、オリーブ栽培をすすめておられることに驚きました。

 湯川 本町は水田が少ない中山間地域ですが、農林業は大変重要な産業です。茶に、みかん、うめ、キウイフルーツなどの果樹生産を中心に取り組んでいます。オリーブは果樹に対する鳥獣害対策の一環です。オリーブの実は堅いのでシカも食べないだろうということと、加工用途が広いので数年前から取り組んでいます。現在幼木1200本ほどが栽培されており、これからです。


◆「足柄茶」と「みかん」の産地であり続ける

 小松 町長は県内の茶農家らで組織される神奈川県茶業振興協議会の会長ですが。

 湯川 本町がある丹沢・箱根山麓一帯は茶の適地で、「味と香り」に優れた銘茶「足柄茶」が生産されています。生産販売システムの中心的役割を担うのが、(株)神奈川県農協茶業センターです。栽培指導を県などの関係機関と連携して行い、一貫システムを構築し、生産者には高い利益を、消費者には高品質なお茶を提供しています。そことの連携を強化し、茶業振興をめざしています。

 小松 オーナー制にも取り組んでおられますが。

 湯川 高齢化も進む中で、将来のことを考えて手を打っています。紅茶や抹茶への利用や加工、そしてオーナー制度です。年100名ほどの方にオーナーになっていただき、茶摘み体験などにも来ていただいています。目や身体で体験することで、まさに「あなただけのお茶」づくりです。

 小松 みかんはいかがでしょうか。

 湯川 昭和30年代の選択的拡大政策のもとで、山を拓いてみかん園がどんどん作られました。当時は北限だったようですが、農家の努力によって産地となりました。現在も200戸近くの農家がみかんを作っておられます。


◆山北ライフを謳歌する移住者たち

山北町

富士山も望める自然豊かな山北町

 小松 ユニークな移住者の方も多いですね。

 湯川 2009年度に定住対策課を設けて、取り組んできました。この10年間で町に転入された方は2500名ほど、そのうち、空き家バンクを活用された方は160名ほどいます。
 まず農林業で活躍されている女性が二人おられます。
 一人は本県出身のAさん。大学卒業後、山地(やまち)酪農を実践する岩手県の牧場で働いた時、偶然本町の方が視察に行き、本町での牧場経営をすすめたことから、2016年秋に移住となりました。県営大野山乳牛育成牧場の跡地に「薫る野牧場」を2018年に開設し、5頭のジャージー牛で山地酪農を始められました。
 もう一人が、Bさん。大学で森林や林業について学び、国内外で林業や森づくりに携わり、「地域として森づくりをしている所」を探した結果、本町に出合うわけです。移住して以来、地域の森を守っておられます。今年行われた統一地方選では、山の利活用や子育て支援強化を訴え、町議となられました。
 それから芸術系の方です。一人が木彫家のCさん。2009年に町がすすめる定住対策第1号として移住され、チェンソーアートで活躍されています。「間伐材も豊富で、制作時の音や材料の問題が一気に解決した。これからも色々な作品に挑戦したい」と、山北ライフを楽しんでおられます。
 それから、Dさんご夫妻です。お二人は、廃校になった小学校に一目惚れし、2012年に移住されました。「都心から近くて、自然が豊かだから」とおっしゃって、校舎や隣接の旧幼稚園舎で制作に励んでおられます。


◆自然を守るための農林業政策 

 小松 皆さん、自然豊かなこの町での生活を満喫されておられますね。その自然を残し続けるためにも、農林業政策に対してご意見をお聞かせください。

 湯川 中山間地域等直接支払制度は継続して欲しい制度ですが、そこに住む人々の主体的行動を前提としています。でも、それすらできない方々が少なくないことを考えると、現場の切実さが汲み取られていないと思います。
 それから、政策として、農業、農家、農地、どれを守ろうとしているのかよく分からない。農業に魅力を感じる人や組織が新規参入しやすい、そんな環境整備を核とした政策を望んでいます。


◆求められる職員教育と地域との一体化

 小松 JAに期待することをお願いします。

 湯川 近年、保険加入に伴うトラブル等が社会問題化していますから、ぜひ職員教育に力を入れて欲しい。
 JAかながわ西湘は2市8町をエリアとする広域大規模JAのため、以前と比べると組合員さんとの接触も少なくなったし、地域に対する細やかな関わりも減っています。だからこそ、町とJAが連携しないと地域が廃れます。これからも課題解決型の良好な関係を続けていきたいですね。


◆地域資源を大切に守り、魅力あふれるまちをつくる

 小松 山北町のこれからについてお聞かせください。

 湯川 現在は、そこに至る林道が工事中のため通行することができませんが、丹沢の秘境と呼ばれる「ユーシン渓谷」の水面は、美しい青色に輝くことから「ユーシンブルー」と呼ばれ、2017年度に商標登録を受けました。環境は大きく変化しますが、農林業を営むことで昔から残り続ける地域資源を守り、新しい動きとの相乗効果で、「みんなでつくる 魅力あふれる元気なまち」を目指します。
 
 小松 今度は、ゆっくり山北町を味わいにお邪魔したいと思います。ありがとうございました。


本シリーズの一覧は下記からご覧いただけます
【シリーズ・農は国の宝なり】聞き手:小松泰信(一社)長野県農協地域開発機構研究所長

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